体験入隊 その帰路
「それではサブ!構え!」
「はい!」
「よし!撃てぇ!」
しかし、父さんは撃たず目だけ東軍曹に向け
「東軍曹!好きにやってもよろしいでしょうか!?」
東軍曹の顔がニヤリと歪む。
「いいだろう!許可する!やれぇ!」
「はい!」
返事をするやいなや、父さんはダッシュして的に一発。
横っ飛びに回転し、止まったと同時に一発。
またすぐにダッシュして一発。
目まぐるしく動きながら次々と的を破壊していく。
「全弾撃ち尽くしました!」
またも東軍曹はハッとして
「よし!サブ!お前も訓練は終了だ!」
と言ってハグをした。父さんはやれやれといった顔をしている。
「どうだ?今の動き、よく見たか?」
父さんが小さな声で話しかける。
「なんだよあれ。なんであんなの出来るんだよ」
「まぁ、父さんにもな色々あるんだ。それよりちゃんと見たか?」
「あぁ、目に焼き付いたよ。正直かっこよかった」
父さんは目を丸くして、ははっと笑った。
「そんなつもりじゃなかったが、いい思い出になったな」
嬉しそうに笑っていた。
「それでは、私の担当はここまでだ!」
東軍曹が敬礼している。
「二人ともまれに見る逸材だった。もし良ければ本気で入隊を検討してくれ!我が東隊が歓迎しよう!」
と、父さんに握手を求めている。
まぁ、父さんには本気で言ってるんだろうなと思った。
「ありがとうございました!!!」
頭を下げる。厳しいが楽しかった経験に感謝をこめて。
「よーし、じゃあ帰りは俺が案内するね」
うって変わって軽薄そうな隊員が来た。
装備もだらしなく着こなしており、東軍曹に比べて歩き方もふらふらしている。
「お客様お帰りで~す」
と言うと、けたたましいサイレンと共にランプが回転し、扉が開き始める。
声のボリュームから察するに無線を着けているのだろう。
東軍曹の時に無線を聞いていた人は鼓膜がやられたに違いない。
「こっちこっち~」
あくまでも軽薄な感じで道案内をしてくる。
「よく体験入隊なんか来たね~。地獄だったでしょ~。東軍曹怖いし厳しいから」
と長い上り坂をのぼりながらへらへらと声をかけてくる。
「実際はあそこまで厳しいの東軍曹くらいだから、良かったら入隊してね~。俺の仕事も減るから大歓迎~」
あくまで軽い口調になんて返事をしようかと迷っていると
バツゥゥゥン
と弾ける様な音がして真っ暗になった。
「わっ!」
と隊員が驚いた声をあげたが、すぐに
「予備電源があるから大丈夫だよ~」
と気楽そうに声をかけてきた。
ウィーン
と小さな起動音が響き、赤いランプのみが点灯した。
「ありゃ、非常電源が起動したみたいだね」
横にいる赤いランプで真っ赤な顔に照らされる父さんを見てふふっと笑ってしまった。
真剣な顔をしているのがまたギャップで面白かったのだ。
「きっとオペレーターがお見送りの悪ふざけでやったんだね~。みんな訓練の様子はモニターしてたから、歓迎してるんだよ~」
などと、適当なことをいいながらふらふらと出口へ向かって歩いていた。
遠くからドタドタと複数の足音が聞こえて来て
「出口までお供します!」
と武装した5人の隊員がやって来た。
「おお、スゴいなぁ。本格的に気に入られたんだね」
と軽薄な隊員が耳打ちしてくる。
「ここまでされたら入隊しない訳にはいかないね~」
と笑いながら走って先行しに前方へ向かっていった。
ゴゥゥゥゥゥン
彼が大きな扉の前に差し掛かったその時、突然扉が開き始めた。
「………?」
軽薄な隊員が扉の前で首を傾げていると、開いた扉の中には一匹のアリがいた。
広大な部屋で待ち構えていたかのように扉の向こうでたたずむアリ。
あの、家ほどもある巨大なアリだ。
すると、突然ドンッと体に衝撃を感じ、倒れこんでしまった。
何が起こったのかと首を上げると
「ぎゃあああぁぁぁあ!!!」
と先ほどまでへらへらしていた隊員が叫び声をあげていた。
その時、自分の体に何かが覆い被さっていることに気づいた。
父さんだ。
いち早く危険を察知し、体を張って守ってくれたのだ。
そんなことを考えている間に、隊員は巨大な顎で噛みちぎられて、真っ二つになっていた。
「うわぁぁぁぁ!!!」
と叫びながら残りの隊員が一斉にアサルトライフルを撃った。
バババババババッ
大量の弾を食らったアリはひっくり返り、少し身動ぎ(みじろぎ)をした後に動かなくなった。
「やったのか…」
隊員がぼやく。
動かなくなったアリに隊員が近づき、銃の先でつつく。
反応が無いことを確認して、追加で銃を撃つ。
弾の反動で少し動いたが生体反応はなかった。
「やったぞーー!」
「おおーー!!」
と勝鬨をあげる隊員たち。
父さんに感謝を述べつつ押し退け、急いでアリの死骸に近づく。
不思議なことにだんだん色が薄くなり死骸は消えてなくなった。
そして、緑色に光るディスクがその場に落ちていることに気がつき、それを手に取ると
「触るな!」
と父さんの叫ぶ声が聞こえた。
しかし既に時遅く手にした緑のディスクは光となって消えていた。