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第4話 帰宅

「とりあえず、まず家に送ってやるよ。君は寝てたから気づいてないかもしれないけど、もう次の日の昼なんだ。」


「えっ、やば……! 一晩中帰らなかったなんて、お母さんになんて言えばいいんだろう。」


「適当に反抗期の娘みたいに、“うるさい、ほっとけ”って言ってやればいいじゃん。」


女性はそう言いながら、荷物を片づけ始めた。


「そんなの無理だよ。……仕方ない、友達の家に泊まったことにしよう。先に友達に言っておかなくちゃ。」


「車に乗ってからゆっくりやれ。行くぞ。」


女性はそう言って、さゆりに鞄と制服を渡した。

さゆりは急いで制服に着替え、女性の後をついていく。


「あのう……お名前、まだ聞いていませんが。」


「あたしは氷室ひむろこいっていう。だが、お前は“先生”って呼べ。」


「はい、先生。」


――なんで先生なの?


あ、そういえばこの人、私の毒を解いたとか、怪異で薬を作ってるとか言ってたっけ。

元々はお医者さんだったのかな。

てか、“恋”って名前なの?

かわいい名前だな。……意外。


氷室のことを考えながら、さゆりは彼女の後について歩いた。


長い廊下を抜けた先に、ドアがあった。

氷室がドアを開けると、そこにはまるで喫茶店のような部屋が広がっていた。


カウンターにはコーヒーや紅茶を淹れる道具が並び、椅子やテーブルもどこか洒落ている。

花や植物、絵画があちこちに飾られ、大きな窓からは光が降り注ぎ、外の花壇と森が見渡せた。


「とてもおしゃれですね。まるで喫茶店みたい。」


「まあ、ここは受付みたいな場所だ。この店は基本的に予約制だから時間が被ることはないが、たまに早く来る奴もいる。そういう時は、あそこに座らせてお茶でも飲ませてる。ここに来る客は基本的に社会的地位の高い人間ばかりだからな。そういう連中をもてなすために、いろいろ工夫したんだ。……まあ、客がいないときは私もここでお茶を飲むけど。」


――つまり趣味ってことか。

へえ、この人、こういうのが好きなんだ。

ちょっと意外。


「この店は山の奥にある。車は森を抜けた先に停めてある。」


さゆりは氷室と共に外に出た。氷室はドアに鍵をかけようとした。


「鍵かけるから、ちょっと待ってね。」


「はーい。」


辺りを見回すと、見えるのは森ばかり。

どうやらこの店は山麓にあり、裏側は山と一体化しているようだ。外観は少し古いが、その分だけ上品な趣もある。


――さっきの瓶がいっぱい並んでた部屋、山の中にあるんだ。


「終わった。こっちだ。」


氷室は鍵をかけ終えると、再び歩き出した。さゆりもその後に続く。


森の中をしばらく歩いたあと――


「結構遠いですね。」


「まあ、山の奥だからな。もうすぐだ。一人なら走ってるけど、お前の案内しなくちゃな。」


「ご、ごめんなさい。」


「別に責めてるわけじゃない。早く道を覚えてほしいだけだ。」


――無理そう。

「が、頑張ります!」


二人が話しながら歩くうちに、細い道の端に赤いスーパーカーが見えてきた。


「あの車だよ。」


「えっ……めっちゃ高そう。」


「まあ、金は腐るほどあるからな。」


――それなのに高校生から金取るのかよ。


「乗って。」


氷室は運転席に乗り込み、さゆりも慌てて助手席に座った。


「じゃ、出発だ。」


エンジンがかかり、車は滑るように走り出す。

しばらくして道路に出ると、氷室が口を開いた。


「さて、何か聞きたいことあるか?」


「あ、はい。あの、私に寄生してる怪異のことなんですけど……昨日すごく体調が悪くて。それも怪異の影響なんでしょうか?」


「ああ。寄嬰に寄生されて間もない頃は、拒絶反応が出る。徐々に解消するよ。」


「病院の先生からは“八週間くらいの妊娠”って言われたんですけど……寄嬰も人間みたいに九ヶ月で生まれてくるんですか?」


「それは無視していい。寄嬰の成熟速度は個体差があるし、母体の状態にも影響される。八週間って言われたかもしれないが、実際いつから寄生してるかもわからん。いつ出てくるかも未知数だ。ただ、人間よりは早いことが多い。油断するな。」


「は、はい……」


「それと、寄嬰の成長を抑制する毒。君が寝てる間に、こっそり打っといた。」


――ええぇ!? 

