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第22話 難癖と証明

ロッド達と精霊の扉パーティーは宴会を中断して辺境伯の居城を出た後、その足でこの街の冒険者ギルドに依頼の完了報告をしに行く事となった。

精霊の扉はともかくロッドは一銭も持っておらず、報酬を入手しないと宿屋に泊まる金も無かった。マリーもいるので野宿という訳にはいかないだろう。


貴族街を出て暫く大通りを進むと、オルストにあるよりもかなり大きい冒険者ギルドのアステル支部の建物があった。


ロッドは勿論だが、精霊の扉も領都アステルへ来たのはこれが初めてであった。知り合いは全くいないが後は依頼の完了報告をして報酬を受け取るだけである。


精霊の扉6人とロッド一行で冒険者ギルドの扉をくぐり、それぞれ別々の受付の人に完了報告書を提出する。精霊の扉はすぐに達成報酬を貰えたようだが、ロッドの方はここで思わぬトラブルに見舞われた。


「あのねえ。Fランク冒険者2人だけで護衛依頼、それも指名依頼を受けたなんて信じられないのよ。それにどう見ても坊や達が戦える様には見えないわ」

少し歳のいった受付嬢が嘘を吐くなという顔をしてロッドに問いただす。


「嘘じゃない、ここにオルストの冒険者ギルドの印だって押してある。偽造なんかしていないぞ。それに辺境伯家のジュリアンとジョアンナは知り合いなんだ」

ロッドは誤解を解かないと達成報酬が貰えないので、正統性を必死に主張した。


「じゃあこの任意欄に書いてある手渡しの特別報酬の金貨8枚を見せてみなさいよ!。出せないでしょ?そんな嘘ばかり吐いて!辺境伯様の名前を使って嘘を吐くと不敬罪になるわよ!」

