第6話 絨毯と遭遇
朝になり一人早起きしたロッドは日課である精神統一を今日も行なう。
アイリスが言うには日々の精神統一により精神力の向上が見込めるという。
それが終わった後、朝食の準備に入る。
それなりに人数がいるので、鍋などで調理する事にした。
カセットガスコンロを3つ用意し、1つ目は水と濃縮用コーンスープを合わせて適度な温度まで温め、2つ目で目玉焼きを人数分焼き、3つ目で買ってあったソーセージを塩こしょうで味付けて焼き、調理出来なかったパンは取り寄せる事にした。
・クロワッサン30個入り(2,500P)
朝食の為に皆を呼び出し、ハム美とピーちゃんに水と餌、ロッド達人間には取寄せ、調理した食材を配膳した。
〈朝食メニュー〉
・コーンスープ
・クロワッサン
・目玉焼きとウインナー
・オレンジジュース
コーンスープ、クロワッサン、ウインナーはあるだけの量になるが、お代わりは自由とした。
ジュリアンが食べながら朝食のお礼を言う。
「今朝もこんな美味しい朝食を(もぐもぐ)頂いてすみません(もぐもぐ)」
ジョアンナも朝食を気に入ったようだ。
「このスープ凄く美味しいです〜。このお肉もプリッとした食感がとても良くて(かぷっ)」
リーンステアも朝食を絶賛する。
「これは昨日とは違った味で(もぐもぐ)またいくらでも食べられます(もぐもぐ)」
侍女達もそれぞれ美味しさにニコニコながら朝食を取った。
〈それぞれが食べた物、目玉焼きは各1個なので省略〉
ロッド スープ2杯、クロワッサン5個、ウインナー4本、ジュース2杯
アイリス スープ1杯、クロワッサン2個、ウインナー2本、ジュース1杯
ジュリアン スープ2杯、クロワッサン5個、ウインナー5本、ジュース2杯
ジョアンナ スープ2杯、クロワッサン4個、ウインナー3本、ジュース2杯
リーンステア スープ4杯、クロワッサン10個、ウインナー8本、ジュース3杯
侍女2名 スープ4杯、クロワッサン4個、ウインナー4本、ジュース2杯
ディック 固いパン1個と水1杯…
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ロッドは朝食の後片付けを行い、簡易水洗トイレを出して各自必要に応じて使用してもらっている間にテントなどの野営具も収納した。
各自が準備を整え、最後に荷馬車、簡易水洗トイレも収納する。
「それじゃあ街に向けて出発しようか。俺が先頭を歩いて警戒しよう。続いてアイリス、ジュリアンとジョアンナ、侍女さん達、リーンステアはディックを引いて後衛を頼む」
ロッドは隊列を決め皆に知らせた。
それからハム美を服の中に入れて寝てもらいピーちゃんは肩に乗せ出発する。
30分ほど歩いたところでジョアンナが限界となった。
「ごめんなさい。足が痛くてもう歩けません…」
ジュリアンと侍女達も辛そうだ。
さすがにリーンステアは大丈夫なようで、クイクイと目隠しされたディックのロープを時折引っ張りながら歩いている。
「そうか…お前達には乗り物が無いときつかったか…」
ロッドは貴族の子女に徒歩での移動は無理だったかと少し反省する。
しばし思案した後、ペルシャ絨毯風の厚めのラグマットを指輪で取り寄せた。
・ペルシャ絨毯風ラグマット2m✕2m(20,000P)
絨毯を取り出して地面から50cmぐらいのところで〔念動力〕で宙に浮かべ皆に伝える。
「リーンステア以外は皆これに乗ってくれ。アイリスもだ。これを俺が引っ張って街まで歩こう。その方が速いし丁度良い訓練にもなるしな」
ジュリアン達は浮いている絨毯にビックリして、各自絨毯の下を見てさらに驚く。
「何も無いのに浮いている…」
「不相議ですね〜」
「この絨毯はいったい…」
これも魔法のようなものだと納得してもらい、絨毯の一番前にアイリス、次列の左右にジュリアンとジョアンナ、最後に侍女2名が座り、空いている場所に荷物なども置いてもらった。
