第62話 準備と出発
王都への出発までの準備期間で、ロッド達は様々な事を片付けた。
まず、貴族連合軍に拉致された女性達には、一人頭金貨50枚の賠償金が支払われ、辺境伯領から何台もの馬車で元いた場所に送ってゆく事になった。
賠償金で冒険者を数パーティー雇い、この女性達を送る馬車を護衛すると共に、各地の被害状況を確認させる事となった。
被害が確認されたら、プールしてある賠償金で速やかに対応する予定である。
護衛には狼獣人ドルフを筆頭に、友好関係にある獣人達にも協力してもらう。
そして、村人が殺戮され滅んでしまった村のクレア達には、街の中心街から少し外れた所に広い土地と建物の物件があったので、当面はそこに女性達のみで住み、暮らして貰うことになった。
賠償金で土地・建物と夜間警備の護衛冒険者を雇い入れ、生活の手段として街で飲食店を開き、そこに皆で出資して共同経営する形を取る事にした。
ローモンドの人脈による迅速な手回しで、店舗と調理機材、食材の仕入れルートを揃え、約一ヶ月後の開店を目指して訓練してゆく事になった。
軌道に乗るまでは賠償金から補助を出す予定なので、今後もなんとか生活して行けるだろう。
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またロッドは、貴族連合軍の野営場所にも赴き、冒険者達から頼まれて戦死者の火葬も行った。
死者をそのままにしておくと、生ける屍や食屍鬼といった不死者を生み出す苗床となってしまう可能性があるからだ。
=============== 《生ける屍》
死体が弔らわれずに放置された結果、自然界の魔力を得て甦った魔物である。冒険者ギルドの討伐難度はDランク。
生ける屍は生前の身体能力をある程度引き継いでいるが、敏捷属性値は大幅に下がり、力属性値は大幅に上がった能力を持つ。
知能は野生動物並であり、死者の習性から近くにいる生者を倒そうとするが、基本的に武器や魔法は使用できず、噛みつきや引っ掻きで攻撃を行う。
だが仮に生者を倒して血肉を得たとしても、体力が回復したりする事は無い。
基本的には不死であるが、内にある魂が浄化されたり、器である肉体が一定以上に破損すると形を保てなくなり、存在が消滅する。
地球でのパンデミック物のように、噛まれたり引っ掻かれたりして伝染し、生ける屍となってしまう事はないが、それが切っ掛けで病気になったり死んだりする可能性は残る。
死体を媒体にして、上級魔法である不死者の創造で創造された者は、創造者の魔力を少量であるが消費し続け、創造者の意思に従って活動するようになる。
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=============== 《食屍鬼》
生ける屍が他の不死者や生者を一定数食らい、進化した魔物である。稀に食屍鬼として自然発生する個体もある。冒険者ギルドの討伐難度はCランク。
生ける屍よりも敏捷属性値が高く、他の不死者や生者の血肉を食らって回復するという特性も持つ。
知能は生ける屍より上であり、魔法は使えないが稀に武器を使う者も存在する。
基本的には噛みつきや爪で攻撃を行うが、どちらにも麻痺毒を持つ。
生ける屍と同じく死体を媒体にして、上級魔法である不死者の創造で創造された者は、創造者の魔力を少量であるが消費し続け、創造者の意思に従って活動するようになる。
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遺体が7千近くもあるので数回に分けて火葬し、遺骨は深めの穴に一箇所に纏めて埋め、その上に石材で墓標を立てた。
そして全員で黙祷し、簡易的な葬儀を行なったのである。
死亡した者達の届け出や遺品の受け渡しは、各貴族家が行う事となっている。
(但し、騎士や兵士のみ。死亡した貴族の分は各貴族家で分担する)
葬儀を終えた貴族連合軍は、順次王都へと引き揚げてゆくのであった。
