第47話 忠誠と仲間
ロッドは帝都の獣人を全て里に送り、ミーアを帝国の皇子の手から奪取した後、用意してもらっていた各街への案内人と共に街を回って獣人を回収していった。
街に〔瞬間移動〕した後、獣人と思われる反応を〔遠隔知覚〕で感知し、片っ端から〔物質取得〕で近くに取り寄せ、最後に全員を連れて獣人の里まで〔瞬間移動〕するの繰り返しで、2時間ほどで全てのを街を回り終えた。
やっと一息つくロッドであったが、獣人の里では早々に一つの問題が持ち上がっていた。
「守護者様。帝国で奴隷とされていた者達には、隷属の首輪というアイテムが嵌められており、帰郷してから徐々に苦しむ者が出ております。どうすればよろしいでしょうか?」
帰還した奴隷獣人の世話を精力的に対応していた狼獣人ドルフが、苦い顔でロッドに相談に来た。
「分かった。苦しんでいるものを一人だけ連れてきてくれ。どのような物か見てみよう」
ロッドはドルフにそう答えると、アイリスに〔精神感応〕で確認する。
(アイリス、俺だ。悪いが〈隷属の首輪〉というアイテムについて知っていたら教えて欲しい。
『はい。隷属の首輪は、隷属系統の魔法によって装着者の行動を縛るアイテムとなります。事前に設定されている許可されない行動をとった場合、装着者への苦痛が続き、無理に外したり苦痛が長引けば最終的には死に至ります。その効果時間は数十年続くと言われております。一部の人間社会では広く使われているアイテムになります』)
(なるほど。既に装着されている場合はどうやって外せばいいんだ?
『はい。隷属魔法は一種の呪いになりますので、より強い魔法で解呪するか、〔魔法消去〕と同時にアイテムを破壊する必要があります。
ロッド様の超能力〔治癒〕でも解呪可能かと思われますが、今の状況を推察しますと解呪が必要な者は多数いると思いますので、以前実演させていただいた最上級魔法〔魔法無効領域〕を使用して隷属効果を無効にしている間に、壊すか外してしまえば良いかと愚考いたします』)
(さすがだなアイリス、ありがとう。その手を使わせてもらうとしよう)
ロッドはアイリスのアドバイス通り、模倣で習得した魔法を発動する。
最上級魔法〔魔法無効領域〕
=============== 《魔法無効領域》
魔法階級は最上級魔法。(最優秀の者だけが習得出来る高難度魔法)
指定された範囲内の他の魔法の発動を抑制する魔法である。
この魔法が発動された場合は、範囲内では全ての魔法が無効となる。
超能力は抑制対象外となるため、ロッドにとっては強力な魔法使いに対しての切り札となり得る魔法である。
魔法無効領域を〚魔法消去〛で消去する事は出来ない。
領域のサイズ、展開時間により消費するエネルギーが変動する。
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直径10mぐらいの円形の大きさで、地面から十数m先の上空まで薄く張られた膜のような領域が形成された。
少しして、ドルフがぐったりとした獣人奴隷を抱きかかえて連れてきたので、ロッドは魔法無効領域の中に入るように促す。
「ドルフ、そのままその膜の中に入ってくれ。恐らく隷属魔法を打ち消してくれるはずだ」
ドルフは少しびびりながら、足先をチョンチョンと中に入れて問題ない事が分かると、スッと淡い光の中に入る。
すると〈隷属の首輪〉が色を失い、ぐったりとしていた獣人の様子が変わり、少し頭を振ると自分で立ち上がれるようになった。
それを確認したロッドは、片手を伸ばして〈隷属の首輪〉を指輪のストレージに格納した。
奴隷獣人は〈隷属の首輪〉がいきなり無くなった事に驚愕するが、自分が奴隷から開放された事が分かると嬉し涙を流した。
とりあえず〈隷属の首輪〉が嵌められている獣人には魔法無効領域の中を通ってもらい、ロッドがストレージに格納したら退出してもらうように回し、一時間ほどかけて全ての獣人の処理を終えたのであった。
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「守護者様、誠にありがとうございました。これで我ら獣人は帝国の圧政から完全に逃れる事ができます。我ら獣人の里は、今後はあなた様に絶対の忠誠を誓います」
年老いた狼獣人の男が、他の長老と共に深く頭を下げながらロッドへの忠誠を宣言した。
「まあ成り行きだ。忠誠とかあまり仰々しく考えないで、王国内で平和に暮らしてくれれば良い。明日また確認に来るが移住もなるべく急がせてくれ。戦争に駆り出されている獣人達も、明日には移住先へ送れると思う」
ロッドが族長達に見通しを話した。
ロッドの話に頷く族長達であったが、族長達の後ろから出てきたミーアがロッドの前まで進み出る。
「半神の守護者様。私は神の巫女となるよう啓示を受けました。是非、今後はあなた様のお側で仕えさせて下さい」
ミーアはそう話すと丁寧にお辞儀する。
誰も止めないところを見ると、族長達も了承済みのようである。
「神の巫女というと、イクティス様と連絡が取れるという事か?」
ロッドは少しだけ驚いて聞き返す。
「はい。一度だけですが、神の巫女となり世界を救う守護者に仕えよとのお言葉を、直接いただきました」
ミーアがロッドの問いに顔を上げて答えた。
ロッドは少し考えた後、おもむろに仮面を外して素顔を見せた。
超能力〔肉体変化〕で髪の色も元の金色に戻す。
そしてミーアの目を見て意志を確認した。
「たとえ君に神の啓示があったんだとしても、新しい獣人の里で平和に暮らすのも俺は良いと思う。俺に付いてくるのは茨の道だ。俺も、君も旅の途中で命を落とすかもしれない。いや、可能性で言えばかなり高いだろう。それに命を掛けた結果、誰にも感謝などされないかもしれないぞ。それでも付いてきたいのか?」
「はい。先程あなた様に助けていただいた時から、私の心は決まっています。たとえ最後にどの様な結果が待っていようと、私は私の意志であなた様に付いて行きます!」
ミーアが覚悟を持った真剣な目で、仮面を外したロッドの目を見つめて答えた。
「分かった一緒に行こう。俺の名はロッドだ。これからはロッドと呼んでくれ」
ロッドがミーアに手を差し伸べる。
「はい、ロッド様。これからよろしくお願いします」
ミーアは差し伸べられた手に自らの手を重ね笑顔で答えるのであった。
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ロッドは夜間のうちに狼獣人ドルフを帝国軍の陣地に〔物質転送〕で送り返した。
ドルフが帝国軍内の獣人達に根回しをするためである。
奴隷が開放をされ、全ての獣人が新しい王国の地に移住している事を密かに共有し、合図で一斉に王国側に着くように根回しをする算段であった。
帝都と砦前の帝国軍陣地にはかなり距離があるため、獣人の件は帝国軍側にはまだ知られていないはずである。
ロッドは一旦、獣人の里の長老達に別れを告げ、新たに仲間となった猫獣人のミーアを連れて辺境伯領にある国境の砦に〔瞬間移動〕で戻って来た。
ジュリアンとリーンステアには簡単にミーアを紹介し、寝床となる部屋を世話してもらうと、超能力の連続使用で消耗した事もあり、一旦朝まで休む事となった。
ロッドは寝る前に〔精神感応〕を使い、アイリスにミーアの事を説明しておくのであった




