表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/79

第40話 対峙と出撃

リーンステアは帝国軍来襲の知らせにより、ジュリアンに騎士団長代行に抜擢され、国境の砦まで守備隊の増援に来ていた。


前の騎士団長であったジハルト・ハインマールが吸血鬼の君主(ヴァンパイアロード)の星落としの魔法により、戦死したためである。


領都アステルが魔物に襲われた際、ジハルトに乱暴されそうになったリーンステアであったが、その後の戦死もブランドル伯爵に踊らされた結果だと考えてみると、憐れにも思えるのであった。


だが生きている者は今起きている問題に対処しなければならない。


このタイミングで国境を突破しようと進軍してきた帝国軍をなんとか撃退し、辺境伯家に掛けられている謀反の嫌疑も晴らさねばならないのである。


ロッドに頼りたい気持ち、会いたい気持ちはあったが、あの激しい戦いの後に何処にいるのか不明であった。


仮に会えたとしても、ロッドの方には辺境伯家に積極的に加担する義務も義理も存在しない。


無理を言って命懸けで街を守って貰ったのだ。

これ以上の無理を頼む事は、心情的にも出来そうになかった。


一つだけ良かったと思えるのは、ジュリアンが成長してきている事であった。


盲目の時はただ流されるままであったように見えたが、吸血鬼の君主(ヴァンパイアロード)の一件以降見違えるように成長し、自分が辺境伯領を守る!という強い意志が感じられるようになったのだ。


ならば自分の役目は騎士としてジュリアンを守護し、命をかけて辺境伯家の役に立つ事である!


リーンステアは奮い立つ想いを抱き、勢い込んでこの砦まで来たが、ここでまた難問に当たってしまった。


砦の司令官が、リーンステアを認めようとしなかったのである。


ーー


この砦の司令官は、辺境伯領騎士団の副団長ゲイル・ディスナーである。


ゲイルは前騎士団長であったジハルト・ハインマールよりも年長であり、先を越された者であった。


ゲイル自身は大した能力を持っておらず、年功序列的に副団長になった者であるが、能力に乏しい者にありがちな嫉妬心は多く持ち合わせていた。


増援に現れた者が、騎士団長代行の小娘であると知ったゲイルは、面白くなかった。


先を越されたと思っていたジハルトよりも、さらに一回り若い女性のリーンステアにも先を越された形になった為であった。


実際には、リーンステアはゲイルよりも戦いにおいて実力は数段上であり、勉強熱心で集団指揮の能力にも優れていた。


通常は直ぐにでも指揮権をリーンステアに移譲するべきであったが、プライドが邪魔をしたのと、辺境伯家が王国に対して謀反の嫌疑が掛けられているのを知り、指揮権の移譲を先延ばしにしたのである。



ーーーーー


リーンステアとゲイルが対立しているのを知ったジュリアンは、2人を砦の執務室に呼び出した。


「ディスナー副団長。リーンステア騎士団長代行に砦の指揮権を移譲していないという事だが、どうしてだ?」


ジュリアンが副団長ゲイル・ディスナーに厳しく問う。


「お言葉ですが騎士リーンステアは若くしかも女性であり、とても砦の指揮が出来るように思えません」

ゲイルはポーカーフェイスで答えた。


「若い女性である事と砦の指揮が出来ない事には、なんの繋がりも無い!」

リーンステアが怒ったように低い声で反論した。


「父がいない間は嫡男である僕が辺境伯代理となる。僕の権限でリーンステアを騎士団長代行に任命したのだ。これに従ってほしい」

ジュリアンは辛抱強く説得する。


「ふむ。失礼ですが辺境伯家には、現在王国への謀反の疑いが掛けられていると聞いております」

副団長ゲイルが表情を変えずに話す。


「それは僕の命には従えないと言う事か?」

ジュリアンはそれを聞き、厳しい目付きで問い質す。


「いえ、そうは申しません。完全に帝国軍に敵対しているという証拠さえお見せしていただければ、速やかに指揮権をお渡しする所存です。ここには王国直属の守備隊も多くおりますので」

