第65話 真実と正体
ロッド達一行は辺境伯アルフレッドの記憶から入手した情報を基に、玉座がある謁見の間に直接転移してきた。
国王と宰相の二人がそこにいることも確認済みである。
「何者だ!」
「侵入者だぞ!」
「何処から現れた!」
「陛下を護れ!」
多数の警備兵達が即座に反応し、ロッド達は瞬く間に包囲された。
「ロ、ロードスター辺境伯!」
「脱獄したと報告があったが……」
宰相と国王がアルフレッドを見て驚愕する。
アルフレッドとジュリアン、ジョアンナ、リーンステア、ローモンドは国王の姿を確認すると向き直り、全員が跪いた。
「国王陛下。アルフレッド・ロードスター辺境伯、この者達の助力を得て牢を抜け、直接陛下に直訴したい事がありまして参上致しました」
アルフレッドが跪いたまま答える。
「脱獄犯が何を言うか! 警備兵! 全員を捕えよ!」
宰相が警備兵に命令すると、警備兵がこちらに殺到してきた。
「アイリス、ハム美、ピーちゃん!」
ロッドも従者達に命じる。
アイリスが魔力制御による魔力での威圧を行い、ハム美も獣王の威圧での威圧を発動し、ピーちゃんも鳥王の威圧で周囲を威圧した。
警備兵達は自分達を襲う凄まじい威圧を受け、動けなくなって固まった。
「シャーッ!」
「ピィーッ!」
さらに高まる威圧に確実なる死を感じ、本能で後ずさる警備兵。
国王と宰相も冷や汗が出て、言葉が全く出ない様子であった。
ロッドが前に出て話す。
「俺は半神の守護者という者だ。縁あって辺境伯家と行動を共にしているが、お前達を害するつもりは無い。まずは辺境伯の嫡男であるジュリアンと、家宰のローモンド子爵の話を聞いてくれ」
そしてロッドが右手を上げると、アイリス達が発している全ての威圧が解除される。
「ぶ、無礼な! 仮面を取れ! 跪け!」
再び話せるようになった宰相が、ロッドを指差しながら叫んだ。
だがアイリス、ハム美、ピーちゃんがひと睨みすると、ひっ!と小さく叫んで大人しくなる。
「……ただの賊ではなさそうだな。良かろう。辺境伯家の者達よ、弁明があるのなら話して見るが良い」
流石に一国の国王は堂々としており、あれだけの威圧を受けた後でも怯んだ様子を見せなかった。
そして辺境伯家に弁明の機会を与えてくれたのであった。
ーー
ジュリアンとローモンドは、ジュリアン暗殺から始まる一連の事件と、辺境伯家を謀反人とするよう画策するブランドル伯爵の陰謀を話した。
加えてジュリアンが近侍の者に帝国の皇帝陛下から授けられた親書を渡し、それを国王がこの場で読む。
「ふむ。帝国側は未来永劫、我が国への侵攻は行わないとこの親書で誓約してきている。それと同時に辺境伯家との密約など無いと、皇帝自らの署名で保証もしている。これをどうやって入手したのか分からないが、これが本当なら辺境伯家の疑いは晴れたと言えるし、今後の和平にも貢献したと言えるだろう」
国王が皆を見回して言った。
「なら今回の件は、辺境伯家は無罪でブランドル伯爵とやらが画策した陰謀だと断定したという事で良いんだな」
ロッドが国王に確認する。
「お、お待ち下さい陛下! ブランドル伯爵がそのような事をするはずがありません! その親書こそ偽物では?」
宰相が自分とずぶずぶの利害関係があるブランドル伯爵を庇う発言をする。
「ならば、ブランドルをここに呼べばいい。直接聞いてみれば分かる事だ」
ロッドがブランドル伯爵を呼ぶ様に仕向ける。
「良かろう。すぐにブランドル伯爵を登城させよ!」
国王が近侍に言いつけ、近侍は足早にこの場を去ってゆくのであった。
ーーーーー
小一時間ほど待たされて老齢のブランドル伯爵が到着し、玉座のある謁見の間にやって来た。
「ほほう。これはこれは、謀反人のアルフレッドではないか」
ブランドル伯爵はアルフレッドやローモンドの姿を見つけると、邪悪な笑みを浮かべ嬉しそうに告げた。
「ブランドル伯爵! ローモンドも告白しました。あなたの陰謀は既に暴かれたのです!」
アルフレッドが老齢のブランドル伯爵を睨んで対峙する。
「なんの事ですかな?」
ブランドル伯爵はとぼけるように言った。
「私が証人です。今回のロードスター辺境伯様を謀反人とする陰謀は、私の案をあなたが実行したからです!」
ローモンドがブランドル伯爵を睨みながら叫んだ!
