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第41話 修行と悪魔

ロッドはアイリスを一旦辺境伯城に帰し、一人で魔法の修行をしながら〔自在の瞳〕でジュリアンやジョアンナの様子を定期的にチェックしていた。


そして何度目かのチェックで、ジュリアンの様子が少しおかしい事に気付いた。


ジュリアン自身が危険なようには見えないのだが、物凄く深刻で泣きそうな顔をしているのである。


何事か起こったのかとジュリアンの周囲を探ってみても、何も特別な事は発見できなかったが、ここでふとリーンステアはどこにいるのかと思い立った。


ロッドは〔遠隔知覚(テレパス)〕でジュリアンの近くにいるはずのリーンステアを探し当てる。


予想と異なり、かなり離れた位置にいたリーンステアを〔自在の瞳〕で確認すると、太い槍のような武器で背後から刺し貫かれて、倒れるところを目にしたのである。


(なにっ!)

ロッドは驚き慌てて、急いでリーンステアの横に〔瞬間移動(テレポート)〕する。


仰向けに倒れているリーンステアの首に手を当てると、微かに脈が感じられ、虫の息ではあるがまだ生きている事が分かった。


ロッドは周囲に〔サイコバリア〕を張り、急いで治療を施した。


治癒(ヒーリング)〕!


リーンステアの身体の傷が見る間に塞がり、顔色が戻ってくる。


呼吸が穏やかになったのを確認すると、ロッドはやっと周りが帝国軍に囲まれており、苛烈な戦闘状態である事に気付いた。


周りには帝国軍と思われる兵が大勢おり、〔サイコバリア〕を武器で壊そうと頑張っているようであった。


ロッドは辺境伯騎士団である者だけを識別し、まだ生きている者は次々と〔サイコバリア〕で囲んだ上で〔念動力(テレキネシス)〕で空中に浮かべ、死亡している者は指輪のストレージに格納した。


そして全ての騎士の〔サイコバリア〕内に〔光の降雪〕を少しだけ降らせ、生命を維持させるのであった。


ロッドはこれを〔サイコポッド〕と名付け、応用技として定義した。


帝国軍は、敵兵を包む不思議な青白い球形の物=〔サイコポッド〕に斬りつけるも傷一つ付けられないため、困惑して悪魔の仕業ではないかと動揺が広がった。


目鼻口が空いていない真っ白の仮面に真っ赤な燕尾服姿のロッドは、とても戦争で見る様なスタイルではなく、帝国軍には悪魔のように思えたのであった。


ロッドは帝国軍が怯んでいる間に、まだ気を失ったままのリーンステアを横抱きにして〔念動力の翼〕で宙に浮かび、〔サイコバリア〕に囲まれたままの騎兵隊を空中に引き連れて上空まで浮遊すると、砦の方向にゆっくりと移動するのであった。



ーーーーー


リーンステアは頬に当たる風を感じて、目を覚ました。

目を薄く開くと視界の全てが青空であった。


リーンステアは、ここが天国なんだと漠然と思った。


とうとう死んでしまったと寂しく思うリーンステアであったが、ふと横を見ると見覚えのある仮面があった。


「ロッド殿! ここは……」

ロッドに横抱きにされ、空中を移動している事に気づいて驚くリーンステア。


「リーンステア、ずいぶん無茶をしたもんだな。かなり危ないところだったぞ」

ロッドが答える。


「それは……私とジュリアン様が、完全に帝国側でないと証明する為に、必要だったのです……」

リーンステアは周りでロッドに保護されて漂っている味方の数が、30に満たない事に気付き、肩を落としながら答えた。


「あ、あれは! あの兵器がまだあんなに……」

リーンステアは上空から見た敵陣の奥深くに、さらに10機以上の同じ様な攻城兵器がまだ存在する事に気付いた。


リーンステアは自分達の突撃は、大勢の騎士達の死は無意味だったのかと無力感に(さいな)まれ、涙を流す。


ロッドはリーンステアに接触した状態で〔精神感応(テレパシー)〕を使い、事情をある程度読み取った。


「お前達はあの攻城兵器みたいな物を壊しに行ったんだろう?」

ロッドが暗い顔のリーンステアに尋ねる。


「そうです……味方に多大な犠牲を出し、1機は破壊出来たのですが、まだあんなにも数が……」

リーンステアは涙を拭きながら答えた。


「泣くなリーンステア……これは死地で勇敢に戦って散った者達への、俺からの手向(たむ)けだ!」

ロッドはリーンステアを抱えたまま後方を向くと、魔法を発動した。


炸裂する火球(ファイヤーボール)〛同時発動!


