第34話 神杖と覚醒
ロッドが吸血鬼の君主と対峙している頃、ハム美とピーちゃん、アイリスは多数の吸血鬼と上位種である4体の吸血鬼の貴人と睨み合っていた。
まずハム美が飛び出し、吸血鬼の一体に爪で斬撃を放ち、肩から下を切り裂いた。
最初は余裕の表情を見せる吸血鬼であったが、数秒後、自分の体が全く再生しない事に驚く。
「ごはっ!何っ。再生しないぞ!ぐああああぁぁ」
吸血鬼が驚いている間に、次に放った爪の斬撃で心臓を切り裂かれた者が滅ぶ。
ピーちゃんも吸血鬼を複数体ターゲットにすると、口を開いて見えない超音波〔超音波の放射〕を放つ。
超音波の有効範囲内にいた吸血鬼達は、目や鼻などのあらゆる穴から血を吹き出し、心臓などの内蔵も破壊され、滅ぼされていった。
「この鳥の不可視の攻撃は身体が内部から破壊されるようだ!再生が追いつかない!ぎゃあああ!」
吸血鬼達は性質上も蝙蝠系の魔物に近いところがあり、超音波の影響を受けやすく効果抜群であった。
ピーちゃんはそれならと近接攻撃をしてくる吸血鬼を前足の鉤爪で容易に切り裂き、再生しようと動きを止めた相手に近距離から超音波をあてて滅ぼした。
こうしてハム美の爪の斬撃と、ピーちゃんの近距離での超音波の放射の連携で残っていた吸血鬼達はさらにその半数を減らしていた。
ハム美とピーちゃんにとっては吸血鬼達は脅威にも餌にもならない、なんの価値も無い存在であった。
ヴァンパイア達は為す術なく、ユニークモンスターであるハム美とピーちゃんに、次々と滅ぼされていくのであった。
ーー
一方、アイリスは4体の吸血鬼の貴人と対峙していた。
吸血鬼の貴人は吸血鬼よりも高い能力属性値を持つ上位種である。
アイリスは相手が複数であるため呪文の詠唱をする暇が無いと判断し、神域の杖にストックしてある魔法を使用する事にした。
=============== 《神域の杖》
〈付随する機能〉
・固有魔法:神秘的な魔力の護り、魔法の威力向上
・魔法貯蔵(最大32,767ポイント分の魔法をストックできる。
〈魔法階級によるポイント数は以下の通り〉
初級…1、下級…2、中級…8、上級…32、
最上級…64、極大…256、神級…1,024)
・魔法同時発動(最大同時発動数は255、最大同時発動ポイント数は1,024。但し最大数または最大ポイントでの同時発動後は壊れて暫く使用不可となる)
・自動防衛(状況に応じて必要な支援魔法、防御魔法、攻撃魔法を発動する)
・詠唱速度+10(呪文詠唱時間が最大1/5になる(詠唱の場合は1/100にならない))
・魔力低減+10(魔法に必要な魔力が1/100になる)
・魔力向上+10(魔力属性値が100 倍に増加する)
・思考加速+10(思考時間が最大1/100になる)
・自己修復(自動的に修復されるアイテム)
・使用者固定(現在アイリスで固定されてる)
神域の杖は創造神イクティスからアイリスに授けられたユニークアイテムの杖である。
使用者の魔力を増やす、使用する魔力の軽減、詠唱速度の向上など、およそ魔法に関する様々な能力が最大限に付随している。
固有魔法である神秘的な魔力の護りは使用者が受けるダメージを生命力ではなく、魔力を代償とする事が出来るようになる。
また同じく固有魔法の魔法の威力向上は攻撃魔法のダメージを1発動分だけ向上させる魔法であり、魔法の種類によっては重ねがけする事により効果を重複させる事も可能である。
この杖と使用者は魔法的なパスで繋がっており、杖を離している間でも付随する機能は有効となる。
杖は魔法を蓄えておく事が可能であり、決められたキーワードまたは使用者の思考により通常よりも少ない魔力で即時発動および同時発動が可能である。
(但し、魔法をストックする際には通常発動と同様の魔力が必要)
また防衛に限っては自動で行なう事が可能であり、防衛を命じられた場合はストックされた魔法ではなく、杖自身が持つ魔法が使用者の魔力を消費して自動発動される。知性のあるアイテムとまではいかないが、簡易的なAIを搭載していると言える。
命令が無くても緊急時には自動で魔法を発動して使用者を護る場合もある。
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アイリスは杖を吸血鬼の貴人の一人に掲げ、事前にストックされていた魔法を発動する。
最上級魔法〚崩壊する物質〛
アイリスが最上級魔法を発動しターゲットの吸血鬼の貴人に光線の様な物があたると一瞬白く輝いた後に、細胞が素粒子レベルに分解されその存在が消えてしまった。
「な、なにい!我ら吸血鬼の貴人を一撃だと!信じられん!」
「なんだその魔法は?よくも!」
「手強いぞ!一斉にかかれ!」
