第55話 褒美と協力
ロッドが大悪魔を倒し終えた時、丁度ハム美も最後の上級悪魔を始末したところだった。
役目を終えたハム美がダッシュで戻り、元のハムスターの姿でロッドの肩に飛び乗る。
「ハム美、良くやったぞ! お疲れさん」
ロッドはハム美をなでなでして労うと、おやつであるヒマワリの種を差し出す。
(『ご主人様、ありがとうデチュ!』)
少し運動してお腹が空いたハム美は、ロッドの肩の上で直ぐに殻を取り、中身をもぐもぐするのであった。
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ロッドは保護していた帝国側の全員を〔サイコポッド〕から出し、怪我の酷い者を〔治癒〕して回った。
「守護者様、ありがとうございます!」
「お陰で命が助かりました!」
「物凄い強さですね! 傭兵になりませんか?」
「是非、うちのパーティーに入ってもらえませんか?」
「怪我まで治してもらって、ありがとうございます!」
冒険者や傭兵、警備兵は口々にロッドに向け礼や勧誘の言葉を口にした。
「怪我の治療はサービスだ、気にするな。悪いがやる事があるので、勧誘は全て断らせてもらおう」
ロッドはそう言うと、こちらに歩いてきているジュリアン達と合流して、帝国皇帝の元に向かった。
もう誰一人として、ロッドを阻む者や咎めるものはいなかった。
「皇帝よ。これから帝国は拡大政策を改めるという事で良いか? もし、違うという事であれば、俺とはまた戦場で会うことになるだろう」
ロッドが皇帝に確認する。
「うむ。もちろんだ。これからは周辺諸国との協和を目指していくつもりだ。既に占領した国への補償や扱いも、これから考える事になるだろう。もちろん獣人の里の移住も認めよう。其の方には世話になった。あれだけの強大な悪魔、退治するのにどれ程の犠牲が出たか分からぬ。何か褒美を取らそう。願いは無いか?」
皇帝がロッドに答え、褒美としての願いを聞いて来る。
ロッドは少し考えた後、願いを口にする。
「そこに王国の辺境伯家の嫡男で後継でもある、ジュリアンという者がいる。その者の父親が現在王国の首都で、帝国と内通していたという疑いを掛けられ、投獄されている。出来ればその疑いを晴らしてやりたい」
ジュリアン、リーンステアも前に出て皇帝に跪く。
「初めて御意を得ます、皇帝陛下。ただいま守護者殿より紹介いただきましたランデルス王国辺境伯家のジュリアン・ロードスターと申します」
「辺境伯騎士団長代行、リーンステア・アルタイルです」
リーンステアも続いて名乗る。
皇帝が軽く頷いて、近侍が許可を出す。
「二人とも、面を上げよ。皇帝陛下が発言を許可して下さった」
ジュリアンが今の困り果てた状況を、皇帝に説明する。
「御意を得て申し上げます。先程、守護者殿よりありましたように、我が父及び辺境伯家が、謂れなき謀反の罪に問われております。恐らく首謀者は王国のブランドル伯爵だと考えていますが、その証拠がありません」
それを聞いて、優秀な近侍の者が案を出す。
「それなら我が帝国と王国の辺境伯家との密約など無いと誓約する、親書をしたためましょうか? 丞相がその辺りを管轄していたので、直ぐには分かりませんが他の者の関与が分かり次第、お知らせするようにもいたしましょう」
「うむ。直ぐにでもその様に取り計らえ」
近侍の案を皇帝も認める。
「ははっ。ご配慮、ありがとうございます」
ジュリアンとリーンステアは頭を下げた。
「うむ。しかし、これでは本人への褒美が足りぬ気がするな。だが、其の方は恐らく形あるものは何も受け取らないであろう? そうよの、……余から二つ名を贈ろう。その神のような強さから、今後は〈半神〉を名乗ると良い。半神の守護者よ!」
