第45話 開放と移住
ロッドは狼獣人ドルフに里を思い出させ、その情報を元に獣人の里を特定し、〔瞬間移動〕で丘のような場所に移動した。
いきなり変わった景色に驚く狼獣人ドルフであったが、そこが自分の里である事に気付き、さらに驚いた。
「ドルフ。ここが獣人の里で良いんだな?」
ロッドはビックリしているドルフに構わず、確認する。
「は、はい、守護者様! ここは間違い無く我らの里でございます!」
「そうか。時間が勿体ないから今すぐ族長達を呼び出すぞ。ハム美は変身して俺の肩に乗ってくれ」
ロッドはそう言うとハム美に指示する。
(『はいデチュ!』)
ハム美は青白い光に包まれてユニークモンスターの姿となりロッドの肩に乗った。
まずロッドはこの里の中にいる獣人以外の人間を〔遠隔知覚〕で感知し、全員を〔サイコバリア〕で囲んで隔離した。
これは帝国側に動きを気付かれないようにする為である。
そして数十個の〔サイコキネシスの玉〕を生成し、それを自分やジョアンナ達の頭上の少し高い位置に掲げた。
〔サイコキネシスの玉〕の輝きが周囲を照らすライトのような感じになり、街の何処からでもこの丘が光りを発している事が分かる。
次にロッドは〔精神感応〕を使い、この里にいる全獣人に向け、ここに集まれというメッセージを数回発信した。
「俺は守護者だ! この里の族長達は今すぐ光の下に集まれ!」
そしてロッド自身は〔サイコ纏い〕を使い、ハム美と共に青白い光に包まれた状態で族長達が集まるまで待機する。
何事かと、続々と丘に集まる獣人達。
兵士のような者達に囲まれるが、狼獣人ドルフが必死の形相で皆に説明する。
「控えろ! このお方は、俺達が待ち望んだ守護者様だ! 絶対に武器を向けるんじゃない!」
だが、獣人の中には信じられないという声や、仮面を被っていて怪しいとか、ロッド達の体の大きさを馬鹿にすような声も聞こえて来る。
ドルフはそれを聞いて青くなったが、ロッドを馬鹿にされたと感じたハム美が、もの凄い形相で獣人達を威圧する。
「シャッ! シャーーッ!!!」
すると周りを囲んでいた獣人達は全員が例外なく、全身の毛を逆立てて震え上がった。
特にロッドを馬鹿にしていた者達は、強烈な威圧により気絶してしまったようであった。
少しすると威圧から立ち直った獣人達は、ぶるぶる震えて皆ロッドに跪いてお腹に手を当てた。
そして時間が経つと人混みの中から、数人の年老いた獣人がロッドの前に現れる。
それぞれ狼、虎、犬、猫、兎、狐、熊の7つの種族がいるらしい。
「おおお! これは! 聖獣様と守護者様だ!」
「やはり言い伝えは本当だったのじゃ!」
「予言の通りじゃ……うっ……うっ」
獣人達はロッド達を見て、伝承にある守護者だと気が付いたようであった。
皆が驚愕し、これで獣人が救われたと涙を流す者もいた。
「お前たちが獣人の族長達か?」
ロッドは前に出てきた獣人達に確認する。
「はい、そうでございます。あなた様は我らの伝承にある、聖獣を従えた半神の守護者様でございましょうか?」
年老いた狼獣人の男が代表して答え質問する。
「ああ。確かに俺は守護者だ。そして、こちらは帝国に隣接するランデルス王国のロードスター辺境伯家のジョアンナ姫だ。俺達はここにいるドルフからお前達獣人の窮状を聞いてやって来た」
ロッドはジョアンナに頷いて合図する。
「お初にお目にかかります。私はロードスター辺境伯家の長女、ジョアンナと申します。早速ですが、当家ではこの里の皆様に今後も安心して暮らして行ける土地を、ご提供する用意があります」
「「「おおお!」」」
族長達や、聞いている周りの獣人達が驚愕する。
「今後、細かい取り決めも必要かと思いますが、当家と協力的な関係を結んでいただける場合は、帝国のような戦争協力の強要であったり、奴隷要求などは絶対に行わないと、ロードスター辺境伯家の名誉にかけてお約束いたします」
ジョアンナが誠意を込めて説明した。
「その場合、守護者である俺も開放に協力しよう。ここにいる全員、捕らわれている者がいればそれも、全員を王国の地に送ろう」
ロッドもジョアンナを後押しする。
「ジョアンナ姫様、王国の辺境伯家の申し出、ありがたくお受けしたいと思います。半神の守護者様も、皆があなた様を待ち望んでおりました。どうかよろしくお願いいたします……」
年老いた狼獣人の男がまた代表して答え、その後感涙の涙を流した。
獣人達が口々に叫ぶ。
「やっと開放の時が来たぞ!」
「言い伝えの通りだ!」
「聖獣様がいれば怖いものは無いぞ!」
「守護者様、バンザイ!」
「これで我らは救われるぞ!」
ドルフはこれまでに戦争に駆り出され、死んでいった同胞達を思い起こす。
彼らにも教えてやりたかった。
やっと獣人達に平和が訪れる時が来たと。
狼獣人ドルフは静かに空を仰ぎ、涙を流すのであった。
ーーーーー
「ここでいいだろう」
ロッドは街の広場まで行き、アイリスから模倣で習得した魔法を使用した。
後にはジョアンナと侍女、獣人の族長達を始めとする大勢の獣人をゾロゾロと引き連れている。
最上級魔法〚次元の門〛!