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ロッドは帝国にも顔を出し、皇帝に獣人達の移住が完了した旨を共有した。
皇帝からは獣人達への補償として金貨10万枚と、王国への移住祝いとして倉庫10棟分にもなる食料が贈られた。
ロッドは皇帝に代理で礼を言い、一旦全て預かった上でミーアを連れて獣人の移住先に訪れ、族長達に帝国皇帝から預かった物を全て引き渡した。
帝国の戦争に駆り出されて親や子を失ない困窮している者も大勢いたので、族長達には大層喜ばれ、困窮している者達への補償費用に充てる事になった。
ミーアも困窮している獣人が救われる事に、自然と笑顔になるのであった。
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最後にロッドは、ジュリアンとジョアンナにマリーの今後の事を相談した。
マリーはロッドの危険な旅には、当然連れてゆけないからである。
最初はどこか孤児院を見つけて預けようと思っていたが、今更誰も知り合いがいないところに預けるのは不安しかない。
「お兄様! マリーちゃんを、ロードスター辺境伯家の侍女見習いとして雇いましょう! そうすればロッド様の不安も解消されますわ!」
ジョアンナが、ジュリアンにもう決まったも同然とばかりの勢いで言った。
「そ、そうだね。侍女見習いとして勉強するという形であれば、辺境伯家で面倒を見られると思います」
ジュリアンがジョアンナとロッドに向け話した。
「そうか、正直言って助かるよ。ジュリアンとジョアンナなら信頼出来る。俺はマリーの兄に妹の事は任せてくれと誓った。この誓いを疎かには出来ないんだ」
ロッドはジュリアンとジョアンナに頭を下げた。
「ロッド様、頭をお上げください」
「そうですよ。こちらこそロッドさんにはお世話になりっ放しなんですから」
ジョアンナとジュリアンがそう言って笑う。
「ああ、だがマリーの事よろしく頼む」
ロッドは真剣な顔で頼んだ。
「でも、ロッド様もマリーちゃんの様子を見に来てくれるのでしょう?」
ジョアンナがロッドに顔を突き出しながら言った。
「アンナはそれが狙いか……」
ジュリアンはジョアンナを見て微笑する。
「ああ、もちろん偶には顔を出す様にしよう!」
ロッドはジョアンナに頷き、笑顔で答えた。
「ふふっ。絶対、約束ですよ!」
ジョアンナは嬉しそうにそう言って、明るい笑顔で笑うのであった。
ーー
そして出発となる3日目の朝が来た。
朝食後、ロッド達は辺境伯城の中庭に集合した。
マリーと侍女達の何名かも見送りに来ている。
王都に出発するメンバーは、守護者スタイルのロッド、魔女スタイルに変装したアイリス、ミーア、ハム美、ピーちゃん、ジュリアン、ジョアンナ、完全武装のリーンステア、ローモンド子爵である。
今回は無茶をするかもしれないので、ロッド達は素性がバレないように最初から変装していた。
ハム美とピーちゃんも小さいがユニークモンスターの姿になっており、ミーアも指輪で取り寄せた巫女服と、顔の上半分のみを隠す獣面を付けて変装を行っている。
・巫女服(8,000P)
・顔の上半分のみを隠す獣面(3,000P)
「皆、準備は良いか?」
ロッドは全員を見回して確認する。
ジュリアン「はい!」
(父上を助け、必ず辺境伯家の名誉を回復してみせる!)
ジョアンナ「はい!」
(お父様のため、辺境伯領の領民のために! ロッド様と共に!)
リーンステア「はい!」
(例え大悪魔が来ようとも、ジュリアン様達を必ず護って見せる!)
ローモンド「はい!」
(私の、いや俺の成すべき事。平和を脅かすブランドルの陰謀を必ず暴いて見せる! 今は亡きティファニーのためにも!)
アイリス「はい!」
(この世界のため、ロッド様と共にどこまでも!)
ミーア「はい!」
(獣人のため、世界のため、ロッド様のために!)
ハム美、ピーちゃん(『はいデチュ!』『はいデス!』)
皆、決意を込めた瞳で頷いた。
「では行くぞ! 王都へ!」
〔瞬間移動〕!
ロッド達はそれぞれの想いを胸に、王都へ旅立つのであった。




