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第7話 「理性」の縁で揺れる少女 侑晴

さっき私は「空いてる」と口にした。

あまりにも爽やかで、勢いのある声だった。


もしその一言が紙に書かれていたら、

きっと鮮やかな色が塗られているはずだ。

自分で作ってきた“イメージ”らしくないことにも、気づいていなかった。


「よかった! 侑晴、じゃあそのときね!」


頭の中ではまだ「端正守則」を必死に整理している。

落ち着いて、品よく、淡々と見えるように。


でも正直に言えば、黄翼鷹は本当に整った顔立ちをしている。

授業中のあの堂々とした態度と、さりげないユーモア。

私はずっと、こっそり目で追っていた。


卵形の端正な輪郭。

湖のように澄んだ青い瞳。

競技場であの金髪が揺れるのを見ると、

まるで勝利そのものが差し込んだみたいに見える。


彼は馬槍の第一シード選手で、しかも活気あふれる六皇子。


この前、肉まんが好きだと耳にした。

今回の集まりにいくつか持っていけば、自然に話すきっかけになるかもしれない。


……でも露骨すぎるのは駄目。

まずは梓談に相談しないと。




浮き立つ気持ちを押し込めて、笑みを整える。

品よく、冷静に。





軽い足取りで席へ戻る梓談の姿が目に入る。

彼女が椅子に腰を下ろした瞬間、


電流のような感覚が、神経を伝って頭まで駆け上がった。


私は、あることに気づいてしまった。


「ちょっと待って! 私、さっき何て言った?」


やっと脳が追いついた。

口元がぴくりと引きつる。


記憶が高速で巻き戻され、さっきの光景がやけに鮮明に蘇る。


「空いてる!」


はっきり、くっきり。

校内の鐘よりもよく通る声だった。


空いてる!?

即答した? 私が?


背筋がばちんと伸びる。

梓談の方をまっすぐ見る。


どうして秒で承諾したの。

私は何をしているの。


原因は「翼鷹」の二文字?


違う。違う!

きっと困った顔をした親友を見て、反射的に正義感が出ただけ。

……?


そう、きっとそう。


でも。私は一応、淑女のはずなのに。


全身が絶望と軽いパニックに沈む。

慎み深い淑女像が、音を立てて崩れた気がした。


次の授業は大好きな造形物描写の時間。

それなのに私の心は干上がった湖みたいで、


風景を描く余白もなく、

ただ後悔だけが底に残っていた。


放課後、夜になっても私はまったく眠れなかった。


理由は一つ。


明日の水遊びに着ていく肚兜を選んでいるからだ。


世家の出身である以上、外に出る服装は流行を押さえて当然。

肚兜に絹の短裙。

それが同世代の間でいう「水遊び標準・軽やかファッション」の王道。


でも。


その“当たり前”が、急に哲学問題になった。


「暗紫は大人っぽい……落ち着いた莓侑晴になれる。」


「桃色は明るいし、王道配色。みんなに好かれる無難さ!」


「鮮やかな橙……これは印象が強い。え、ちょっと待って。私、こんなの持ってた?」


……あれ?


また衝動買い?


いや、今は思い出したくない。

思い出したら、さらに頭が痛くなる。


手に持った鮮やかな橙色。

見つめているうちに、だんだん悪くない気がしてくる。


でも決められない。


黒檀の衣櫃の前で一刻も立ち尽くし、

手は軽くつり、足はじんじんと痺れ、それでも結論は出ない。


結局、私は諦めて床に入った。

夢の中で天啓でも降りてくることを願って。


けれど、


夢に現れたのは、あの三枚の肚兜が姿を変えた、言葉を話す小さな兎たちだった。


暗紫、桃色、鮮橙。

三羽が私を取り囲み、次々と前方の舞台へ飛び出して、全力で「ぴょんぴょん」と跳ねる。


楽しそうに歌いながら。


「選んで、選んで、早く選んで!」


私はがばっと目を開け、勢いよく上体を起こした。

心臓が跳ね上がる。


肚兜一枚で、ここまで人生を揺さぶられるなんて。


「朝筱、助けて……うう。」


「主人、冷たい水をお持ちしました。」


私は深紅の薄掛けを左手で握りしめ、右手で水色の磁器杯を取る。

冷水を飲み込みながら、必死に落ち着こうとする。


「怖い夢を見たの。兎の群れに選択を迫られた。」


朝筱は横で静かに頷くだけ。


何も言わない。

でも顔にははっきりと書いてある。


お嬢様、どうかしっかりなさってください。


水を飲み干し、何度か深呼吸して、再び横になる。


それでも。


朝六時には目が覚めてしまった。


頭の中ではまだ、

水遊びに何を着ていくかという問題が、ぐるぐると回り続けていた。

私は寝台の前に立ち、目の前の光景に一瞬、常識が崩れたかと思った。


三着だったはずの肚兜。


どうして六着になっているの?


終わった。

本当に、終・わ・っ・た。


今さら知った。

肚兜って、自体繁殖するものだったの?

私もときどき、選択に迷って立ち尽くすことがあります。

皆さんも、こういう焦りを感じることはありますか?

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