そのようなやり取りの間にロッドがアイリスに合図し、アイリスがブランドル伯爵を少し見つめ、やがてロッドに向かって首を縦に振った。
「よし! ミーア、やってくれ!」
それを確認したロッドがミーアに合図する。
そしてミーアが前に出て、澄んだ美しい歌声で魔歌を発動した。
〚真実の歌〛
=============== 《真実の歌》
魔歌の一種。
この歌の可聴範囲内の者は嘘が吐けなくなる。
さらに魔法や特殊能力で姿を変えている者は、真実の姿を暴かれる。
例え物理的な変装であっても、自ら変装を解いて暴き出される。
術者の認識により効果を及ぼす対象を特定出来る。
歌唱している間のみ効果を発揮する。
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ミーアの歌声が謁見の間に響き渡り、多くの者はその歌声にうっとりと聴き惚れるが、ブランドル伯爵だけは頭を抱えて苦しみだした。
「ぐあっ! 何だこの歌は! く、苦しい! やめろーっ!」
両手で頭を抱えて苦しむブランドル伯爵の目が赤く光り、やがて絶叫したかと思うと、その姿が闇に包まれた。
そして闇が晴れると、そこには人間とは思えない、邪悪な悪魔の姿が現れるのであった。
ーーーーー
「なんと我が姿が暴かれたか!」
ブランドルが変貌した悪魔が驚く。
悪魔は全身緑がかった色で模様を奇妙な持ち、短い角を2本生やした醜悪な姿を現した。
「「「!」」」
国王と宰相、警備兵達やアルフレッド達も、ブランドル伯爵が悪魔に変貌した事に驚愕した。
「人間共よ、我は姿似の悪魔なり! 我は人間共を減らす事を命じられ、魔界よりやって来たのだ!」
姿似の悪魔が楽しそうに告げ、何かの仕草を行なう。
「やはり悪魔だったか、なぜブランドル伯爵に取り憑いた?」
ロッドが冷静に質問する。
「我が復讐心に駆られたブランドルを見つけたのだ。そして復讐する事を代償に提案すると、ブランドルは喜んで自らの身体を差し出した。我は数年もの間、その記憶と姿と身分を利用して辺境伯家への復讐や様々な悪事を行った。王家への呪いも、大量の人間の不審死も我らの仕業よ! 仕上げに、これからこの王都の人間は皆殺しになるだろう! 我と闇の女神教団の者達によってな!」
姿似の悪魔はそう言うと、笑いながら続ける。
「ふははは! はっはっはっ! 先ほど我の正体が暴かれた時に闇の女神教団の者達に合図した。その者達がこの王都の者達を生贄に使って準備していた悪魔の秘術を使い、上位魔物召喚を行った! この王都にお前達では到底敵わない強大な魔物が現れて暴れ回るぞ!」
姿似の悪魔が楽しそうに告げた。
謁見の間が騒然とする中、ロッドが超能力〔遠隔知覚〕で急いで状況を確認すると、確かに王都の何か所かに強大な魔物の反応を感知した。
「まずいな。そこの悪魔の言う通り、王都の南側と東西の両方に魔物が現れているようだ。しかも通常の魔物よりもかなり反応が大きいぞ!」
ロッドがアルフレッド達に状況を説明する。
その時、謁見の間の扉が乱暴に開かれ、慌てた様子で入って来た警備兵達が叫んだ。
「緊急報告いたします! 王都の南側に黒竜が現れ、街が襲われております!」
「東側には単眼の巨人、西側には多頭の毒竜が現れました!」
その報告を聞き驚愕して、絶句する一行。
「そんな、終わりだ……」
驚愕したままの宰相が呟く。
「は~はっはっはっは~! 死ね! 人間どもよ! 偉大なる御方の為に!」
姿似の悪魔の笑い声が響き渡る。
ランデルス王国は今、滅びの時を迎えようとしているのであった。




