第54話 恐怖と化物
近衛兵、警備兵、冒険者、傭兵団は大悪魔と百体以上の上級悪魔に囲まれて、逃げ場を無くしていた。
「か、囲まれたぞ!」
「あれは上級悪魔だぞ!」
「こんな数に勝てるわけがない!」
「もう終わりだ……」
「助けて~!」
「もう嫌だ!」
ここにいる冒険者は元々高ランクのみの数パーティしかおらず、今までの戦いで魔力も相当消費していた。
傭兵団の主力は王国側に遠征に出ているため、今いるのは控えと交代要員でしかなく、戦力的には小さい物でしかなかった。
地力で劣る警備兵は相当数が死傷しており、無事な者は殆どいなかった。
近衛兵はある程度健在であったが魔法兵の魔力は尽きかけており、なにより近衛兵団長は魔剣が折られて以降、指揮が取れる状態では無くなっていた。
前門に武器破壊の大悪魔、後門のみならず周りには百体以上の上級悪魔である。
微塵の勝ち目も無い状態であり、恐怖に震える帝国側の人間はここで皆死ぬのだと理解しつつあった。
「くっくくく。もうこれで逃げられないな。死ねい!」
大悪魔が上級悪魔に囲まれて逃げられない者達に向け魔法を放つ。
〚死の雲〛
「いやーっ。まだ死にたくない!」
「誰か助けてーっ!」
「うわわわ! 助けて!」
「家で子供が待ってるんだー!」
逃げる事も叶わず死にたくないと叫ぶが、無情にも死の雲が発生しつつあったその時、帝国側の人間全員が突如、青白い光に包まれた。
円形の青白い光に包まれた人々に黒い死の雲接触するが、光の中には侵入出来ず、立ち消える。
その青白い光の中に治療効果のある光の雪が降りそそぐ。
「何この光、怪我が治ってゆくわ!」
「本当だ! もう痛くない!」
「この光の中は死の雲が効かないのか!」
「何なんだこれは!」
「助かったのか?」
そして数々の青白い光の中を進み、白い仮面を被り赤い燕尾服を着た者がやって来るのであった。
ーーーーー
ロッドは離れた場所で大悪魔と帝国側の戦況を見守っていた。
最初に召喚された悪魔達を殲滅出来そうなところまでは良かったが、死の雲で死者が発生し、近衛兵団長の魔剣が折られ、大量の上級悪魔が召喚されるのを見て、帝国側の自力解決は不可能だと判断した。
「これでは帝国側はもう勝てないな。仕方ない、介入するか」
ロッドが皆に告げる。
「ロッド様、私が殲滅いたしましょうか?」
ロッドの手を煩わせるまでも無いと、アイリスが確認する。
「いや、アイリスはここで皆を護ってほしい。俺とハム美で殲滅しよう、試したい技もあるし。皆はここで待機していてくれ」
ロッドは皆が頷くのを確認すると、ハム美を肩に乗せ〔念動力の翼〕で空に浮かび上がる。
そして大悪魔の方に向かいつつ、助けを求める帝国側の人間全員を〔サイコポッド〕で保護するのであった。
ーー
「この者達は俺が保護した。ここからは守護者である俺が介入し、お前を滅ぼすとしよう」
ロッドは中空から大悪魔告げる。
「くっくくく。はっははは。面白い冗談だ。これだけの上級悪魔をどうするつもりだ? 我には武器は効かないし、魔法も大して効かないぞ」
大悪魔が笑いながら返す。
「別にどうもしない、普通に滅ぼすだけだ。強いて言えば技の練習台になってほしい。よし! ハム美は上級悪魔を殲滅してくれ。俺は、この大悪魔を滅ぼそう!」
(『はいデチュ! ご主人様、ハム美頑張るデチュ!』)
ハム美はロッドの肩から飛び降りつ、ユニークモンスターに変身する。
淡く青い光に包まれ、4m以上の体躯で鋭い牙と尖った爪と硬い尻尾を持つモンスターとしての姿を表した。
「シャーッ!」
ハム美が獣王の威圧を周囲に放ち、威圧する。
「な、なんだその物凄い獣は? 我も見た事が無いぞ!」
大悪魔が圧倒的な強者の威圧を放つ、ユニークモンスターハム美を見て、畏怖の声を上げる。
