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第68話 魔獣と犠牲

ロッドが出て行った後、謁見の間では姿似の悪魔(ドッペルゲンガー)と人間達が睨み合っていた。


「へ、陛下をお護りするのだ!」

何とか理性を取り戻した宰相が告げると、警備兵達が国王と宰相を護るように配置に着いた。


一旦警備兵に護られて安全が確保された国王が、悪魔に尋ねる。

「先ほど王家への呪いと言ったな? 我が子達の病気はお前の仕業か?」


「ふははは! その通りよ。我が呪いの品物を手に入れた者は、徐々に衰弱して死んでゆくのだ!」


「くっ! 命令だ! 悪魔を捕えよ!」


「ふははは。無駄だ! さて、ここにいる者達も皆殺しにするとしよう! この王都でたっぷりと生贄の魂も手に入ったしな。 その力で悪魔の門を見せてやろう!」


悪魔の門(デビルズ・ゲート)〛!


姿似の悪魔(ドッペルゲンガー)がアイテムの様な物で魔法を発動すると、真っ黒な禍々しい穴が現れた。


(グルル! グルルルルウ!)

穴の中から荒々しい息遣いが聞こえる。


『ガオオオオン!』


中から人間よりも背の高い、3つの頭を持つ巨大な魔獣が現れた。

それぞれの頭は凶悪な顔で、ダラダラと口の間から涎を滴らせていた。


「その獣は魔界に住む三頭の魔獣(ケルベロス)という獣だ。さて、この一頭でも人間どもには十分だが」

姿似の悪魔(ドッペルゲンガー)がそう言ってパチンと指を鳴らすと、さらに5頭の三頭の魔獣(ケルベロス)が続々と穴から現れるのであった。


穴自体は少しすると収縮して消えていった。

そして3頭が国王を護る警備兵に、3頭がジュリアン達に向かって来る。


「ジュリアン様、アルフレッド様! 下ってください!」


完全武装のリーンステアがジュリアンとアルフレッドを護るように前に出る。

3体の三頭の魔獣(ケルベロス)と対峙するリーンステア。


(途轍もなく強い魔獣だ。それが3体も。私に勝てるだろうか……)

恐ろしい魔獣達と正面から向かい合い、勝利するビジョンが全く浮かばないリーンステアの額に大粒の汗が滴る。


「リーンステア、臆する事はありません。私が貴女に力を貸しましょう。受け入れなさい」

アイリスはそう言うと、素早く呪文を唱え魔法を発動した。


最上級魔法〚戦乙女の魂ソウルオブヴァルキリー


リーンステアの身体が赤い輝きに包まれる。

「こ、これは!」


リーンステアは、己の中にかつて無いほどの力が湧いてくるのを感じていた。

アイリスの魔法により、能力属性値が一時的に限界を突破して高められた為であった。


■リーンステア

種族:人間 性別:女性 年齢:20歳

職業:騎士

力属性ランクB(一流)→S(英雄級)

敏捷属性ランクB(一流)→S(英雄級)

耐久属性ランクC(上位)→A(超一流)

知能属性ランクD(中位)

魔力属性ランクD(中位)



=============== 《戦乙女の魂ソウルオブヴァルキリー

魔法階級は最上級魔法。

対象の魂と戦乙女(ヴァルキリー)の魂を一時的に融合させる事により、限界を突破した能力属性値を付与する強化魔法である。

対象には思考加速+6(200%向上)も同時に付与される。

対象に拒否された場合は発動出来ない。

対象は女性に限定され、同一の対象に使用できる回数は一日一回のみである。

==============================



(これなら! いけるっ!)


襲いかかる三頭の魔獣(ケルベロス)の動きを約3倍に加速された思考で(かわ)し、強化された力属性で獣の体を切り捨てる。


五連撃クゥインツープル・アタック

(ガガガガガッ!)


使用した事の無い戦技(バトルアーツ)を無意識に放つ。

今なら修練した事の無いどのような戦技(バトルアーツ)でも使えそうであった。


この瞬間リーンステアは一部だが英雄の領域に達し、あらゆる騎士の中でも最強の存在となっていたのである。



「す、凄い!」

「ああ。私がこれまでの見た中でも最強の騎士だ!」

ジュリアンとアルフレッドが感嘆の声を上げ、ジョアンナも嬉しそうに頷く。


「ここはリーンステアに任せます。ミーアは魔舞踊(マジック・ダンス)で苦戦している警備兵の強化を。私が護衛に付きます」

アイリスはそう言うと、ミーアを連れて国王達の方に向かった。


ーー


警備兵達は三頭の獣犬(ケルベロス)と対峙するも次々と傷を負い、倒れていった。


それに警備兵の攻撃は三頭の獣犬(ケルベロス)の高い耐久性に阻まれ、ダメージを与える事は出来ていなかった。


治癒精強の舞ヒールストレングス・ダンス


そこに参戦してきたミーアの魔舞踊(マジック・ダンス)が発動した。

ミーアの身体が(ほの)かに白く光り輝く。



=============== 《治癒精強の舞ヒールストレングス・ダンス

魔舞踊(マジック・ダンス)の一種。

この舞踊は範囲内の味方の力属性値および耐久属性値を向上させる。

・力属性値+2~4(30~100%向上)

