第10話 地縛霊、ファッションに目覚める
――麗奈の部屋でファッションショー――
俺が学校から帰ると、二階からなにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「ナナちゃん、ちょっと動かないで! 今ピン外すから!」
「う、うむ……この“ジーンズ”という装甲は、意外と柔軟性があるな……だが、腰が……!」
……嫌な予感しかしない。
「……まさかとは思うけど」
俺は恐る恐る階段を上がった。
そして、麗奈の部屋のドアを開けた瞬間――。
「見よ、圭吾! これが“カジュアルコーデ”というやつだ!!」
そこにいたのは、全身をデニムとフリルで包んだ異世界の聖騎士。
鎧は――無い。
代わりに、麗奈の服。
丈の合っていないパーカーに、ショートパンツ、そして頭にはキャップ。
髪を後ろで束ねて、笑顔でポーズを取るナナ。
「ど、どうだ?」
「どうだ、じゃねぇよ!?!?!?」
思わず叫んだ。
麗奈は大爆笑していた。
「似合ってるでしょ~!? ナナちゃん、めっちゃスタイルいいから映えるの!」
「“映える”……その言葉、悪くないな」
「いや気に入んな! 意味違うからな!」
ナナは鏡の前でくるりと回ってみせた。
スカートの裾がふわりと舞う。
「ふむ……この服、動きやすい。戦闘にも支障がない」
「戦闘すんなよ!?」
「だが、肩の露出が気になるな。敵に斬られそうだ」
「誰と戦う前提なんだよ!!」
麗奈は完全にノリノリで、次のコーデを用意していた。
「はい次、ストリート系いくよー! ナナちゃん、これ着て!」
「ストリート……路上戦か?」
「違うから!!!」
麗奈は笑いながら服を渡し、ナナは真面目に受け取る。
その律儀さが逆に面白い。
数分後。
ドアが開き――。
「どうだ?」
そこには、パーカーにスニーカー、ダメージジーンズのナナ。
そして、なぜかサングラス。
「完全にヤンキーじゃねぇか!!」
「ふむ。悪くない。威圧効果があるな」
「いやそういう目的じゃねぇよ!!」
麗奈は腹を抱えて笑っていた。
「ナナちゃん、こっちもいこ! ガーリー系!」
「“ガーリー”? ……新しい戦術名か?」
「違う! かわいいやつ!」
「かわいい……?」
ナナは少しだけ考え込んだ。
“かわいい”という概念が、彼女にとってまだ曖昧なのだろう。
だが、鏡の前でふと微笑んだその表情は、どんな服よりも“かわいかった”。
――で、次の瞬間。
「麗奈。これ、どう着るのだ?」
「え、それ逆! それスカートだから!!」
「なっ……!? これは腰に巻くのではないのか!?」
「違う違う違う!!」
部屋の中はすでに戦場。
服の山、笑い声、そしてナナの真剣な表情。
まるで鎧を整えるように、服の袖を通していく姿はどこか神聖ですらあった。
麗奈はスマホを構え、撮影を始めた。
「はいナナちゃん、ポーズ!」
「こうか?」
片膝をついて剣を抜く仕草。
「戦闘ポーズじゃなくてモデルポーズ!!」
「難しい……戦いより難しい……!」
笑い転げる麗奈。
ナナは頬を少し赤くして、もう一度鏡に向き直った。
「……服を着替えるだけで、印象がこうも変わるのか」
呟きは静かで、どこか感慨深かった。
彼女の世界では、鎧は“身を守るためのもの”。
だが、今のナナにとっては、服が“生きている証”のように見えた。
俺はドアの前で腕を組んでいたが、ふと口を開いた。
「……似合ってるよ」
ナナが振り返る。
「ほんと!?」と麗奈がにやける。
ナナは、少しだけ微笑んで答えた。
「……そうか。なら、悪くない」
その笑みがなんか反則的にきれいで、俺は咳払いでごまかした。
「ま、まぁ……うん。悪くない」
「兄貴、照れてる~!」
「照れてねぇ!!!」
そんなやりとりの最中――階下から母さんの声が響いた。
「ちょっとー! ナナちゃん! 洗濯物どうしたの!? 鎧干してあるんだけど!?」
「!? あれは……っ!!」
ナナは慌てて部屋を飛び出した。
麗奈と俺は顔を見合わせて爆笑する。
「……あの人、やっぱ鎧が本体なんじゃ」
「たぶんね」
その夜、麗奈はナナの“ファッションショー記録動画”を編集し、「#地縛霊 #着せ替え騎士」としてSNSに投稿。
結果、またもやバズった。
コメント欄には――
「センス良すぎ」
「新しいVTuberデビュー?」
「コスプレじゃなくてリアル感あるのがすごい」
……リアルなんだよ、ほんとに。
そして翌朝。
ニュースアプリのトレンド欄に、こう出ていた。
『謎の超美人コスプレイヤー、“西洋風騎士ファッション”として話題に』
「いや、もう止まんねぇなこれ……」
俺が頭を抱えている横で、ナナは平然と鏡を見つめていた。
――ショート丈のカーディガンを着ながら。
「……この服、軽くていいな。動きやすい」
「もうそのセリフ、聞き飽きたよ……」
「次は、季節に合わせた装備を選びたい」
「それ“コーディネート”って言うんだよ」
「なるほど。では今日の任務、“こーでぃねーと”とやらを極める!」
「任務じゃねぇ!!!」
笑い声がまた家中に響いた。