「ああ、ハム美はユニークモンスターなんだ。他にはいないからな。上級悪魔が自慢のようだが、数だけ揃えてもあまり意味がないぞ」
「シャーッ!」
ハム美が上級悪魔の列に物凄い速さで突進し、ハム美の牙で貫いた。
防御無視の全てを貫通する刺突攻撃で、直線上にいた10体ほどの上級悪魔が断末魔の叫び声を上げて滅びる。
「な、何だと! 一撃で上級悪魔を10体も屠るとは!」
大悪魔がハム美の攻撃力に驚愕する。
既に観客と化している帝国側の人間も、同様であった。
それ以降もハム美の爪での全てを切り裂く斬撃攻撃や、ハム美の尻尾での強力な打撃攻撃で、次々と滅び行く上級悪魔。
上級悪魔も数に任せて多少の反撃を行うが、ハム美の元々の耐久属性値が高いのと、特殊体質である物理ダメージ軽減60%によりダメージが半分以下になってしまい、さらに再生もあるため、ハム美を倒す術の無い上級悪魔。
ハム美からすると上級悪魔達は、多少は動く練習用のデク人形でしか無かったのである。
ーー
「くっ! 化け物め! あれではそう長くは持たないか。せめてお前だけでも殺して去るとしよう」
大悪魔はハム美の戦う様を見て恐怖し、上級悪魔が殺られているうちに引きあげようと考えた。
〚死の雲〛
中空にいるロッドに大悪魔が魔法を放つ。
ニヤリとする大悪魔であるが、数秒後、微動だにしないロッドに驚く。
〚死の指先〛
指先をロッドに向け、悪魔特有の強力な死の暗示を掛ける。
〚死の言葉〛
悪魔に伝わる死へと誘う太古の力ある言葉を、ロッドに向け放つ。
〚心臓の破壊〛
ロッドの心臓に向け、上級魔法で破壊の波動を発動する。
次々と即死系の特殊能力や魔法を放つ大悪魔。
だがロッドにはイクティス神の指輪の能力で、即死無効があるため全く効果が無かった。
ロッドはその間〔サイコジャベリン〕を生成し、その後もサイコエネルギーを注ぎ続けて、その密度と大きさを増加させていった。
これは吸血鬼の君主を葬った時に、金色の光に包まれた状態で使った技であるが、大悪魔も高い耐久性を保持していると思われるので、それを再現しようと考えたのであった。
「くっ! なぜ我の攻撃が効かないのだ!!」
「どうやらお前は即死系の攻撃が得意なようだな。色々と頑張ったところ悪いんだが、俺に即死攻撃は効かないんだ。無駄な努力だったな」
ロッドは時間稼ぎで喋りつつも〔サイコジャベリン〕にサイコエネルギーを注ぎ続ける。
「ぐぐっ! お前は本当に人間か? はっ! そう言えば……」
大悪魔は何かに気づいたようであったが、その時丁度ロッドの〔サイコジャベリン〕の高密度・特大版が完成した。
「定義名サイコランス。サイコジャベリン数十本分のエネルギーだ。お前がこれを食らって生きていられるのか、興味深いな」
ロッドはそう言うと〔サイコランス〕を大悪魔に投擲した。
=============== 《サイコランス》
単体攻撃に特化した〔サイコジャベリン〕に、さらにサイコエネルギーを注ぎ込んで高密度化させ、特大となった物を定義した技である。
サイコエネルギーを注ぎ込んだ量にもよるが〔サイコジャベリン〕のおよそ数十倍の威力となる。
但し〔サイコジャベリン〕生成後のサイコエネルギー注入に時間がかかり、注入中はこれに専念する必要があるので、回避以外の行動はとれなくなる。
吸血鬼の君主を倒す決め技にもなった。
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(この人間が恐らく、闇の女神様のお告げにあった光の神の化身に違いない! この事を、我が偉大なる御方に報告しなければ!)
「ぐおおおおおーっ!」
高速で投擲された〔サイコランス〕をまともに受けた大悪魔は、サイコエネルギーで全身の細胞にダメージを受け、断末魔の叫び声を上げながら滅びてゆくのであった。