何してんのこの人!本当に最初から選択肢なんてなかったじゃん!


「もちろん、毒代はきっちり払ってもらう。」


――守銭奴め。


「は、はい……かしこまりました。」


「友達に電話してもよろしいでしょうか?」


「許可する。」


「ありがとうございます。」


スマホの電源を入れると、かれんと母からの不在着信が大量に――。


――うわ、やば。

このまま帰ったら、尋問確定だ……。

とりあえず、かれんに電話しよう。

さゆりはかれんに電話した。


「もしもし、かれん?」


「さゆ!どこいったの?電話かけでも繋がらない、心配してたわよ。」


「ごめん、ちょっと色々あって、また後で説明する。今時間ある?ちょっと頼みたいことがある。」


「えっ、いいですけど、何の頼み?」


「それは後で説明する、とりあえず打ち合わせはうちの近くの公園でいい?」


「はい、大丈夫ですけど......」


「ごめん、後で説明するから、今はとりあえずこのぐらいで、また後で」


「う、うん、じゃね、さゆ」


さゆりは電話を消して、氷室に話かけた。


「ごめん、先生、私の家の近くにある公園に下ろして欲しいですけど、場所は......」


「場所ならわかるよ、あの猫に襲われた公園でしょう。」


「うん?もしかして、あの公園にいる時から先生がもう見てたんですか。」


「いや、別にすべて見てたわけではないんだ。あの時あたし右目であの猫を場所を特定して、あの公園に向かってる最中、公園の入り口でお前が急に公園からオリンピック選手並みの速さで走り出したのが見えた。そして、あの猫もお前について行った。あたしもすぐについて行った。」


「じゃ、私があの猫に襲われた時、先生は間に合わなかったんですか。」


「いや、様子見てた。」


「なっ、なんで助けてくれないんですか。」


「お前がこっち側かどうかを観察してた。」


「えっ、それでどういうこと?」


「私も君と同じ、怪異に寄生されてる。正しく言うと、私の場合は寄生させてるんだけどね、だからお前が同業者という可能性もある。同業者だったら、迂闊に手を出したら、面倒な状況になりそうだし」