・耐久属性値+1~3(10~50%向上)

能力属性値の向上は術者に近いほど効果が上昇する。

さらに再生+1~3(10~50%向上)の効果もあるため。

能力属性値の向上と再生での回復により、集団での継戦能力が飛躍的に向上する技である。

術者の認識により効果を及ぼす対象を特定出来る。

舞踏している間のみ効果を発揮する。

==============================



謁見の間はそれ程広くない為、ミーアの魔舞踊(マジック・ダンス)の効果は全員が100%適用された。


「おお、傷が!」

「治ってゆくぞ!」

「力が湧いてくる! これなら!」

「やれるぞ!」



ミーアの魔舞踊(マジック・ダンス)による能力属性値の向上、負傷からの回復で警備兵達も持ち直した。


それを見た国王と宰相は目を丸くして驚くのであった。


ーー


ローモンドは元はブランドル伯爵であった姿似の悪魔(ドッペルゲンガー)を、じっと眺めていた。


騎士リーンステアが赤い光を纏い三頭の魔獣(ケルベロス)達を圧倒し、王国の警備兵達は猫獣人ミーアの不思議な舞踊(ダンス)で劣勢から立ち直っているようであった。


全体としては有利に事が運ばれているように思う。


ロッド様は巨大な魔物を討伐に出たが、彼は神とも思えるような力で辺境伯領の領都を救った英雄だ。


どのような相手であっても負けるとは思えなかった。

最悪でも彼が戻るまで持たせれば、こちらの勝ちである。


だが内なる何かが警鐘を鳴らしていた。

ブランドルは本当に死んだのか?


疑問を持った故にローモンドだけが、戦いの中枢にはいない姿似の悪魔(ドッペルゲンガー)を見つめていた。


そして不意にニヤリとした姿似の悪魔(ドッペルゲンガー)が、ジュリアンとジョアンナにチラリと視線を送る。


何事かをブツブツと言っていた。

(あれは、魔法の呪文なのか? 二人を狙っている!)


「死ねい!」

闇の槍(ダークジャベリン)


姿似の悪魔(ドッペルゲンガー)の左右両方から射出された黒い槍が、ジュリアンとジョアンナを襲った!


「やらせん!」

間一髪飛び込んだローモンドが二人の前に立ち、両腕を広げて(かば)った。


二本の黒い槍がローモンドの身体に深々と刺さっている。

どう見ても致命的な重傷(クリティカルダメージ)だ。


傷口と口からも血を流し、倒れるローモンド。


「ローモンド子爵! なぜ!」

「そんな! 私達を助けるために!」

「ローモンド!」

ジュリアンとジョアンナ、アルフレッドが駆け寄る。


「こ、これで良いのです。(ごふっ!)お二人が無事で良かった。

これでティファニー様にあまり怒られないで済みます……(ごふぉっ!)

アルフレッド様、ジュリアン様は立派な領主になられますぞ……」


そしてローモンドは満足そうな顔で、息を引き取るのであった。



ーーーーー


「……ルス……アルス」

ローモンドはかすかに自分を呼ぶ懐かしい声に気付く。

そして重たいまぶたをゆっくりと開けた。


すると目の前には子供の姿のティファニーが立っていた。

あの懐かしい日々の、一緒に遊んでいた頃のままだ。


「ティファニー!」


ローモンドは起きようと付いた手を見て、自分も同じ様に子供の頃に戻っている事に気付いた。


「アルス。ジュリアンとジョアンナを救ってくれてありがとう。それと貴方とずっと一緒にいられなくてごめんなさい」

ティファニーが二人を救った礼とともに、一緒になれなかった事を謝罪をする。


「そんな事……俺は幸せだったよ。途中少し間違えたけど、満足した人生だったと思う」

ローモンドが最後の方は笑顔でそう言った。


「でもこれからはずっと一緒よ! 昔みたいにね。人と人との縁はなかなか切れないらしいの。次の人生では私達はどんな関係になるのかしらね。きっと神様は貴方の願いを叶えてくれると思うわよ」


ティファニーが微笑みながら続ける。


「ふふふ。あなたは二人を救った事でこの世界に多大な貢献をしたの。いずれ訪れる光と闇との闘いで、あの二人はこの世界を守る光の側に立つでしょう。イクティス神の後継者であるロッド様と共にね」


「あの強さ、やっぱり神様だったのか。でもジュリアン様とジョアンナ様なら大丈夫だよ。ロッド様も付いているし」


「そうね。私達の役目は終わったわ。後は今を生きている者達に託しましょう」

ティファニーは笑顔でローモンドの手を握る。


「行こう!」

ローモンドも握り返す。


「ええ! 行きましょう!」


二人は子供の頃の様に手を繋ぎ、光の中を歩いてゆくのであった。


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