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第56話 調印と休息

リーンステアと共に戻って来たジュリアンは、カーンマイル帝国皇帝陛下から、ランデルス王国の国王陛下に宛てた親書を(たずさ)えていた。


「親書はうまく貰えたみたいだな」

ロッドがジュリアンに確認する。


「はい。これで謀反の疑いを晴らす事も出来そうです!」

「これで光明が見えてきましたね!」

ジュリアンとリーンステアが笑顔で答えた。


そこへ、国境の砦を攻めていた将軍と参謀役の男が現れる。


「半神の守護者様のお陰で、破滅への道を突き進んでいた帝国は救われました。本当にありがとうございました」

「ワシからも礼を言わせてもらう。守護者殿の助力(じょりょく)、感謝する……」

参謀役の男と、将軍の男がそれぞれロッドへの礼を口にする。


「まあ成り行きで、悪魔を退治しただけだ。礼には及ばない。それより後始末がある。これから直ぐにお前達の陣まで、全員で飛ぶぞ」


ロッドは全員を見回して準備が良いのを確認し、超能力を発動する。


瞬間移動(テレポート)〕!


ーー


「じゃあ俺達は獣人達を連れて砦に戻る。帝国軍は取り決め通り、3日以内に速やかに撤収してくれ」

ロッドが将軍と参謀役の男に告げた。


帝国軍の陣まで瞬間移動(テレポート)した後、相談して擦り合わせた結果であった。


その間に部隊長クラスの人間から、王国側とは完全に停戦となる事、これは皇帝陛下の勅命である事が軍全体に伝えられていた。


「承知しました。出来れば次は戦場以外でお会いしたいと思います」

「ワシも戦場で会うのは御免だ。皇帝陛下が半神(デミゴッド)と認めた者に勝てるわけがないからな……」

参謀役と将軍の男が答えた。


ロッド、アイリス、ミーアと肩に乗るハム美、ジュリアン、リーンステアは、帝国軍の合間を()って、悠々と獣人の陣までの道のりを歩いた。



「守護者様! ミーア姫! お帰りをお待ちしていました!」

狼獣人ドルフが、獣人の陣に着いたロッド達を出迎えた。


ユニークモンスター化して帝国軍を威嚇(いかく)し、獣人を守護していたピーちゃんもいたが、ロッドを見ると小鳥の姿になって肩にとまった。


(ピーちゃんお疲れ様。『お帰りなさいデス。ご主人様』)

ロッドがピーちゃんを労う。


「ドルフ、それに獣人達よ。簡単に伝えると、帝国皇帝が獣人の王国側への移住を認めた。お前達は自由だ! これから皆で王国側の砦に行き、今日中に王国内の移住先に向かうぞ」

続いてロッドがドルフと、周りにいる獣人に伝えた。


「やった! 俺達はやっと開放されたんだ!」

「良かったわ~!」

「守護者様のお陰よ!」

「ミーア姫~!」

「言い伝えの通りだ!」

「守護者様万歳! ミーア姫万歳!」


ミーアも手を振ったりして群衆に答える。


獣人達は各々が涙を流したり、肩を叩き合って喜ぶのであった。



ーー


その後、ミーアとドルフが先導する獣人達は、無事に砦までたどり着いた。


先にロッドの〔瞬間移動(テレポート)〕で戻っていたジュリアンとリーンステアの指示で、内側から門が開かれ獣人達を迎え入れた。


ロッドは獣人達が砦に入っている間に辺境伯城まで行き、ジョアンナとローモンド、侍女達を砦まで〔瞬間移動(テレポート)〕で連れて来た。


そして、獣人達の移住先への門を魔法で開くロッド。


最上級魔法〚次元の門(ディメンジョンゲート)


前回よりも少し小さ目の門を開いたロッドは、ドルフにその門を通って獣人達を移住先へ連れて行くよう指示した。


ロッド自身もアイリス、ミーア、ハム美、ピーちゃん、ジュリアン、ジョアンナ、ローモンド、侍女を伴って門をくぐり獣人達の移住先へ移動する。


獣人の族長達を招集したロッドは、まずは長老達に帝国の内情を共有した。

状況が少し変わったからである。


帝国の丞相が大悪魔(アークデビル)に乗っ取られ、皇帝も精神支配されて際限なく戦争を巻き起こしていた事、ロッドが悪魔を倒して精神支配を解いた結果、皇帝も獣人達の移住を認め、今後は他国との協和を目指す方針とする事などを共有した。


