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第8話 踊るウサギ、歌うウサギ、ウサギ……ああ

三枚増えただけなのに、私はさらに二時間も悩んでしまった。


違うデザイン、違う素材、違う色味の肚兜が三枚。

今はベッドの上に散らばっていて、




まるで「一番かわいい大審判」を開く準備でもしているみたいだ。




朝筱の手にある二枚と、私の手にある一枚も合わせると、合計六枚。

桃紅、暗紫、橘黄、金黄、亮白、海藍色。


幻覚だろうか。六枚は舞台の中央に立つ六羽のウサギみたいに見える。

無垢な大きな目で、私が「一番」を選ぶのを待っている。


そして私は、審査員になりたくもないのに、

なぜか審査席に押し上げられた哀れな少女だ。


私は桃紅色の肚兜を手に取り、しばらく眺めた。

鮮やかで、キリッとしていて、今っぽい。

外に着て行っても丁度いい。派手すぎず、地味すぎず。


……ただ。


黄翼鷹が見たら、特徴がないって素通りするだろうか。

それとも、私の「分かってる感」を感じ取って、褒めるだろうか。


「お嬢様。」


朝筱は手の中に、繊細な仕立ての海藍色の肚兜をそっと掲げた。


縁には海軍藍のサファイアが細かく散りばめられている。

彼女は真剣に私を見つめ、

落ち着いた、容赦のない口調で言う。


「次の水遊びでは、これを着るっておっしゃってましたよね。

とても高価で、華やかな肚兜を。」


世界が一瞬、止まった気がした。


私はその豪奢な飾り縁を見つめる。

心の中の小さな舞台にスポットライトが当たる。


……覚えてたんだ、この人。


「朝筱、私たち名家は民の模範でなければならないの。

どうして一般の民に、こんな奢侈な装いを見せられるの?」


朝筱は怪訝そうに頷いた。

半信半疑、と顔に書いてある。

私は気勢を保ったまま、さらに言葉を重ねようとしたが、

先に遮られた。


「これは吉帥様の一か月分の月俸に相当するお値段です。

でも侑乾様が『お嬢様の宝藍の長い髪によく似合う』

と褒めてくださって、


お嬢様は悩みに悩んだ末にお買い上げになりました。

では……朝筱、倉庫に仕舞っておきますね!」


「待って、朝筱!」


侑乾、弟のあの誠実で可愛い顔が脳裏に浮かぶだけでだめだ。


「盛り咲く矢車菊みたいだ」なんて何度も何度も言われたせいで、

桃紅の確信がぐらついてしまう。


「全部包んでくれ!」


継父の草吉帥は、その冷ややかな顔のまま一切迷わなかった。

店の姉さんが素早く二枚の肚兜を木綿布に包み、私に渡す。


「吉帥が買ってくれたんだし、とりあえず取っておこう!」


……私、なんてうっかり。

咄嗟に、朝筱がその贈り物を倉庫に戻そうとするのを止めてしまった。


「お嬢様、吉帥様のことは“お父様”とお呼びくださいね。」


私は慌てて口を手で覆った。さっき、つい失礼な言い方が出たのを隠すために。


「お嬢様、それでは亮白色にいたしますか?」


朝筱は手にした、清潔で、体に沿って、

どこか仙気すら漂う亮白の肚兜をこちらに見せた。


「だめだよ! 

これ、透けそうじゃん! 

水に入ったら、私が……見えちゃう!」


目のやり場がない事件が起きたら、

みんなが隠そうとして動くせいで、

さらに目のやり場がなくなる。




「お嬢様。流行は目を惹くためのものです。

道徳にお伺いを立てるためのものではありません。」



私は数秒、黙って見つめたあと、首を横に振った。

朝筱の言葉は、何本も投げナイフを握った暗殺者みたいに刺さる。

金への執着が、私の一晩分の理性より、ずっと正直だ。


「朝筱も、お嬢様が“誰か”の視線を引きたいってこと、

分かってますよね! 



だったら金黄色はいかがですか?



黄翼鷹様は金黄色がお好きみたいですし!」


金黄色……!! あいつの好きな色?

じゃあ私がそれを着たら、

ちょうどよく見られるってこと?

別に狙って着るわけじゃない。

ただ偶然、美しく見えるだけ!


……そう思いかけたけれど、私は表情を整えて一度息を吸い、

次の瞬間には即座に変顔をやめて言い放った。


「違う! 違う! 違う!」


私は手をぶんぶん振って、

危うく朝筱の手にある金黄の肚兜を叩き飛ばしそうになる。


「新時代の女性として! 

肚兜は“おしゃれ”で“かわいい”ために着るの!

特定の誰かの目を引くためじゃない。

わ……私は桃紅色にする。 

無難で、かわいい!」


そう、桃紅の肚兜だ。


宣言した瞬間、

桃紅色の小さなウサギが目の前で嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた気がした。


私は満足げに笑って、肚兜を外出用の布袋にしまおうとした0

「お嬢様、それ……金黄色ですよ。あ、金黄色って……」


私の表情が固まった。慌てて俯いて、自分の手元を見る。


布袋に入れようとしていたのは……やっぱり金黄色だった。


桃紅色の小さなウサギはその場で大泣き。

隣では海藍色のウサギが無垢な大きな目で私を一度だけ見上げてから、





次の瞬間、露骨に軽蔑した顔になって、桃紅ウサギを支えて角へ連れていった。





「とっ……取り違えた! 教えてくれてありがとう!」


朝筱は三秒ほど黙った。

その顔は、必死にミスを認めない子どもを見るみたいだった。


「でも、お嬢様……さっきの笑顔は?」


「決断できた時の条件反射!」


私は下半分の顔を手で覆う。

声は、破れた太鼓みたいにこもった。


「たまたま、彼が金黄色好きって聞いて、金黄色を……あ、違う!

でも……私も金黄色が好きだし! べ、別に、別にその……」


朝筱は「なるほど」と言いたげに微笑んで、

ベッドの方へ行き、残りの肚兜を片づけ始めた。


だめ!


その「お嬢様、幸運を」みたいな笑顔で、

他の肚兜を片づけないで!

朝筱は振り返り、淡々と、自然に言う。


「お嬢様。さっきの表情は、もう『端正で慎み深い淑女』ではなく、

『好きな方の好みを知って、恥ずかしくて嬉しくて仕方ない人』になっていましたよ。」


「分かってるよ! これから水遊びだから緊張してるだけ!

あ? 

あ! 

あああ! 

好きな人に会うからとか、そういうのじゃない!」


言われた瞬間、頭皮がぞわっとした。

私は小声で反論しながら、最後まで結局、

色を変えられなかった。


はぁ……私、

何をそんなに緊張してるんだろう。肚兜は肚兜なのに。


みんなはきっと、さっと柄を決めるんだ。

私だけが、人生の試験みたいに悩んでる。

優柔不断って本当に厄介ですよね。いっそサイコロでも用意したほうが早いかも?

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

気に入ってもらえたら嬉しいです。

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