すると空中に、帝国の兵器と同じ数だけの火球が瞬時に生成され、もの凄い速さで射出された火球が全ての目標に命中する。


魔法の同時発動。

これもロッドが今回の魔法の発動練習で得た成果であった。


帝国軍の攻城兵器は全て同時に大爆発を起こし、木っ端微塵とる。

周囲にいた帝国軍の一部も爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされて少なくない人数が宙を舞うのであった。


リーンステアや生き残った騎兵隊はロッドの魔法、瞬時に全ての攻城兵器を爆散させた力に、目を見開き口をあんぐりと開けて驚いた。


「まだ力加減が微妙だな。もう少し小さい爆発になると思ったんだが……」

ロッドは結果を確認すると反転して砦の方を向き、また空中を進むのであった。



ーーーーー


「なんだと! 我軍の攻城兵器が全て壊されたというのか!」

帝国軍の将軍である大柄で長い口髭を生やした男が、本陣で参謀から報告を聞いて驚く。


「はい。1つは砦から出撃したと思われる敵騎兵の奇襲により、その他は全て魔法攻撃によって破壊されたようです」

参謀役の細身の男が無表情で答える。


「魔法だと! 近くに大勢の魔法部隊でもいたのか?」

帝国将軍はさらに状況を尋ねる。


「いえ兵からの報告によりますと、仮面を被った赤い悪魔のような人物が突如現れて敵の指揮官を救出し、空を飛んで砦の方角に向かったとの事。その後にその仮面の者が空中から発射した魔法で、一気に全てが破壊されたようです」


参謀役の男が淡々と報告した。


「悪魔だと……馬鹿な。 はっ! その仮面の者は高位の魔法使いなのか?」


「恐らくそうだと考えられます。攻城兵器を破壊したのは、突如現れた仮面の魔法使いでほぼ間違いありません」

参謀役が断言する。


「ふん! だが、たった一人の魔法使いなどどうでも良い! 攻城兵器が無いなら、代わりに獣人どもや奴隷部隊、強制的に徴兵した民兵を使って砦に突撃させろ! 奴らはたかが2千程と言うではないか、獣人を含めた1万を突撃させれば確実に落ちるだろう」

帝国将軍は参謀に命令する。


「ですが、正体不明の力を持つ人物がいるようです。砦の攻略は少し慎重に進めた方がよろしいかと」

参謀役の男が忠告する。


「いらん! ワシの権限で命ずる。先の指示で進めよ!」


参謀の男は了承の印に、将軍に対し深く頭を下げた。


こうして帝国軍の砦への攻撃が始まるのであった。



ーーーーー


ロッドはリーンステアを抱えてジュリアンの前に降り立った。

軟着陸させた〔サイコポッド〕も解除し、騎士達も全て開放する。


「リーン! 良く無事で! ロッドさんも!」

ジュリアンがリーンステアとロッドに駆け寄る。


「久しぶりだなジュリアン。少し見違えたぞ」

ロッドも笑顔で応じる。


ロッドは、少し見ない間にジュリアンから甘さのような物が抜け、精悍な顔付きになったように感じた。


「ジュリアン様。騎兵隊は任務を達成しました。ですが、犠牲は多く出ました……」

リーンステアが悲しそうに報告した。


「うん。リーンステア騎士団長代行、任務達成ご苦労だった。皆も怪我を治療して今はゆっくり休んで欲しい」

ジュリアンがリーンステアと生き残った騎兵隊を労う。


そこへ騒ぎを聞いて、砦の司令官である副団長のゲイルがやって来た。

「勝手な事をされては困りますな。この砦の指揮権を持つ司令官は私なのです」


「ディスナー副団長。約束通り、砦の指揮権を渡してもらうぞ」

ジュリアンはリーンステア達騎兵隊を死地に送ったゲイルを、不快げに見ながら言う。


「ふうむ。いえ、まだまだ足りませんな。もう一働きぐらいしていただかないと信用出来ません。そこの、空を飛んで来た魔法使いも私の新しい駒になってもらいますよ」

副団長ゲイルはニヤニヤしながらジュリアンに答え、ロッドを値踏みするように視線で舐め回す。


それを聞いて、リーンステア、ジュリアン、騎兵隊の生き残りもゲイルを憎々しげに睨み付けた。


こちらは帝国軍に比べ圧倒的に少数であり、本来は一人でも多くの人員で砦の守りを固めるべきなのである。


ゲイルの要請での無謀とも言える突撃で、あれだけの仲間が死んだのだ。

それをまだ足りないと言う。


元々、ここの守備隊と辺境伯騎士団は辺境伯家の指示に従うべきであるが、波風が立たないように副団長を立てていたに過ぎない。


リーンステアは怒りが頂点に達し、守備隊との軋轢が生まれても良いという覚悟で、ゲイルに斬りかかる寸前であった。


だがその怒りが急に霧散してしまう。


ゲイルが煙のように消えてしまったからであった。

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