「それじゃあ動かすぞ。もう少し高く浮かせるからビックリしないようにな」
ロッドはそう宣言すると地上1mぐらいまで絨毯を浮かせる。
このくらいなら落ちても死ぬような事はないだろう。
その後は浮かせた絨毯を移動させながら一行は進んだ。
俺も絨毯に乗せて欲しいと懇願したディックをリーンステアが殴ったりしながら進む。
「ロッド様、とても楽になりました。ありがとうございます〜」
「本当ですよ!ありがとうございます」
ジョアンナとジュリアンがロッドに礼を言い、侍女達も頭を下げる。
「いや、こちらこそすまなかった。無理に歩かせてしまったな、まだ痛むようなら後で治療しよう」
ロッドは歩きながら後ろに振り向いて話した。
さらに30分ぐらい街道を進むと、街道から少し離れた森の入口付近にモンスターの集団がいる事を〔遠隔知覚〕で感知した。
歩きながら〔遠隔視〕で確認すると猪頭人の集団であるようだった。
よく見ると片目が潰れている猪頭人がおり、集団の規模も同じ位なのでロッドが追われていた猪頭人集団である事が分かった。
ロッドが皆に知らせる。
「この先に猪頭人の集団がいる。街道にはいないがこのまま進むとこちらに気付いて襲って来そうだ」
ロッドは〔精神感応〕でアイリス、ハム美、ピーちゃんだけに追加で知らせる。
(俺を追っていた猪頭人の集団かもしれない)
それを聞いてアイリスの目の色が変わる。
「是非、私にその猪頭人共を殲滅させていただけないでしょうか?」
アイリスは絨毯から身り乗り出すようにして懇願する。
「そうだな…遠くから魔法でという事ならいいと思う。猪頭人は大体30ぐらいだが、1匹は亜種が混ざっているようだ。打ち漏らしがあれば俺が始末しよう。ジュリアン達は戦闘前に退避してくれ」
ロッドがアイリスに一応の許可を出す。
「しかし、猪頭人が30ですか…遠くからでもかなり危険ではないですか?」
猪頭人の知識があるリーンステアが心配する。
猪頭人は豚の頭をした人型のモンスターであり、成体であれば小さくても身長は2m以上になり体重は200kg以上にもなる。
冒険者や騎士でも単独で勝てる者は少なく、通常は1体につき2〜4人での討伐となる。
野盗になぞらえると1体あたり5〜7人程。
30体の猪頭人となると野盗換算で150〜210位だ。
数としても脅威だが、巨体である猪頭人は耐久力もあり魔法1発や2発で倒れるとも思えない。
リーンステアは騎士団での魔物狩りで猪頭人と対峙した事もあり、騎士団で実力としては上位のリーンステアでも1対1では危なげなく勝てるが、2体を同時に相手にするとかなり時間を掛けてなんとか勝てる程という難易度のモンスターである事を心配したのだ。
ロッドがリーンステアの質問に答える。
「大丈夫だ。もちろん心配ならここで待機していても良いぞ。それほど時間は掛からないと思う」
「大丈夫です!ロッド様とずっと一緒におりますので!」
なぜかジョアンナはロッドとの観戦に乗り気であった。
「僕もロッドさん達が猪頭人に負ける事は考えられない。このまま進みましょう」
「言われて見ればそうですね…失礼しました」
ジュリアンとリーンステアもそれほどの危険は無いと納得してくれたので、そのまま進む事となった。
街道沿いを20分ほど進み、開けた場所に出た。
森が広がっているのが見え、森近くに件の猪頭人の群れも見える。
猪頭人側も気付いたようで、ある程度整列しながら街道側に押し寄せる。
ロッド達はそれを見て一旦進むのを停止した。
侍女達は猪頭人を初めて見たのか、その偉丈夫と近づいて来るさまに絨毯上でブルブルと震える。
ロッドは指輪のストレージから毛布を2枚出し侍女達に声を掛けた。
「怖ければ、これでもかぶってくれ」
アイリスは絨毯から降り、杖を手にして宣言する。
「それではこれから猪頭人共を殲滅いたします。ロッド様に手をかけようとした輩には確実なる死を与えましょう」