受付嬢がお金のない者には出来ないであろう証拠を求めた。


「それは相手方が理不尽な事を言い出して、貰えなかったんだ……」

ロッドは痛いところを付かれて珍しく動揺し、それでも弁解したがとても受付嬢に信じてもらえそうになかった。そろそろ後ろに控えているアイリスが切れそうになっている…


「俺達は銀級(シルバーランク)パーティーの精霊の扉だ。そこのロッドとはこの辺境伯領まで一緒に護衛をしてきたんだ。俺達がロッドの護衛依頼が本当だと証明するよ」

「そうよ。ロッドは獣使い(ビーストマスター)なのよ!」

魔獣使い(テイマー)じゃないのか?」

そこへ騒ぎを聞いて現れたバーン達が助け舟を出す。

フランはロッドを獣使い(ビーストマスター)だと思っていたようで、ザイアスは否定したはずなのにずっと魔獣使い(テイマー)だと思っている様子であった。


そこへかなり大柄な男が率いるパーティーが現れた。

「どうしたよキャサリン。コイツらと何か揉めてんのか?」


ニヤニヤした態度でロッド達を見下しながら話す大柄な男。

ロッドは男を冷たい視線で見る。


「そうなのよ〜。この坊やが護衛依頼を達成したなんて嘘を吐くもんだから困ってるの。架空支払いなんかになったら私の成績にも響いちゃうわ!」

受付嬢のキャサリンが悪びれずにそう話した。


大柄な男がロッドに尋ねる。

「おい、お前!嘘を吐くなんて悪いヤツだな!ん?男なのか?」


ロッドはいい加減イライラして大柄な男に吐き捨てる。

「俺は嘘など吐いていないし、正統な手続きで依頼の達成報告をしているだけだ」


大柄な男は少し酒を飲んでいるらしく、酒臭い息を吐きながら叫ぶ。

「なに〜子供の癖に生意気だな!俺様はCランク冒険者だぞ。お前のランクは?」


ロッドはさらに切れそうになっているアイリスを抑えながら答える。

「俺はFランクだ」


「Fなんて超初心者だろ!こい!俺がお仕置きしてやる」

大柄な男はそう言ってロッドの腕を掴もうととするが、精霊の扉のバーンとクラインがそれを阻む。


大柄な男と精霊の扉で一触即発の雰囲気になるギルド。


「だったらその坊やがガストン達に模擬戦で勝てたら認めてあげるわ!今なら外の訓練場が使えるわよ。どうする?」

受付嬢キャサリンが仲裁するように都合の良い条件を話した。


「ふざけんな!体格差を見ろ。ロッドが不利すぎるだろ!」

「そうだ!代わりに俺がやってやる!」

「FランクとCランクなんて無理に決まってるでしょ!」

「そうよ!可哀想じゃない!」

「非道です!」

受付嬢の提案にバーン、クライン、エスティア、フラン、マックスが憤る。


「俺が護衛として戦える事を証明すればいいんだな?」

ロッドは報酬を得る為に模擬戦を承諾したのであった。



ーーーーー


受付嬢キャサリンは王都で生まれ育ち、平民ながら王都の学校を出て冒険者ギルドに就職した。その際自分の希望とは異なり、王都ではなくここ辺境伯領への配属になった。王都の人員が過剰なのに対し地方のギルドが慢性的に人員が不足気味だからである。


希望としては家族もいる王都に戻りたかったが、特段優秀であるとは言えずプライドだけは高いキャサリンは上司や冒険者からの評価もそれなりであり、王都勤務の希望が叶えられる事は無く年齢を重ねていった。


その捌け口として遊び歩いたり無駄な装飾品を買うなど散財していたため、時折冒険者の報酬を誤魔化したりして小銭を稼ぐ事もあった。


ロッドが依頼の完了報告をした時も、初心者っぽい低ランク冒険者の報酬を無かった事にして、後で自分の物にしてやろうという企みから難癖を付けたのであった。


ガストンは自分の遊び仲間でもあり、ちょくちょく似たような難癖を付けた際にも今回と同じように力で処理してもらった実績があった。Fランク冒険者では絶対にガストンには勝てないだろう。今回も後で少し体を触らせるか多少の分け前をやれば良いだろうとキャサリンは考えていた。


ーー


ギルドの訓練場に立つロッド。

対面にはCランク冒険者のガストンと〈その仲間〉がいる。


バーン達が叫ぶ。

「何であっちは5人もいるんだ!卑怯だぞ!」

「そうだ!」「ふざけんな!」「卑怯よ!」「そうよ!」「非道です!」


受付嬢キャサリンが体を少しくねらせながら話す。

「はあ〜?私はガストン達に勝ったらと言ったのよ?個人とは言ってないわ!」


バーンが憤り叫ぶ。

「何言ってる!普通は一対一だ!それに武器も模擬用じゃないだろう!」


ロッドは騒ぐバーン達を片手を上げて制した。

そしてもう片方の手に握るアレを見せ、悪魔的な笑みを見せるロッド。


それを見てバーン達、特にザイアスは驚愕して目を丸くした。


「俺は別に真剣でも構わない。とにかく全員を戦闘不能にすれば良いんだな?」

ロッドは受付嬢に念を押すように確認した。


「ふん!そうよ。出来るものならね!」

受付嬢キャサリンは鼻を鳴らしながら答える。


答えを確認して満足したロッドは受付嬢に告げた。

「では始めてくれ」


ーー


ガストンは辺境伯領の周辺の小さな村で生まれ育ち、生来の体の大きさを活かすため冒険者となった。村にいた子供の頃に冒険者に魔物から村を救ってもらった事もあり、いつか自分も弱者を守る立派な冒険者になってたくさん功績を上げ貴族になる事を夢見ていたが、現実は厳しくそのうちに自慢の力だけでは通じなくなり、冒険者ギルドのランクも長年Cランクで停滞している有様であった。


