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7.酒の力は偉大



コルトが旅立って1週間が過ぎた。



のほほん牧場生活。



しかし、気になることが1つある。



ジョンガンが目覚めた初日、すずに今後は危険な事はしないでほしいというお願いと、薬草と看病のお礼を言ってくれた。

が、その後は挨拶する程度で特に会話をする機会がない。

(むしろ、なんだか避けられているような……)



社交的ではないのはもちろん納得している。が、それにしても目すら合わせない。

いつもササッと自分の部屋へ籠もるか、外へ出ても運動へと出掛けてしまう。


すずは同じ異世界へ来てしまった仲間同士、なんでも話し合える関係になりたかったのだが、どんどん心が離れてしまっている気がした。




そんな中、今夜はココの友達が「ぜひ夕食を食べに来てください」っと招待してくれたので、私とジョンガンはせっかくなのでお邪魔させてもらうことにした。



ココの友達はニケという名前の男の子で、赤毛で真っ白い肌にそばかすがあるお人形さんみたいな子だった。

そしてビックリしたのだが、夕食に並べられた果実酒をココやニケが飲み始めのだ。この世界は子供もお酒を飲んでいいらしい。


〚現実世界の良い子達よ〛

〚お酒は20歳になってからです〛


 

優しそうなニケの母親マリーは、すずとジョンガンに何度も感謝の言葉を述べてくれた。

この国が何百年も平和なのは、良識ある王様の存在と聖女様のお陰なのだとか。

隣国のライガル国では、数十年も聖女様が現れず王の資質が問われているそうだ。

国によってそんな違いがあることにすずは驚いた。



そして何よりも1番驚いたのは、ジョンガンの食いっぷり飲みっぷり。

コップにお酒を注げばゴクッゴクとすべて喉に流し込む。

テーブルに並んだ牛肉はペロリと食べてしまう。

そんなジョンガンの姿を見るのは初めてなので、すずはとても驚いた。


(お酒すごく好きなんだ…知らなかった)


そしてそのジョンガンを見て嬉しそうにガハガハと笑うのは、ニケの父親コニー。


「その飲みっぷり気に入った!もっと飲んでくれ!」


果実酒を作る親戚がいるそうで、テーブルの上にはどんどんお酒の瓶が並べられる。


すずも最初はちょびちょび品よく飲んでいたが、ジョンガンの飲みっぷりにもう我慢ができず、コップに注がれたお酒を一気に飲み干した。


「次はこのラズベリーのお酒をくださいっ!」


と顔色ひとつ変えずにニコリとお代わりする。

そう、すずは酒豪だ。



その日の夕食は大盛りあがりして、夜遅くまで続いたあとお開きとなった。



ほんのり頬は赤いがしっかりとした足取りですず、ジョンガン、ココの3人は一緒に家へと歩いて帰った。


夜空は今日も星が綺麗に輝いている。


おやすみ〜っと自分の部屋へ入っていくココを見送り、すずも自分のベットがある部屋へ向かおうとすると


「すずさん、ちょっと話しましょう」


と、ジョンガンに引き止められた。

手招きされるがまま家の外へ出て、2人はベンチに並んで腰掛けた。


外はココから借りている毛皮のコートを着ていたが、風がふくと頬に寒さを感じた。



「すずさんお酒強いですねー」



なんの話があるのか少し緊張していたが、このジョンガンの他愛もない話を続けるテンションの高さを見ると、かなり酔っ払っているようだとすずは気がついた。


ずっとこちらを見ながら楽しそうに話してくれている。

今まで見たことない一面を見てしまった。

(…かわいい)


初めて年相応の男の子な姿を見て思わず笑顔になってしまう。

それだけでとても嬉しい。


そしてジョンガンが初めて自分の事を話してくれた。

13歳から家族とは別に暮らし事務所の練習生としてアイドルを夢見て頑張っていたこと、夢が叶いアイドルになれたこと。

そしてファンに対する想いを一生懸命に伝えてくれた。

すずは静かに耳を傾けていたが、どんどん胸に熱いものが込み上げてきて、我慢しようとしたが自然と目からナイアガラの滝のように涙が出てきた。


それと同時に、今まで自分の中に溜め込んでいたものが爆発した。

自分のせいでジョンガンを異世界に連れてきてしまったのではないか?怪我させてしまったのではないか?元の世界に帰るこのは出来るのか?


ジョンガンは優しく頷きながら話を聞いてくれて「すずのせいじゃない。大丈夫だよ。」と子供に言い聞かせるように言葉をかけてくれた。



腹を割って話せたことで、年齢は違うけどお互い敬語も「さん」もやめようという話になった。

そしてジョンガンはついでにと言わんばかりに、すずの無防備さに対して説教を始めたのだ。

「他人の命を助けるために自分の命を粗末にしてはいけない。」「すずは女性だし体を大切にしてほしい。」

あと、魔獣を倒した灰色のローブの人の事もかなり注意するようにと怒られたので、


「ん〜でも助けてくれたし、ただの通りすがりの親切な人だと思うけど」


と、すずが純粋な瞳で言うと

「僕の話を聞いてなかったの??」

と、ジョンガンに鼻で笑われた。




どれくらい話をしていたのだろうか。

お互いもうそろそろ寝ないと…という雰囲気もあるが

少し名残惜しいという気持ちもあって2人で夜空を眺めていた。



沈黙がつづく中、ジョンガンが口を開く。


「すずの前向きさにすごく助けられてる。ありがとう」


その感謝の言葉にまた目が潤んだ。

自分なりにジョンガンのために出来ることを探して、明るく頑張ってきて良かったんだ。

嫌われてないと分かった。幸せだ。


そしてさっき聞いたファンへの想い。

私は絶対にジョンガンを元の世界へ戻してあげたい。


「2人で元の世界へ帰れる方法を探そうね」

とすずは言った。


その言葉を聞いたジョンガンはこちらに体を向け、ポケットに閉まっていた右手をすずの前に差し出してきた。

すずは素直にジョンガンの握手に応じた。

そしてジョンガンが呟く。


「すずって優しすぎるから。優しくするのは僕だけにしてね」


(それ…どういう意味?)と思ってジョンガンの顔をすずが見ると、含み笑いをしていた。

(これはからかわれているのか…?)

しかも手を離してくれない。

ずっと握った状態だ。


すずは顔がどんどん赤くなるのを感じて、なんだか胸が苦しくなってきたので、そろそろ寝ようかなっとジョンガンへ伝えると、手を離してくれた。





すずはひとりベットの上で先程までの状況を思い出し、悶えていた。




(こんなの…好きになっちゃうじゃん)




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