第1話 三人の厄介な男にいきなり遭遇?今日は事件多すぎない?
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「起きたよ!小羽!もう催促しないで!」
私の部屋の木の扉は、侍女の小羽に叩かれていた。
強すぎず弱すぎず、天礼寺の規則正しい太鼓の音みたいだ。
「うぅ……うぅ……!」
涙がこぼれそうになる。やっと、見たことのない美形の男と出会う夢を見ていたのに。
十数キロの追跡戦の末に彼を捕まえ、縄で縛り上げたところで――
灰黒の木綿の袴を裂いて、鍛えられた白い太ももが見えた瞬間、
視界は部屋の天井へ引き戻された。
力なく飛ぶ鴛鴦の絵。
幼い頃から、そしてさっきの夢まで、ずっと私を見下ろしていた。
でも、これからは違う。
十六歳は成人で、「成人」は自分で多くを決められるということ。
頭の中はまだ夢の続きだ。
あの美形の男は重要な手掛かりを握っていて、刺客兼医官である私から見ても、
大腿の動脈を刃物で切られたようで出血が止まらなかった。
急いで木綿の袴を裂いて傷口を確認し、布を止血帯代わりにして強く縛った。
……相手の顔を、まったく思い出せない!
蒼天よ!
叩く音はようやく止まった。どうやら小羽は私の返事を聞いたらしい。
やがて庭へ向かう足音が遠ざかっていく。
私は紅褐色の木製ベッドの脇に置いてあった、
灰色革装の背綴じ本『玉石と情愛』に目をやり、慌てて小さな木箱へ押し込んだ。
あくびを一つして、柔らかな寝台の縁に腰をかけ、右手で勢いよく体を起こす。
桃花木の衣桁へ歩み寄り、掛けてある衣を外した。
まず花びらのように柔らかな桃色の斜襟の短衫をまとい、次に紅い桃花の刺繍入り白の束裙を履く。
絹のような腰帯を丁寧に締め、最後に新しく買った鵝黄色の絹の上衣を羽織った。
矮卓に置かれた金色の薫香粉へ視線を落とす。
父の「亮躂」が、西方の商人から取り寄せた品だ。
魅力が増す効能があるとか。
今日は婚約者の黄錦崇を見舞う予定だ。
「悪くないな。娘子、いい香りだ。なかなかの趣味だな」
普段は愛想笑いしかしない錦崇が、満足げに微笑む姿を想像する。
これが成人の魅力。
私の思考はもう十分に成熟している。今日はこの薫香を使い、
きっと褒め言葉を引き出してみせる。
きっと、私の成長の威力を存分に味わうはずだ。
興奮のまま、惜しげもなく後ろ首と、わずかに上下する胸元に、丁寧に三度ずつ塗り込んだ。
空腹が腹を強く打つ。窓の外の太陽の位置からして、もうすぐ八時だろう。
今日は国子監の大学院へ行かなくていい日。
つまり御膳房から各家の祭祀用に点心が届けられる日だ。
白くてふっくらした肉まんがあるに違いない。
私は足音を忍ばせて門庁を抜け、三メートルほどの廊下を進み食堂へ向かう。
卓に近づいた瞬間、湯気をまとった肉まんの香りが鼻をくすぐった。
計画は完璧。
侍女の誰にも見られていない。
このまま卓上の肉まんをいくつか失敬し、部屋で思う存分味わうのだ。
「梓談、お前は父を驚かせたいのか?どうしてそんなに気配もなく来る」
聞き慣れた穏やかな声。
私は人形のように固まったまま、ぎこちなく振り向く。
父は深青の袖を揺らし、右手で濃黄色の平頭巾をかき、
黒い山羊髭を指でつまみながら眉をひそめた。
「父上、おはようございます!」
私は明るく礼儀正しく微笑み、そっと後ろへ下がる。
手はゆっくりと烏木の卓へ近づける。
――あと少しで、肉まん奪取成功だ。
もし小羽に取りに来てもらったら、きっと礼儀正しく一つしか取らない。
そんな生活を毎日続けていたら、私、十六歳の誕生日を迎える前に餓死していたに違いない。
訃報。
袁家の女、袁梓談。飢えにより自室にて逝去。
宮中の権威ある邸報の社会欄に、私の満面の笑みが載りながら、そんな見出しが踊るのだ。
そんなの絶対に嫌だ。
魂が部屋をさまよい、安らかに転生もできなくなる。
「御膳房からの包子は祭祀が済んだぞ。食べてよい。
食べ終えたら錦崇のところへ行きなさい。これ以上、二皇子を待たせるな。
もう三度目だ。錦崇の機嫌も限界だろう」
父の声が急に厳しくなる。
「それと、靖雪貴妃にこの手土産を渡せ。
必ず“そのまま”渡すのだぞ。“そのまま”だ」
父は私の横をすり抜け、卓へ歩み寄る。
白い布巾を広げ、包子を三つ包んで私に手渡し、さらに紫の紙箱も差し出した。
あの完璧な甘い香り。
間違いない、桂花涼糕だ。
「素手で点心を取るな。他の下僕に見られて母上に報告されたら、父も庇えぬぞ」
母は忠楽郡主。剛直で名高い人だ。
その厳しさは、子の躾にも容赦なく向けられる。
知られたら最後。
静かな足取りで私の部屋へ迫り、威圧だけで扉が勝手に開き、錠前は地に伏して震え、小羽も天福も姿を消す。
そして私の肉まんは連行。
私は慌ててうなずき、父の苦笑を横目に包みを受け取り、急いで部屋へ向かう。
――そのとき。
庭の入口で巡回中の、二十そこそこの清秀な顔立ちの青年と鉢合わせた。
「天福?」
安寿院の身体報告には、私の体型は「やや豊満、節制要」と書かれている。
以前、私が日に五度食堂へ通う件を報告しなかったことで、
袁家の私牢で“教育”すると言われた天福は、
その場で「いっそ自裁を」と言わんばかりの顔で佩刀に手をかけた。
幸い小羽が証言し、彼は大庭院の出入口を輪番で守る任務があり、
私を張り付いて監視できないと説明。
それでも半ば強制的に、威武な彼は公共庭院で三刻も土下座させられた。
「主人、奥方様のお言葉はお聞きください」
天福は黒い短髪をかき、黄ばんだ白布甲に手を添える。
澄んだ黒い瞳が、私の包みを真っ直ぐ見つめる。
中身が何か分かっているはずなのに、眉一つ動かさず通してくれた。
小羽より優しい。私が腹を空かせていると、彼は自分の点心を分けてくれる。
私は気まずくうなずき、部屋へ戻る。
布巾を開き、思いきり頬張った。
腹が満ちる。
満足の息をつき、紫の礼箱を手に取る。
華美すぎないが品のある馬車に乗り込み、皇家の半江園別院へ向かった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
それでは、これから登場する人物たちをご紹介します。