ガストンはうまく行かない現実への失望感から酒に溺れ、新人いじめなどを日常的に行う様になり初心を忘れていった。いつしか似たような者達が集まって鉄級(アイアンランク)パーティーを結成したが今の仲間で銀級(シルバーランク)に上がる目処も立っておらず、燻り続ける毎日であった。


最近では簡単な依頼を受けては酒を飲み現実逃避を繰り返す日々であったが、今日は面白い事に女子みたいに華奢で弱そうな者を、自慢の力で叩き潰す事が出来そうだった。

相手はFランク冒険者であるらしいので負ける事など万が一にもあり得ない。

連れている女の子はかなりかわいいので、叩きのめした後に脅してしばらくは自分の慰みものにしても良いかなどと考えていた。


ーー


ガストンの指示で左右に2人ずつ剣や槍を構えた者がロッドを挟み込む。

ロッドは真後ろ以外は包囲された状態となった。

ニヤリとして両手剣(ツーハンデッドソード)を構えるガストン。

ガストンの頭の中では既に勝敗は決しているようであった。


逃げ場を無くした状態でガストンは正面からロッドに切り込んでいく。

剛撃(ハードアタック)


ロッドはその切り込みを軽く躱すと右に展開している者達に飛び込み、それぞれの顔に握っていた催涙スプレーを掛けた。

「うぎゃああああああ!!」

「ぎゃああああああ!!!」


痛みに転げ回る男達。


ロッドは続いて左側の男達にも同じように催涙スプレーをお見舞いした。

「ぐぎゃああああああ!!」

「があああああああ!!!」


左右それぞれで転げ回る男達。ロッドは催涙スプレーを懐に仕舞ったように見せストレージに収納し、代わりにサバイバルナイフを鞘を抜いた状態で取り出した。


そして呆気に取られているガストンに向け刃を翳し挑発する。

「こいよ。これで一対一だ。Cランクなんだろう?」


挑発を受け頭に血を昇らせるガストン。

模擬戦である事も忘れ、狂った様にロッドに斬り掛かった。


ガストンは重い両手剣(ツーハンデッドソード)をただ力で振り回しているだけで、そこに技術や賢さなどは感じられなかった。難度低ランクの魔物(モンスター)や初心者冒険者にはそれで通じるだろうが、これが冒険者として上に行けない要因でもあった。


ガストンの直線的で単純な攻撃を〔思考加速〕を使い紙一重で躱し続けるロッド。躱すたび服の一部をサバイバルナイフで怪我をさせないように注意して切り裂いていった。


やがて服はボロボロになり、酸素不足ではあはあと息を切らせるガストン。

もはやどちらの方の実力が上なのか、誰の目にも明らかであった。


ガストンは巨体過ぎるせいでスタミナを過剰に消費してしまい、長時間動き続けられないという自己の最大の欠点も露呈していた。剣を振る速度も初撃の技の半分も出ていない。


ロッドはガストンの様子を見て弱者をいじめているような嫌な気分になり、もう充分だろうと自分の武器を下げた。

「もう終わりにしよう」


ガストンにとってはチャンスであったが、その状態の相手に切り掛かる事はガストンの最後のプライドが許さなかった。


「はぁはぁ……俺の、俺達の負けだ…」

ガストンはロッドに潔く負けを認めたのであった。


「約束は守ってもらうぞ」

ロッドは受付嬢に顔だけを向けて冷たい視線で告げた。

受付嬢は苦々しい目つきでロッドを睨みつける。


その時、ガストンに向けて何かが飛来してくるのをロッドは感じた。

〔思考加速〕を最大限にして飛来物を見ると、どうやら投擲用の短剣(スローイングダガー)のようであった。


軌道は肩口を狙っており殺す意図は無いようだが、その大きさとスピードから当たればかなりの怪我になるだろう。


ロッドはガストンに向け、自分もサバイバルナイフを投擲するのだった


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