「そ、そっか」


「でも、同業者にしてはあまりにも雑魚すぎるから、おそらくただの一般人が怪異に襲われてるって思って、助けてやった。」


「うっ」


ディスられた。

事実だけど、ちょっと傷付くな。


「先生って、やはり怪異と戦ってる人の中でもかなり強いほうですか。」


「さあ、どうだろうな。あたしだって勝てないやつに会ったら、逃げるしかないからな。」


「先生の右目って、何が見えるんですか。」


「魂の色みたいなもんだ」


「先生って、右手も怪異に寄生されてるの?なんか包帯巻いてるし」


さゆりは氷室の包帯に包まれている右手を指で指して、こう言った。


「そうだ」


「へー、で、その右手には何の能力があるんですか」


「秘密だ、仕事の時チャンスがあったら、見せてやるよ。」


「はい〜」


さゆりが氷室について色々聞いている最中、いつの間にか、公園の近くに着いた。


「着いたよ」


「送ってくれてありがとうございます」


「どういたしまして、明日の朝、迎えに行くから、先に準備しとけ」


「は、はい」


さゆりは氷室に向かって、お辞儀し、氷室はエンジンをつけて、車を走らせた。


あっ、住所教えてない。


でも、あの人財布漁る時多分私の生徒手帳とかも見たんだろうな。


まあ、大丈夫だろう。


そして、さゆりは公園に入った。


「さゆ、こっちだよ。」


公園に入った瞬間、遠くから手を振っているかれんの声が聞こえた。


「ごめん、待たせた。」


さゆりはかれんのところに行き、こう言った。


「ううん、大丈夫だよ。ところで、さっきあの人で誰?なんでさゆりあの人の車に乗ってんの?」


あっ、見られたか。


「実は昨日色々あってあの人の店でバイトすることになった。」


「あの人めちゃくちゃお金持ってそうだけど、さゆって変な仕事やらされてないよね。お金ないならあげるから、変な仕事やらないでね。」


「大丈夫だよ。具体的な内容は一旦省略するけど、変な仕事じゃないよ」


まあ、危ない仕事かもしれないけど。


「あのね、かれん。色々あって、昨日家に帰らなかったけど......」


「家に帰らなかったの!やはりあの女に何かされたんだよね。大丈夫?さゆ?もうあの女と関わらないで、さゆのことは私が全部何とかするから。」


「大丈夫だよ。何ともないよ。何もされてないよ」


まあ、寝てる最中、毒打たれて、財布漁られたけどな。


「でもね、うちのお母さんに言ったら、絶対面倒くさいことになるから、昨日かれんの家に泊まったことにしたいの、駄目なのかな?」


「大丈夫だけど、あの女にほんとに何もされてないよね、変な仕事やらされてないよね。何があったら、私を頼っていいからね。」


「本当に大丈夫だよ。ありがとう、かれん。」


「じゃ、ちょっと一緒にうちに来て説明して来て欲しいんだけど、今日うちに泊まらない?2人でゲームしようよ」


「いいよ!じゃ早く行こう!」


さゆりはかれんをつれてうちに帰った。


そして玄関には鬼の形相の母がいた。


「さゆり!あんた!昨日の夜家に帰らないで、どこにいった!」


「ごめん、お母さん。昨日金曜日なので、かれんと夜遅くまで遊んでて、かれんちに泊まった」


「だったら電話ぐらいしとけ、電話かけても、でないし。」


「ごめん、連絡するのが忘れたの。スマホの電源も間違えて消して、鞄に入れたら、そのまま忘れちゃった。本当にごめん。」


「ごめんなさい、おばさん。私もさゆと一緒にいたけど、家に連絡させるのが忘れてしまいました。」


かれんもさゆりと一緒にさゆりの母に謝った。


「もういい。今後覚えとけ、外で泊まる時、先に家に電話しろ。」


やった。


うまく行った。


お母さんがかれんの連絡先持ってなくて良かった。


危うく死ぬところだった。


「はい、ごめんなさいでした。」


さゆりはお辞儀して、母にもう一度謝罪した。

そして、隣にいるかれんもさゆりと一緒にお辞儀した。


「じゃ、私買い物しに行くから、かれんちゃんにお茶出してあげて。かれんちゃん、もし良かったら、夜ご飯うちで食べたらどうですか。」


「あっ、お母さん、かれん今日うちに泊めていい? 」


「かれんちゃんが泊まるの?もちろん問題ないよ。じゃ晩御飯の材料3人分買わなくちゃね。」


うちのお母さん教育ママだから、かれんみたいな成績いい子が大好き。私がかれんみたい成績いい子とだけ遊んで欲しい。

そもそも私が今の高校に合格できるのも、かれんが勉強教えてくれたおかげなので、お母さんはかれんにめっちゃ優しい。


「お邪魔します。よければ、晩御飯は私が作りましょうか。」


かれんはこう提案した。


「いい子だな、かれんちゃんったら、うちのさゆりなんて家事全然手伝ってくれない。でも、大丈夫だよ、かれんちゃんは客だから、ゆっくりしてください。」


「じゃ、せめて手伝いぐらいさせてください。」


「もー、本当にいい子だね、じゃお言葉に甘えて、一緒に作ろうか。」


「はい、頑張ります」


良かったー、お母さん機嫌めっちゃ良くなってる。


サンキュー、かれん。


君がいないと、まじで危ないところだった。


良し、とりあえず、お母さんのほうはこれで何とかなった。


今はとりあえずお風呂にでも入って、これからのことについてゆっくり考えよう。

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