=============== 《次元の門》
魔法階級は最上級魔法。(最優秀の者だけが習得出来る高難度魔法)
離れた場所である二点間の三次元的な距離を、一時的に短縮させて門として結合し、即時の移動を可能とする移動用魔法である。
二点間の距離、門のサイズ、門が開いている時間により消費するエネルギーが変動する。
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「この魔法の門をくぐると辺境伯領の移住先に行き来できる。馬車が2台は通れるサイズで、二日間は続くようにしてあるから急いで移住するように。族長達は指示を始めてくれ」
大口を開けてポカーンと門を見上げる獣人達。
族長達はロッドに言われた通り、移住の為の指示を始めた。
ロッドはジョアンナを手招きし、告げる。
「ジョアンナ、話がうまく纏まったな。良くやったぞ」
「ロッド様。ありがとうございます。私はお役に立てたでしょうか?」
ジョアンナが目を少し潤ませて尋ねる。
「ああ勿論だ。獣人達に今後の待遇を約束するにしても、立場がある者がしなければ意味をなさないからな」
ロッドは答え、ジョアンナの頭を撫でる。
ジョアンナも役目を果たした喜びで、薄っすらと嬉し涙を流しながら笑顔となった。
ーー
一旦、役目を終えたジョアンナと侍女を辺境伯城に返したロッドは、族長達と狼獣人ドルフに他の獣人の居場所を訪ねた。
途端に悲痛な顔をする族長達。
「帝都には人質となっている族長達の親族と、相当数の奴隷とされた者がおります。我らが移住したのを帝国側に知られたら、ただでは済まないかと……また、帝都以外の街にも奴隷とされた同胞が多くいるはずです」
ドルフは言葉が出ない族長達の代わりに真剣な顔で答えた。
「ならまずは帝都にその者達を救出に行こうか。ここに帝都に行った事がある者はいるか?」
「ワシ等族長は皆一度は帝都に行った事がありますじゃ。守護者様!」
猫の獣人婆が答える。
「そうか。なら婆さんの記憶を少し覗かせてくれ。それと、いきなり俺が一人で行っても話が通じないかもしれないな。族長達の中で誰か一人来てくれないか?」
「それもワシが行くのじゃ。孫が心配じゃしの。皆良いかの?」
猫の獣人婆が立候補する。
「うむ。良いぞ、お主の孫は少し特別だし心配だろう」
年老いた狼獣人の男が答え、他の族長達も同意する。
「話は纏まったな。ドルフお前はどうする?」
ロッドは一連の流れの切っ掛けになった狼獣人ドルフに尋ねる。
「出来ますれば、私もあなた様とご一緒出来ればと……」
ドルフは遠慮がちに申し出る。
「ドルフ、この流れはお前が呼び込んだ物だ。遠慮しなくして良い一緒に行くぞ」
ロッドがそう答えると、狼獣人ドルフは嬉しそうに微笑んだ。
「他の族長達は帝国の他の街に行った事がある者を、一人ずつ集めておいて欲しい。じゃあ行ってくる」
そう言うとロッドは猫の獣人婆の額に手を当て、婆とドルフを連れて帝都に赴くのであった。