副団長ゲイルが少しニヤつきながら答えた。


「具体的にはどうすればいいんだ?」

ジュリアンは渋い顔で尋ねる。


「偵察の結果、帝国軍には砦を攻略する攻城兵器があるようです。騎士リーンステアには手勢を率いて出撃し、それを破壊していただきたい」

ゲイルは暗い笑みを浮かべ、嬉しそうに話した。


「なっ! 自殺行為だ! 敵は3万もいるんだぞ!」

ゲイルの提案にジュリアンは猛反対する。


砦を攻略する兵器ともなれば、敵も容易には近づけさせないだろう。

もし破壊できたとしても生きて帰れるとは思えなかった。


リーンステアは少し考えた後、覚悟を決めてゲイルに告げる。

「承知しました。これから私が率いてきた騎士団の騎兵と共に出撃しましょう」


「リーン!」

ジュリアンはリーンステアの命を捨てるような行動に、驚いて叫んだ。


「ジュリアン様、お静まり下さい。私なら大丈夫です。例え少数でも私達は王国の、辺境伯領の騎士団です! かならず敵の攻城兵器を叩き壊して見せましょう!」


リーンステアは覚悟を決めた瞳で、ジュリアンを諭すように話すのであった。



ーーーーー


リーンステアは砦の内側で騎乗して騎兵の隊列を整え、出撃するタイミングを待っていた。


敵軍3万にわずか200騎ほどで突撃するのである。

正直言うと、生きて帰れるとは思えなかった。


ふとロッドやジョアンナ、そして母親の顔が思い浮かぶ。


ロッド殿は今どうしているのだろうか。

あの戦いの後、姿が見えないが元気でいて欲しい。


泣き虫のジョアンナ様も大きくなられた。

このまま立派な令嬢になって、幸せな結婚をして欲しい。


そして母は……


父は既に亡くなり私までいなくなれば、母は一人になってしまう。

母には苦労させたのに、孫の顔も見せられず申し訳ありません。


心の中で母に謝罪するリーンステア。


だが勇気を持って忠節を尽くすのが騎士の本懐である。


ジュリアン様のため、辺境伯家のため、そして王国のために。

この命を燃やし尽くしても悔いは無い!


高まるリーンステアの目に合図が見え、砦の門がゆっくりと開く。

リーンステアは扉が開き切る寸前に、激を発した。


「目標は帝国軍の攻城兵器だ! 見つけ次第破壊せよ! 出撃!!」

「「「「「おおおーっ!!!」」」」」


勢い良く駆け出すリーンステア。


リーンステア率いる騎兵隊は、事前の打ち合わせ通りに中央に布陣している軍を避け、右側から迂回するように中央軍の裏に移動する。


まさか少数の騎兵で突撃してくるとは思わなかった帝国軍は、一時的に混乱して砦を攻略するための攻城兵器まで、リーンステア率いる騎兵隊の接近を許すのであった。


ーー


攻城兵器を目視したリーンステアは声を張り上げ、剣で目標を指し示し突撃を命じる。


「目標発見! 破壊せよ!」

「「「「「おーっ!」」」」」


兵器の周りに控えていた歩兵のような者を蹴散らし、リーンステアの騎兵隊が攻城兵器に馬上から騎槍(ランス)を突き立て、部分破壊を行う。


ある者は両手剣(ツーハンデッドソード)を叩き付け、ある者は騎槍(ランス)を突き立てる。


そうしているうちに帝国軍も混乱から立ち直り、統制を取り戻すと兵器を囲むようにして、騎兵隊に攻撃を加えた。


リーンステアは兵器を攻撃する者を守るよう、馬から降りて壁となる人員を配置し、帝国軍の攻撃に耐える。


10分ほどの戦いで騎兵隊の半数以上を失って、ようやく攻城兵器の脚となる部分を破壊する事に成功した。


攻城兵器がゆっくりと倒れ、地面に接すると轟音を立てバラバラとなる。


「破壊したぞ!」

「「「おおーっ!」」」


リーンステアの激に数を減らしていた騎兵隊が応える。


帝国軍が残りの騎兵隊に殺到してくる。

もう馬に乗っている味方はいない。


馬がいないこの状況では、脱出はほぼ不可能であった。


リーンステア達はなるべく纏まって背中合わせになり、抵抗を続けた。


帝国軍には獣人などの亜人も多く混ざっており、人間とは比較にならない物凄い力で串刺しにされる者もいた。


リーンステアも懸命に応戦するが、遂に背中側から貫通するように腹部へのダメージを受けた。


腹部を焼けるような痛みが襲う。


致命的な重傷(クリティカルダメージ)を受けたリーンステアは、仰向けに倒れた。


後は命が流れ出るのを待つだけである。


もうリーンステアは痛みを感じなかった。


砂埃の間から、太陽が眩しく輝く。


リーンステアの目は(まぶた)の重さに耐えられず、ゆっくりと閉じてゆくのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同作者の作品

神となった男

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