とりあえず転生らしい②
『女学院』につられるとは、我ながら愚かしい行動だった。
もはや反射だった。
しかし、ボタンを押した事実はもはや変えようもなく
「ピコーン」
という電子音が鳴り響く。
『現代』
押した瞬間に音が鳴りスロットが止まった。
その機構は見えたが、押す寸前に高速回転されるなら目押しも何もあったもんじゃない。
早すぎて見えないのだ。
まぁでも、出た『転生先の世界』は当たりと思われる『現代』だ。
人間のいない世界よりは希望がある。
魔法の無さそうな世界で非常に残念だが、恐竜しかいない世界や変なデザインの宇宙人しかいない世界よりはマシだ。
危険も少ないと思われるし、2つ目のスロットには『全属性』等が回っているのが見えるので魔法の可能性もまだある。
そう、問題は2つ目のスロットだ。
『自分の状態』次第で快適さが決まる。
回転が早すぎて何が出るかわからないのに選択肢を知っても意味がない。
そう思いつつも目を凝らし、選択肢を見極めようとする。
『最弱』だめだ
『王者』ハーレム作れそう
『魔王』まぁまぁ良さそう
『優雅な』良さそうではある
『メガネ』メガネ!?
待て待て、落ち着け。
『現代』で『魔王』って当たりなのか?
『王様』ならともかく、『王者』ってなんだ?
『優雅な』って形容詞だぞ。
『自分の状態』と考えるのは雑な判断だったか?
辺りを見渡すが、相変わらず真っ白な部屋。
一つボタンを押したが、『現代』を表示しているスロット以外は何も変化がない。
悩んでも、よく見ても、選択肢が変わるわけではない。
結局何が当たるのかは神のみぞ知るってやつだ。
ふと、思い付きで3つ目の『物語のテーマ』のストップボタンを押してみた。
「ピコーン」
電子音が鳴り響く
『侵略される世界』
これは…終わった…。
間違いなくハズレの部類に入るだろう。
戦いは避けて通れなさそうだ…。
いや、考えようによっては無双チャンスなのかもしれない。
現代を引いてしまったことで、無双しにくい状況だったが、戦いになるなら話は別だ。
結局、何を引こうが『自分の状態』が全てで『王者』や『魔王』を引ければハーレムも無双もまだ可能だろう。
この際『スライム』や『天才』でも何とかなりそうな気がする。
『優雅な』とかだと、どうなるか全く読めない。
だが、まだ運命が決まったわけではない。
手が震えている事に気がつき、落ち着くために今一度周りを見回す。
何も変わらない真っ白な世界。
ただただドラムロールがうるさい。
「ふーーっ」
深呼吸をしながら、辺りをうろつく。
緊張する。夢にみる異世界転生のチャンス。
これからの運命がここで決まるのだ。
幸い時間はいくらでもある。
まだ慌てるような時間ではない。
俺が読者なら「早よ行けや」と思うが、運命を決める大事なシーンだ。
思う存分やらせて欲しい。
しかし、もはやランダムといって言いほどの速度で回るスロットに対策などなく、手を近づけては離し、速度が変わる様を眺めるしかない。
運命を決めるきっかけが得られない。
何時間そうしていただろうか、どれくらいボタンに近づくと早くなるのか見極め始めた頃、唐突に
「ピコーン」
電子音が鳴り響く
「えっ!?」
と思った時には
『猫』
と表示されていた。