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田中さんちの地縛霊  作者: 平木明日香
第1章 いや誰だよお前!?
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第8話 地縛霊、ゲームにハマる



田中家のリビングでは、今日もちゃぶ台の上に文明の香りが漂っていた。

テレビの前には、ピカピカのゲーム機。

コントローラーが二つ。

そして、なぜか目を輝かせているナナ。


「……それが“ゲーム”というものか?」


麗奈がスイッチを入れると、画面にタイトルロゴが現れた。

効果音が鳴り響き、ナナはびくりと肩を揺らした。


「音が鳴った!? 映像が動いた!? これは……魔導の仕掛けか!?」


「いや、電気とデータの力な」


「でんき……?」


「もういい、説明しても無理だわ……」


俺はちゃぶ台の端に座りながら、二人のやり取りを見ていた。

どうやら麗奈が“文化交流の一環”として、ナナにゲームを教えることにしたらしい。


「よーしナナちゃん! 今日は“格闘ゲーム”やろっ!」


「格闘……だと?」


ナナの目が、獲物を見つけた狼みたいに光る。


「……まさか、戦いの訓練をこの中でできるのか?」


「う、うん? まあ、そんな感じ……?」


その瞬間、ナナの表情が一変した。

真顔。完全にスイッチが入った。


「……よかろう。訓練だな。手合わせ願おう」


「いや訓練じゃねぇし!」


麗奈がにやりと笑い、コントローラーを渡した。


「じゃあナナちゃん、これが武器――じゃなくてコントローラーね!」


「武器、か」


「違う違う違う!」


説明を聞くナナの顔は真剣そのものだった。

ボタンの位置を指差しながら「これは剣の一撃か?」「これは魔法発動?」などと質問を繰り返し、麗奈は汗だくになって答えていた。


「よし、理解した」


「えっ、もう!?」


「剣を振る、跳ぶ、避ける――戦いの基本は万国共通だ」


「違うけど、まぁいいや……」


試合開始。


画面の中では、二人のキャラクターが立ち向かい合っていた。

麗奈はピンク髪の格闘少女。

ナナは、重装備の騎士キャラ。


「まるで、私ではないか……」


「似てるね」


「いや本人じゃねぇよ!!」


ゴングの音。試合開始。

ナナの指がカチカチと動く――が、次の瞬間。


「……うおっ!?」


画面内の麗奈のキャラが空中コンボでナナをボコボコにしていた。


「な、なんだこれは!? 私はまだ剣を抜いていないぞ!?」


「抜くとかじゃなくてボタン押して!!」


「押している!! 反応が遅いのだ!!」


「そりゃ鎧着てるからだろ!!」


試合は完全に麗奈の圧勝。

ナナは顔を引きつらせながら、敗北の画面を見つめた。


「……敗北、か」


「どんまいナナちゃん! 次練習すれば勝てるよ!」


「……再戦だ」


「え、はやっ!」


「今のは本気ではなかった」


「いや、思いっきり本気出してただろ!?」


そこからのナナは恐ろしかった。

ボタン配置を一瞬で覚え、反射速度を上げ、次第にコンボを習得。

「ふむ、これは“中段攻撃”というやつだな」「必殺技とは奥義のことだな」と自分なりの用語変換をして、格闘ゲームの構造を完全に理解し始めていた。


三戦目――麗奈、敗北。


「うそ……ナナちゃん強すぎるんだけど!?」


「ふっ……戦場の勘が蘇る」


「戦場じゃないって!!!」


ナナは腕を組み、満足げに画面を見つめた。

しかし、その直後、テレビの中で次のモードの案内が出る。


「“オンライン対戦”……?」


「世界中の人と戦える機能だよ!」


「世界中の……戦士と?」


その瞬間、ナナの目が輝いた。


「接続せよ!!!」


「いやちょ、待て待て待て!!!」


止める暇もなく、麗奈が笑いながらボタンを押してしまった。

画面の中に、次々と世界中のプレイヤー名が表示される。

対戦開始。


「“ドイツの剣聖”だって!?」


「面白い。名乗りを上げようではないか」


「いや誰に!?」


そして――始まった。


異世界の聖騎士 vs ドイツのプロゲーマー。


結果は……惨敗だった。


麗奈が青ざめた顔で呟く。


「……強っ。世界、広すぎ……」


ナナは無言でコントローラーを置いた。

真剣な顔で画面を見つめる。

そして、ゆっくりと呟いた。


「……良い戦いだった」


「いや、全然善戦してなかったけど!?」


「敗北は、成長の糧だ」


「なんでそんな前向きなんだよ……」


その後もナナは夜遅くまで“修行”と称してプレイを続け、気づけば田中家のリビングには奇妙な日常が定着した。

テレビからはゲーム音、横にはお茶の香り、ちゃぶ台にはお菓子。


――戦場の騎士が、コントローラーを握っている。


婆ちゃんが湯呑を片手にその光景を見て、ぽつりと呟いた。


「ナナちゃん、ほんとに楽しそうねぇ」


「うむ。娯楽とは、心を鍛える修行でもある」


「いや鍛えなくていいからね!?」


笑い声が広がる。

母さんも苦笑しながらキッチンから顔を出した。


「ゲームもいいけど、ほどほどにね~?」


「心得た」


そう言いつつ、ナナはちゃっかり次のステージを選んでいた。


麗奈がにやっと笑い、隣に座る。


「ナナちゃん、今度は協力プレイしよ!」


「ふむ。共闘か。望むところだ」


テレビの光が二人の顔を照らす。

その笑顔は、どこまでも無邪気だった。


……気づけば、俺も笑っていた。


地縛霊だの、幽霊だの。

もうそんな言葉、どうでもよくなってきた。


――地縛霊、ゲームにハマる。

その夜、田中家にまた一つ、騒がしい音が増えた。


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