実は転移だったらしい①
目覚めると知っている天井だった。
「ここは…」
辺りを見回すと懐かしい覚えのある部屋。
実家の自分の部屋だ。
「……?」
何か違和感を覚えながら頭をかく。
ボーッとする頭で考える。
あぁ、マンガ脳が見せた夢か。
そう結論を出し、リビングへ向かう。
しかしまたもや違和感を覚える。
「あれ?いつ実家に帰ってきたんだっけ?」
そして、リビングで衝撃を受ける。
「あんたまたこんな時間に起きてきてから」
「はよ支度しんさい」
母さんがそこにいた。
「聞いとるんね?はじめ?」
母さんは俺が大学生の時に、事故で亡くなっていた。
顔に似合わない高めの声。
雑に後ろに束ねた髪。
間違えようもなく母さんだった。
「母さん…?」
気づいた時には涙が流れていた。
母さんが死んだのはもう4年も前でとっくに割りきったと思っていた。
「どしたん?なに泣きよーるん」
心配そうに声をかけてくる。
「学校サボりたいんじゃろ」
ふざけて明るく声をかけてくれる。
「そうだよ。学校に行きたくないんだ」
震える声で言葉を返す。
「部屋に戻るわ」
そう言って、心配そうにしている母さんに背中を向ける。
「学校には連絡しとくけ、後でご飯食べにきんさいよ」
背中にかけられた声に手を上げて応える。
そのまま自分の部屋に戻った。
「いや、どういうことだ?」
独りで呟く。
母さんは間違いなく死んだはずだ。
あれほど泣き崩れる父を忘れもしない。
だが、母親を見間違える訳もない。
でも、大学を卒業した後社会人として働いていたのも夢な訳がない。
大学で学んだ知識も、社会人として働いた経験も、自分の中に確かにあるのだ。
改めて自分の部屋を見渡す。
高校の指定バックがある。
中を確認すると3年生の教科書が出てきた。
どうやら、今は高校3年生らしい。
自分の姿を確認しようと思い立ち洗面所に向かう。鏡を見ると確かに若い。
泣いた後の無様な顔を見て、ついでに顔を洗う。
少しスッキリしたところで
「朝ご飯食べんさいよー」
と仕事に向かう母さんの声が玄関から聞こえてきた。
「あいよー」
と声を返しながら玄関に向かう。
俺の足音が聞こえたのか、不思議そうにこちらを見ている。
「どしたんね」
「車に気を付けて。行ってらっしゃい」
と目を見ながら言うと
「やっぱりアンタおかしいね。ちゃんと寝ときんさいよ」
と嬉しそうな顔をして母さんは出ていった。
高校の頃は行ってらっしゃいなんて言った記憶もないので、それも仕方がないのかもしれない。
リビングに向かい、用意されている目玉焼きのせトーストにかぶりつきながら改めて考えてみる。
さて、今の状況はどういうことだろう。
すごい壮大な夢を見た可能性もある。
大学で勉強をする夢なんてものを見られるならだが。
確かに知識はあるが、夢なら間違いかもしれない。
後で高校の教科書でも見るとしよう。
テレビがあることに気がつき、電源を入れてみた。
懐かしいコマーシャルが流れる。
「やっぱり夢とは思えないな」
冷蔵庫から出した牛乳をコップに注ぎながら呟く。
この懐かしい感覚は確かに年月が経過しているはずだ。
牛乳を一息に飲み干し、洗い物を済ませて部屋に向かう。
母さんが帰ってきたら、洗い物をしてるなんておかしい!とまた言われるんだろうな、などと考えながら。