4.高熱
イケメン少年はココという名前だそうだ。
流暢に日本語を話し始めたので驚いたが、ココが住んでいる村へと歩いて移動しながら説明してくれた話によると
■今いる場所はアーベラスという国の北部
■大昔に聖女様が現れた湖があるため聖地として村の長が管理している場所らしい
■ココは村の長の息子で、小屋の管理を任されているとのこと
時々、掃除やお供物を持ってきていたそうだ
すずはココの話しを歩きながら聞いていたが、とても納得できる内容ではなかった。もしかしてちょっと精神病のある子なのかな?とも思ってしまい、淡々と説明してくれているココの顔をじーっと観察していたが、いたって正常で茶化している気配もなく真面目に説明してくれている。
何から質問していいのか頭が追いつかなかったが、とりあえず1番最初に言われた言葉が気になっていたので聞いてみた。
「聖女様ってなに?」
ココはすぐに答え始めた。
「僕もお祖父さんから聞いた話だけなんですが、魔獣を浄化する力をもつ人で、その力によって平和が訪れて国は救われるという昔話ででてくる女性のことです」
(ん? 魔獣って言った?あのゲームに出てくるような?私はゲームもあまり詳しくないけど…)
(おかしい…日本語も通じるし、何もかもがおかしい)
ココの顔を確かめるようにもう一度よく見てみるが嘘をついている顔には見えない。
むしろ、他に質問はないかと聞いてきてくれ気遣いができる賢そうな子だ。
今の話を聞いて、どう思うかジョンガンの意見を聞きたいところだが、私達の少し後ろを猫背に下を向いたまま歩いているのでとても聞ける雰囲気ではない。
小屋を出るときにあまり顔色が良くなかったジョンガンに、すずが気を遣って「肩を貸しますよ」と声を掛けたが、
「一人で歩けます」と断られてしまった手前、声をかけづらい。
私に遠慮しているのだろうか。
甘えてくれていいのにとすずは思った。
歩きはじめて20分くらいすると遠くの山間に集落が見えてきた。
先程までいた白い小屋と似ていて、白い木で建てられた平屋がポツポツと見えてくる。
それぞれの家の扉には違う色のパステルカラーのドライフラワーのリースがかけてあり、自然の中になんて可愛い村なんだろうとすずは思った。
「僕の家へどうぞ」っとココが案内してくれた家は他の家より3倍くらい大きい平屋だった。
玄関にはココの瞳と同じ色の深緑のリースが飾ってあった。
お家の中は靴のまま入るようで、お客さん用の部屋なのだろうかテーブルや椅子、シングルサイズのベットが1つ置いてある。
突然、後ろでバタッと音がした。
振り返るとジョンガンが倒れている。
「大丈夫!?」
すずがジョンガンの体に触れるとかなり熱かった。
「熱がある…背中にひどい傷があるの。病院って近くにある?」
ココは何を言っているのか理解できない様子で困った顔をしたが、ジョンガンの背中を見て驚き大慌てで、力を合わせて2人で身長183センチの大きいジョンガンをベットへと運んだ。
ココは別の部屋から壺に入った薬らしき軟膏を背中へ塗りながら話しだした。
「まさかこんな怪我をしてるなんて思わなかった……強い人ですね」
すずも同じことを思った。なんて我慢強い人なんだろうと。
「この薬で傷は良くなると思いますが、熱はこの人の生きる力を信じるしかないです」
「!?そんな……」
すずの背中に汗が流れる。
ジョンガンが目の前で苦しんでいるのに何もせず待つことなんてできない。
「薬とかお医者さんとかないの?」
「薬はこの村にはありません。徒歩で2日かかる街にならあるかもしれませんが…オイシャサンて何ですか?」
その言葉に驚く。
(医者がいない国ってあるの?解熱剤は?抗生物質は?)
(街まで2日って……)
すずは気が遠くなりそうな今の状況に目眩がし、ベットの隅へ座り込んだ。
ココがオドオドして部屋の中を歩き回る。
そしてしばらく沈黙が続いたあと、思い出したように話し始めた。
「僕が小さい頃に魔獣に襲われて切り傷を負った人がいて、すごく高い熱が出て目を覚まさなくて…本に載っていた薬草を飲んだら助かったのを思い出しました…たしか」
そう言いながら隣の部屋へと消えたココが、しばらくして分厚い本を手にもってきて机に置くとパラパラとページをめくりだした。
「これだ!!生息地は……」
ココの動きが止まる。
「ごめんなさい。ダメです。魔獣が出る谷が生息地になってます」
魔獣がどんなのか分からないけど、倒すとかは無理かと尋ねると、訓練された騎士団10人で勝てるか勝てないかくらい。と返事が来た。
(本当に、私は何もできないのか。)
ジョンガンを見ると顔色が悪く青白い、脂汗をかいている状態だ。
呼吸も荒く苦しそうにしている。
なぜ気が付かなかったんだろう。
ずっと一緒にいたのに。
無理に歩かせてしまった。
ジョンガンの生きる力を信じて見守るか。
(本当にそれしかない?)
すずは目を閉じ自分を鼓舞した。
いやふざけるな。
今まで私がどれだけこの推しに助けられてきただろうか。
どんなに仕事が大変でも
人間関係で悩んでも
恥ずかしい思いをして死にたくなったときも
常に推しの歌は私を癒やし助けてくれた
ダンスで魅了しトキメキをくれた
私の生きる理由のすべてだった。
世界中のジョンガンのファンが、今の私を見たらきっとこう言うだろう。
「何が何でもジョンガンを助けて!」
コンサートで初めてELEVENをアリーナ最前列で見たときの事を思い出す。
感動して震えて涙が止まらなかったことを。
すずは大きく深呼吸をしてココの方をむいて話す。
「谷にいくから道教えて」
ココは驚きを隠せない様子で反対してきた。
「絶対にダメですよ!!村の人間でも近づかない危険な場所です!」
だがすずの決心は揺るがない。
「それでもいく!私はこの人を絶対に助けなきゃいけないの!」
半ギレ気味にココを怒鳴ってしまった。
魔獣だかなんだか知らないけど、そんなの知ったこっちゃない。推しの命がかかってるんだ。
「ココは彼の世話を頼むね、靴を脱がせて冷たいものを脇の下へ入れて出来るだけ冷やしてあげて」
「あと水も飲ませてあげてね」
すずは話しながら本を抱え扉へ向う。
そんなすずを見てハーッとため息をつくココ。
「…じゃあまず、僕の毛皮のコートを羽織ってください、その格好では魔獣にすぐ殺されてしまいます」
そういえば薄い長袖姿だったのを思い出し、小さい声で「ありがとう」と言いコートを受け取ったすずはすぐに着た。
ココはカバンに本と短剣をいれて持たせてくれ、玄関の扉を出て太陽が高く登り始めた方角を指差す。
「谷はあの山が2つ並んで見えるところを目指して歩くと1時間ほどで見えてきます。」
「帰りたくなったらすぐに戻ってきてね!」と最後に言われた。
すずはココが指さした方角へと走り出した。
小説とは全然関係ないですが、職場の新卒の男の子が、食堂でご飯を食べているときに後ろの席で
「彼女おってもさー金かかるじゃん。今はいらないわー」
と話してるのが聞こえてきて
きっとまだこの子は会いたくて会いたくて震える恋をしたことないんだろうなぁと勝手に思ってしまったおせっかい作者です。