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一話

大阪の茶屋町の近くに、お酒を飲める店が軒を連ねる場所がある。

その群から少し離れた場所に俺のお気に入りの喫茶店があって、俺はその日もその喫茶店にいた。

俺はここで飲み物を飲みながら読書したり勉強するのが好きだった。

前に一度、俺が高校生だと初めて知ったマスターが訊いてきたことがあった。

『高校生さんでこういったところを利用されるのは珍しいですね』

『ファーストフードやチェーン店のコーヒーショップは性に合わないんすよ』

こんな会話をした気がする。

ここのマスターは標準語で話し、それに俺もつられることがある。

まぁそんなわけでその日もこの店の奥で俺は静かに読書をしていた。

本を読んでいるときの俺の集中力は高く、周囲の様子や時間の経過なんてまったく見ていなかった。

マスターもその日は心ここにあらずな状態だったし、だからこそ俺とあいつは出会うことになった。


「ふぅ」

俺は本を読み終え満足したため息をついた。

上・中・下巻を全て読み終えたときのこの感じがとても好きだ。

今日の物語はファンタジーでハッピーエンド、この充足感は三割増しだ。

俺は本を鞄にしまいコーヒーに口をつけた。

下巻の序盤からほったらかしだったので冷えきっているが、それでも充分美味しい。

そこで俺は考えた。

(今何時やっけ?)

腕時計を確認すると5時半過ぎ。

この喫茶店は確か5時だったと思い、俺は店内を見た。

客はもう俺以外居なくなっており、マスターはカウンターに肘をつきボーッとしている。

俺はコーヒーを飲み干し、マスターに声をかけるためカウンターに近付いた。

「あの、」

「はっ!」

俺が声を掛けるとマスターは急に立ち上がった。

「うわっ」

「あ、あぁすみません…」

「や、俺もいきなり声掛けてしまったんで」

お互いに謝り、二人で笑ってしまった。

「もうこんな時間なんですね」

壁にかかった時計を見てマスターが言った。

「すいません、閉店時間以降も居座ってしまって…」

「いえいえ!こちらが気付かなかったのですからお気になさらず」

俺が頭を下げるとマスターは笑って許してくれた。

「あ、どうせなのでもう一杯いかがですか?奢りますよ」

「じゃあお言葉に甘えて」

俺はカウンターに腰かけた。

カウンターに座るのは初めてだ。

「どうぞ」

目の前に赤色の液体が入ったグラスが置かれた。

(これ、どう見てもワインな気するぞ…)

匂いを嗅いでみても、それは明らかにアルコールを含んだアレだった。

別にお酒を飲むことに抵抗がある訳じゃないが、未成年である俺が酒を飲んだせいでこの店が警察に探られることを考えると、飲むのは憚られた。

俺が飲まないのを見て、マスターが言った。

「ワインは苦手ですか?」

「や、苦手っていうか、俺未成年なんで…」

「あ、19歳でしたっけ?」

「高校生三年生なんですが…」

マスターはどうやら忘れていたらしい。

「あぁあ…!そういえばそうでしたね!すいません、今日はぼんやりしていて」

確かに今日のマスターは本調子ではない。

いつもなら絶対に閉店時間をに見逃したりしない。

「なんかあったんですか?」

ワインの代わりに入れてくれたコーヒーを飲み、俺はマスターに訊いた。

「こういった事をお客様に言うのはマスターらしくないかもしれませんが…」

マスターは俺に飲み物のお代わりと、自分も一杯あおり話し出した。

「ふぅ。実はこの店は夜も開いておりまして、その間はバーとして営業しているんです。バーとして開けたのは最近なのですが、その初期から贔屓してくれていたお客様が、実はここらの不良グループの元リーダーだったみたいで…」

そこでマスターは大きくため息をついた。

「ここらの不良グループですか。めっちゃタチ悪そうですね」

梅田周辺でいわゆるミナミと離れているとはいえ、大阪の真ん中だ。

外れの田舎とは根底から違う。

「まぁその人自身は物静かな穏やかな方なんですけどね。彼の後輩がこの店をを溜まり場にするようになったんです。でもそれと入れ替わりに彼は来なくなってしまって…」

「え?」

「なぜ来てくれなくなったんでしょうか?」

(そっちかい)

俺はてっきり店を荒らされたりしてるのかと思った。

「その後輩とやらに訊いてみたらいいんちゃいますかね?」

「おぉ、その手が!」

俺の助言は役にたったようだ、マスターは嬉しそうに何度も頷いている。

(カッコいい人なんかな)

「アドバイスありがとうございます!お摘みは食べられますか?」

「え、いや、悪いですよ」

「お気になさらず!お礼です!」

遠慮した俺にかかわらず、目の前に美味しそうなチキンとポテトが置かれた。

(うまそう…)

「いただきます」

俺がチキンを持ち上げ口を広げた瞬間、

カランカラン。

「ちーっす」

扉が開き、いかにも軽そうな男が入ってきた。

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