吸血鬼の貴人達はアイリスの魔法に驚いた後、一斉に飛び掛かって来た。
「杖よ。我を護れ!」
アイリスは神域の杖に命じる。
杖が一瞬明滅すると自動防衛が発動し、アイリスと迫る3体の吸血鬼の貴人達に向け、それぞれ魔法を発動した。
アイリスに向けて
上級魔法〚強力な物理耐性の向上〛
上級魔法〚強力な魔法耐性の向上〛
杖から発動された強化魔法がアイリスの耐久属性値を向上させた。
吸血鬼の貴人達に向けて
〚炸裂する火球〛☓3
〚氷柱の爆発〛☓3
〚連鎖する稲妻〛
杖から発動された火球が吸血鬼の貴人に命中し爆発する。
次に、無数の氷結したつららがそれぞれに突き刺さり、一斉に小爆発を起こして命中箇所を部分的に氷結させた。
続いて発射された稲妻が吸血鬼の貴人達を連鎖するように貫通し、ダメージと共に一定時間痺れて動けなくさせる。
吸血鬼の貴人は高い魔法抵抗を誇っていたが、杖の使用者であるアイリスの魔力属性値が非常に高いため、かなりのダメージを受けるのであった。
吸血鬼の貴人達が動けない間にアイリスは杖が持つ固有魔法での支援魔法を発動する。
〚魔法の威力向上〛
1発限定となるが、自分が次に放つ攻撃魔法の威力が向上した。
〚魔法の威力向上〛
〚魔法の威力向上〛
アイリスは念のため、さらに2回魔法の威力を向上させ、攻撃魔法を発動する。
燃焼系極大魔法〚灼熱の獄炎〛
ハム美とピーちゃんを巻き込まないように注意して発動された極大魔法が、直径30mほどの範囲内で吸血鬼の貴人と、意図せず巻き込んだ吸血鬼達をほんの数秒で蒸発させる。
吸血鬼の貴人達は驚愕の表情で、吸血鬼達は何も分からない状態で、数倍に底上げされた威力の極大魔法によって発生した灼熱の炎により蒸発させたのである。
その後、残った吸血鬼をハム美、ピーちゃんと協力して掃討し終えた時、アイリスは上空のロッドが金色に輝くのを見るのであった。
ーーーーー
街の夜空に金色の太陽が輝くのを、ジュリアン達や冒険者達も含めた街の全住民が見た。
それはロッドが、半神の守護者が発している光であった。
ロッドは金色の光の中で目覚め、自分の中に新たなる力が宿っている事を感じた。
誰も到達した事のない、世界を守る力だ。
〈ギフト 英雄〉
・英雄の覇気(発動中は常時精神力を消費し特殊な身体強化状態となる)
・覇気の一撃(大量に精神力を消費するが物理・魔法問わず全攻撃力向上かつ耐性無視の一撃を与える)
・英雄の威圧(周囲もしくは目標とする者を威圧する)
・完全回復(英雄の覇気発動時に1日3回まで生命力を完全回復する)
ロッドは鑑定は出来ないが、与えられた力を不思議と理解する事が出来た。
〔完全回復〕
手脚も含めた全てが完全に治療され、回復した状態となるロッド。
吸血鬼の君主は、金色の覇気に包まれ無意識に周囲に重厚な強者の威圧を放ち、途轍もない存在感を放つロッドに驚愕する。
「お、お前は本当に人間か?はっ!お前はやはり!」
吸血鬼の君主は何か重大な事に気付いたようであった。
だが英雄の覇気を纏ったロッドは金色の〔サイコブレード〕を生成すると、吸血鬼の君主に反応が出来ないほどの高速で近づき、〔闇の衣〕ごと一刀両断にするのであった。
ーー
吸血鬼の君主の背後にそびえ立つ山の山腹が、英雄の覇気を纏ったロッドの〔サイコブレード〕の斬撃の余波で少し削れている。
吸血鬼の君主自身も両断されてズレる自分の左右の身体を押さえ、もの凄い声量で叫んだ。
「ば、か、な、ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
途端に吸血鬼の君主の傷が修復され、体が数倍に膨らみ、獰猛で巨大な大蝙蝠のような姿に変貌した。
「それがお前の正体か」
ロッドはそう言うと少し距離を取った。
吸血鬼の君主だった者は、狂ったようにロッドに襲いかかる。
ロッドは攻撃を受ける度に〔瞬間移動〕で瞬時に位置を変え、躱し続けた。
ロッドはただ躱すのではなく〔サイコジャベリン〕、それも高密度で特大の物を両手で生成しながら躱し続ける。
そして殆どの精神力を注ぎ込み、英雄の覇気を纏った金色の〔サイコジャベリン〕を、残りの全ての力を込めて放った。
〔覇気の一撃〕!
吸血鬼の君主に吸い込まれるように刺さった高密度で特大の〔サイコジャベリン〕は、〔覇気の一撃〕で更に威力が向上し、防御力も無視したダメージを与えた。
「グギャギャギャァァア!……………(パンッ!)」
全身に致命的なまでのサイコエネルギーのダメージを受けた吸血鬼の君主は、激しく痺れて痙攣し、数秒間石のように固まった後、砕けて塵になるのであった。
そして吸血鬼の君主のいた空間に、一つの指輪の様なアイテムが浮かぶ。
最後の力でその指輪を握ったロッドは、意識を手放し地上へと落下していくのであった。