族長達はかなりビックリした様子であったが、王国へ移住する意志は変わらないとの事であった。


「辺境伯家側は、ジョアンナ姫とローモンド子爵で取り纏めた調印文書の用意が出来ているそうだから、このまま進めてくれ」

ロッドはジュリアンと獣人の族長達に告げる。


調印文書を族長達全員が確認し満足そうに頷くと、代表である狼獣人の族長が文書にサインし、次いでジュリアンもサインを行ない、二人で握手を行った。


ミーアや周りにいる獣人達も、これまでの不遇な時代を振り返り、やっと訪れた平和に涙を浮かべる。


無事に辺境伯家と獣人の里の共存を記した調印式が、完了したのであった。



ーーーーー


帝国の突然の侵攻から始まる獣人の救済、帝国内の悪魔退治、獣人と辺境伯家の調印を終え、一息ついたロッドは辺境伯城に戻った。


ジュリアンとリーンステアも、砦には最低限の守りを残してロッドに同行する形で辺境伯城に戻っていた。


ジュリアン達は少しの間休息した後、王都への旅路を計画した。

未だジュリアン達の父である辺境伯が、王都で投獄されている為である。


ロッドもここでジュリアン達を見放す気は毛頭なく、王都への旅路は同行するつもりであった。


少しでも早く出発したいジュリアンであったが、領都が負った吸血鬼の君主(ヴァンパイアロード)襲撃の傷もまだ癒えず、新たに組み入れた獣人の里も、移住したてで物資不足の問題が浮上したのである。


獣人側から要望を受けたジュリアンはローモンドに指示して、領都アステルと獣人の里との定期商隊をいくつか編成して、交易を行うようにした。


また、その護衛で冒険者を雇うなど獣人需要で、領都の経済も潤う事になった。

獣人側も領都の補修工事などで仕事を得て、辺境伯領と共存する形で移住後の生活を確立して行くのであった。


ロッドもその間、ミーアから間接的に頼まれた旧獣人の里から建物を移設する作業や、ジュリアンから頼まれて街の各種補修工事の手伝いを行っていた。


ロッドは守護者スタイルのため、街の何処へ行っても大人気であり、色々な人から差し入れを貰ったり、声援を掛けられたりするのであった。


10日ほどしてようやく領都も平静を取り戻しかけたところ、周辺の警戒に当たらせていたピーちゃんからロッドに連絡が入った。


(『ご主人様! 遠くから人間が大勢やって来るデス!』

分かった、確認しよう。ご苦労だったな、今日はもう日が暮れるから戻ってきてくれ)


ロッドはピーちゃんを労うと〔遠隔知覚(テレパス)〕で報告にあった大勢の人間の位置を特定し、〔自在の瞳〕で確認する。


(貴族が率いる軍隊のようだが、野盗みたいな奴もかなり混ざっているな。ん、あれは……)


ロッドは軍勢のような集団を確認したが、最後尾近くに牢屋のような格子のある馬車があり、そこに沢山詰め込まれた女性の中に、以前立ち寄った村でロッドが助けた女性を見つけたのであった。


ーー


ロッドは女性に直接聞いてみる事にした。


先程の女性、以前立ち寄った村から誘拐され、盗賊の首領の酌をしていた女性をターゲットにして超能力を発動する。

※第14話の最後の方に出てきた女性


物質取得(アポート)


「えっ! ここは?」

女性は驚いて周囲を見渡すと、そこに守護者スタイルのロッドがいたので、さらに驚いた。


「あなたは、守護者様!」

女性は慌てて平伏しようとするが、ロッドが手を前に出して制止する。


「そのままでいい、驚かせて悪かった。あの時以来久しぶりだな。お前はどうしてあの集団にいる? あの集団は何なのか聞きたいから呼んだんだ」


ロッドが女性に尋ねると、娘は涙目になって答えた。


「少し前に村に急に軍隊が来て、若い娘は連れて来られたんです……村からは食料も奪われました、村の皆はどうなったのか……」


ロッドは気の毒になって、指輪のストレージから毛布を一枚出してやり、優しく掛けてあげ、オレンジジュースを一杯出して飲ませた。


女性は一口飲むと驚き、一気に全て飲んでしまう。

ロッドはもう一杯出してあげ、それを今度はゆっくり飲むと、少しは落ち着いたようであった。


「大丈夫か? 辛い話しをさせてしまって済まないな」

ロッドが女性をいたわる。


「いえ、ありがとうございます。少し落ち着いてきました。あの軍隊はそこら中の街や村から、女性を攫って慰み物にしているらしいのです。協力的でない者は水も食事も貰えませんでした……」

女性が辛そうに話した。


「そうか……とりあえずこれでも食べてくれ。ゆっくり食べるんだぞ」

ロッドは指輪のストレージから温かいホットドッグを出し、マスタードを少量とケチャップを掛け、女性に渡した。


女性は初めて見る食べ物を恐る恐る口に入れ、その美味しさに涙を流しながら食べるのであった。


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