そしてアイリスは冷たい微笑みを浮かべると、杖を両手で立て目をつぶり長い呪文を詠唱する。
やがてアイリスの詠唱が終わり、杖に青白い魔力光が宿る。
猪頭人の群れは50mぐらいまで近づいていた。
アイリスは杖を猪頭人集団に向け魔法を発動した。
氷結系極大魔法〚氷結する牢獄〛
アイリスの杖に宿っていた青白い魔力光が消え、代わりに進んでいた猪頭人集団の中心から急激に青い冷気が発生したかと思うと、一瞬で全てが凍りついていた。
しんとする街道。
猪頭人集団の中心から半径30mぐらいの円形のエリアにいる猪頭人、地面に生えている草、地面そのものも含め全てキラキラして凍りついている。
彫刻の様に氷漬けされて一匹も動かない猪頭人達。
まだ少し冷気が残っているようで処々でパキパキという何かが凍りつつあるような音が響く。
少しして遠くに残って指示していたと思われる猪頭人の亜種が後ろを向いて逃げ出したのが見えた。
アイリスは杖を翳し何事か叫びながら猪頭人亜種に向けると、杖から直径20cmぐらいの火球が3発ほど少し間を置きながら発射される。
火球は全て亜種に命中し、遠目でも亜種が倒れて燃えている事が分かった。
「…」「…」「…」
直後のジュリアン達の感想は聞けなかった。
アイリスがロッドに向けて話す。
「ロッド様、全て殲滅完了いたしました。
今回使用しましたのは氷結系で極大ランクとなる氷結する牢獄という魔法になります。この魔法は術者が指定した範囲の中にある全てを氷結させるという効果となります。抵抗に成功した場合は冷気ダメージのみを、失敗した場合は100%致死となりますが、敵味方の区別なく効果が発揮されるためご注意下さい。
最後に使用した魔法は杖にストックしていた炸裂する火球になります。この魔法は目標に当たると炸裂して爆発と火炎で継続ダメージを与える中級魔法となります」
「お疲れ様。それと説明ありがとうアイリス。これで今のを模倣出来ようになったのかな?」
ロッドは神の血族のギフトに不随する能力で一度見た魔法や技を模倣できる。
アイリスが今回放った魔法も再現出来るはずだ。
少し離れて先程アイリスが倒した猪頭人亜種の死体に炸裂する火球を放ってみる。
〚炸裂する火球〛
ドンッ!とロッドの手から先程は20cmぐらいであった火球が1m以上の火球になり、亜種がいるところに着弾すると大爆発を起こし、森まで一部焼き尽くしてしまった。
驚いて焦るロッド。
「……ちゅ…中級魔法だったよな?」
アイリスが申し訳なさそうに説明する。
「ロッド様の精神力は既にGODランクとなっております。超能力で魔法を再現する場合は魔力ではなく精神力が参照されますので、相当な手加減が必要だと考えられます」
「そういえば思い切りやったかもな…」
リーンステアは顎が外れるぐらい口を開け絶句していた。
アイリスの極大魔法にも心底驚いたが、続くロッドの炸裂する火球の威力も信じられなかった。
辺境伯領にも魔法使いはいるし、炸裂する火球なら何度か魔法を見た事もあったが小さい家を燃やすのがせいぜいであり、森ごと吹き飛ばすような威力になるはずがない。
それと極大魔法がある事自体さっき初めて知った。上級魔法より上って事なのだろうか?
(はあ…凄すぎて何も言えません…猪頭人如きに心配してすみませんでした…)
と思うリーンステアであった。
ジュリアンは幼少から最近まで目が見えなかった為、今まで魔法を見た事が無かったがこれが普通でない事は被害の規模により充分理解できていた。
あのように広範囲にいた猪頭人を全て瞬時に氷漬けにしてしまう極大魔法…森まで一部焼き払ってしまう中級魔法…アイリスさんもロッドさんもやはり凄いなと思う反面、僕も魔法を使ってみたいなと憧れを抱くのだった。
ジョアンナは一気に凍ってしまった猪頭人を見て少し可哀想かなと思った。
そしてやはり心配はいらなかったのねと思い、最後に魔法を放ったロッドを頼もしく、そして熱心に見つめるのであった。