そして3週目へ②
翌朝、早朝に起きた。
まだ外は薄暗い。
嵐家のルールでは、やりたいことは自分でやらないといけない。
例えば、学校に行くのは自分のためという考えで、行きたいのであれば自分で起きて弁当を作らないといけない。
その代わり行かなくても怒られないのだ。
もちろん衣食住や学費などは支援してくれる。
ただ、最低限の支援な為、要望を出さないといけない。大学に進学の時もなぜ行きたいのかプレゼンをしたくらいだ。
そんなルールのため、今日みたいなイベントでは準備をしないと普通に置いてきぼりをくらうのだ。
外にまだ車があることを確認して、リビングで弁当を作る。昼飯がどうなるかわからないからだ。
すぐに父さんが起きてきた。
「ちっ。ちゃんと起きてたか」
「当たり前だろ。おいていくなよ」
と軽口で返す。
それぞれ準備を終えて車に乗り込む。
まぁ、準備と言ってもリュックに弁当と中身のない財布を入れたくらいだが。
「どうしても行くのか?軽い気持ちで行くところじゃないぞ」
「どうしても行くし、軽い気持ちでもない」
なぜかピリピリしている父に真面目に返す。
「そうか」
とだけ行って出発した。
目的地までは一時間程度かかるはずだ。
まだ少し寝不足だったので、一眠りすることにした。
エンジンが止まる音で目が覚めた。
止まる音というのも変な感じだがそうとしか言えない。
辺りを見ると、広大な駐車場に我が家の車が一台だけ。
「早すぎたの?誰もいないじゃん」
「こんなもんだよ。自衛隊にみな興味なんてないのさ」
実銃が撃てるなら、たくさん人が来そうなものだが、自信たっぷりな父さんの言い方にそんなものかと思い直す。
「さあ、行くぞ」
と言って迷いなくスタスタと歩いていく父さんの背中を追って歩く。
「ようこそ!体験入隊ご希望ですか!?」
と元気よく可愛いらしい顔の女性隊員が声をかけてくる。
「ああ」
と父さんはそっけなく返し、イベント用のテーブルに用意された用紙にテキパキと書き込んでいく。
家族同行者として同時に手続きが出来るようで、俺は何も書かなくてよかった。
書いてあることがちょっと気になり覗き込んだが「甲」とか「乙」とか面倒なことが書いてあり、俺は興味を失った。
「はい!ご記入ありがとうございます!それではこちらの扉からどうぞ!」
どうやら可愛い隊員さんとはここでお別れのようだ。残念。
などと考えている間に父さんはスタスタと扉の向こうへ消えていく。
見失ってはたまらないので慌てておいかける。
中はそれなりに明るく、人ふたり分くらいの幅しかない狭い通路だ。
部屋の前や角には棚や段ボールが置いてあるため、向こうから人が来るとすれ違いに苦労するだろう。
時折、「体験会場はコチラ」と矢印と共に進行方向を伝える張り紙がしてある。
5分ほど歩いただろうか。
行き止まりの右側に扉があり、「体験会場」と張り紙がしてある。
父さんは迷いなく扉を開けて中に入る。
続いて遅れないように中に入ると…
「そこに並べ!!駆け足!!」
と怒鳴り声が聞こえてくる。
「そこ」がどこをさしているのかわからないが、反射的に慌てて声のした方に走る。
父さんが厳つい顔の男性の前に立ったので、少し間をとってその横に並ぶ。
「きさまらの訓練を本日担当する東軍曹だ!」
「私を呼ぶときには東軍曹と必ず階級を着けて呼べ!わかったか!」
「はい!」
「聞こえんぞ!もう一度!」
「はい!!!!」
父さんと二人顔を真っ赤にして叫ぶ。
「飲み込みが早いじゃないか。長生きするぞ。本日は遊びではなく訓練だ!実弾を使うからには此方の指示は絶対だ!いいか!」
「はい!!!!」
「よし!ならば腕立て100回!」
は?
と俺が思っている横で父さんは既に体勢を整えている。
「どうした!聞こえんのか!」
「はい!!」
慌てて腕立ての体勢になる。
「1!2!3!4!5!6!」
テンポが速い!
「7!8!9!10!11!12!」
既に俺は遅れ始めているが、父さんはついていっている。さすが現場で働いてきた男は違う。
「どうした!13!14!15!16!遅れてるぞ!」
「はい!」
「聞こえんぞ!17!18!19!20!上官を無視か!」
「はい!!!」
力の限り声を出す。
「そうか!21!22!23!24!グズが!」
罵られながら100回の腕立てをやりきった。
「終ったならさっさと立て!」
「はい!」
ヨロヨロと立ち上がる。
隣の父さんは既に息も整っている。
鍛え方の差を痛感した。
先行き不安だが、環境としては望んだものが手に入るかもしれない。
期待に胸を膨らませた。
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