聞いたような事のある二つ名を贈られたロッドは、仮面の奥で苦笑いしながら皇帝に大きく頷くのであった。
「時に、半神の守護者よ。余と帝国に仕える気は無いか? もし帝国に仕えてくれるのであれば望みの物は何でも揃えよう。栄達も思いのままだぞ」
皇帝がロッドを勧誘する。
「悪いが、俺は一国に縛られる気は無いんだ。今後、世界を旅して成すべき事もあるしな」
ロッドが軽く断りを入れた。
勧誘を断った事で近侍や近衛兵達に緊張が走ったが、皇帝は楽しそうに笑う。
「ハッハッハ。そうであろうと思ったわ」
そして真顔に戻って、皆に命じた。
「ここに居る者全員に命じる! 今後、半神の守護者が必要とする物や、事柄があれば全て叶えよ! 帝国は今後、無条件に半神の守護者に協力する国である! これで良いであろう?」
最後の言葉は、ロッド=半神の守護者に向けられた物だ。
「ああ、助かるよ。……皇帝陛下」
ロッドも皇帝の協力表明に、敬意を表すのであった。
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ロッド達は皇帝と別れ、ジュリアンとリーンステアは王国への親書を受け取るため、皇帝の近侍に付き添われてこの場を離れていた。
待ち時間の間に、ロッドがアイリスに尋ねる。
「アイリス、壊れたアイテムを修理する魔法ってあるのかな?」
「はい。最上級魔法に〚万物の修復〛という魔法があります。素材が必要ですがどのような物であっても修復が可能です。素材が揃っていなくても魔力を媒体に修復が出来ますが、その場合は魔力を大量に消費します。2つに折れてしまった物であればそれを素材に元に戻す事も可能です」
「そうか、じゃあアイツの剣を直してやってくれないか?」
ロッドは元気の無い近衛兵団長を見て、アイリスに頼む。
「あの者はロッド様に刃を向けた愚か者ですが、よろしいのでしょうか?」
アイリスが少し不快そうに近衛兵団長を見て答える。
「ああ、あそこまで落ち込んでいると、なんか憐れでな……」
「ロッド様がそう思われるのであれば、私に異論はありません」
ロッド達は近衛兵団長の方に近づいていった。
「団長、元気を出して下さい」
「そうですよ。あの剣が無くても団長は強いじゃないですか」
折れた剣を手にしてしょんぼりしている近衛兵団長が、何やら団員に慰められている様であった。
「その剣は残念だったな。自分達で修理出来るのか?」
ロッドが近衛兵団長に声を掛けた。
「アンタか……いや、魔剣は鍛冶屋で整備だけは出来るが、折れてしまってはもう直せない。はあ……代々の家宝だったんだがな……」
近衛兵団長がロッドをチラッと見て、折れた剣と柄を持ったままため息混じりに答えた。
「なるほどな。じゃあアイリス、やってくれ」
ロッドがアイリスに頼む。
「承知いたしました。ロッド様」
最上級魔法〚万物の修復〛
アイリスが呪文を唱え、近衛兵団長の剣に向けて魔法を唱えると、剣が手の中で白く光り輝き、その光が消えると剣が折れる前の状態に戻っていた。
「何っ! 剣が戻った! 俺の纏雷の剣が!」
近衛兵団長が驚いて叫び、その後一転して物凄い笑顔見せた。
「良かったな」
ロッドは大喜びしている近衛兵団長にそう声を掛け、踵を返す。
「まっ、待ってくれ! アンタを賊呼ばわりして悪かった。それで、そのう、剣を直してくれてありがとう。それと皇帝陛下と帝国の皆を救ってくれた恩も忘れないでおくよ!」
近衛兵団長が不器用な感じで、ロッドに礼の言葉を口にした。
「気にするな。だが、さらなる悪魔が来ないとも限らない。気を抜くなよ」
ロッドは少し振り返りながらそう告げると、近衛兵団長の元から歩き去る。
団長を含め近衛兵は全員、立ち去るロッドに対し敬礼を行うのであった。




