あの空に向かって
私には夢があった。幼稚園の頃からの夢だ。
その夢を叶えるべく今日ここに来た。最近あまり来ないが幼稚園の頃から馴染みの場所であるのは変わりない。
私には、夢の障壁となるものの存在がわかっていた。
そう、それは「恐怖」
その夢を達成するために必要なものは、知恵でも技術でも運でもない。この恐怖に打ち勝つ心が必要なのだと、小学生の時に悟った。
それから私は、恐怖に打ち勝つためにあらゆる努力を惜しまなかった。
ある時は、お化け屋敷に友人と出かけて、怖がりたじろぐ友人を一人残して探索に入ったし、ある時は、高層マンションの屋上からどれだけ身を乗り出せるかチャレンジもした。
動物園のトラの檻をわざと蹴飛ばして猛獣を威嚇したり、今思えばそれは本当に涙ぐましいものであった。
そしてついに、通りすがりの強面のお兄さんに道を譲らなかった事で、私は恐怖を克服したと自覚するに至った。
今日は、証人として友人を連れてきている。
明。高校の同級生であり、友人でもある。
私は、学校の制服を脱いで身軽になり、腕をまくって準備が出来ると、おもむろにその上に飛び乗る。
握り締めた鋼鉄のチェーンに汗が纏わりつくのがわかったが、もうあとには引けない。
足に、腕に、バランスよく力を入れて段々加速していく。
風が体に体当たりしては、心地よくその間を吹き抜けていく。
よし、ここまではいつも通り。ここまでは幼稚園の頃の私ですら問題は無かった。
今、体が上に下に、真横から見ると振り子が半円を描くようになっているはずだ。
ここからだ!
恐怖が、私の頭脳を支配して、体を蝕もうとする。
もう怖い、これ以上加速できないと、恐怖が私の頭のプログラムを書き換えてしまうのだ。
このままでは夢は叶えられない、幼稚園からの取り組みは無駄になってしまう。
それでもいいのか!
あらん限りの勇気を振り絞って、恐怖と対峙する。
もうすぐ、もうすぐこの壁を越えられる。あと少しで夢が、あの夢が叶う……
「聡、やっぱり無理だって、ブランコで大車輪なんかできるわけないだろ」
明が冷たくそう言った。
「ちぇっ。もう少しなんだけどな」
私は、その場にしゃがみ込んで肩で息をしながら、偉そうにこちらを見下ろしているあの空に向かって嘯いた。