3.リピートアフターミー
翌朝、外が薄明るくなり窓から光が差し込むとすずは目を覚ました。
すずの太ももで寝ていたはずのジョンガンの姿はなく、白い布がすべてすずに掛けられている。
すずは白い布をぎゅっと抱きしめ、昨日の夜のことを思い出す。
(温かかったな。人肌ってあんなにポカポカして安心するんだ。)
29年間の人生で初めてすずは知った。
すずだって見た目は悪くない。
高校生の時は彼氏もいた。(2ヶ月で別れたけど)
クリニックの患者さん(80歳以上)からも
「うちの孫はどう?」と紹介されるくらいに人望もある。
恋愛や結婚もタイミングさえ合えばありえた話なのに、なぜか色々な事がズレてしまうすず。
扉がパタンと開き、服を着たジョンガンが入ってきた。普通に歩く姿を見てすずは心配になり声をかける。
「背中の痛みは大丈夫ですか?」
目線を落としたままのジョンガンはコクンとだけ頷き、遠く離れた別の長椅子に腰を下ろした。
(……そんなに離れて座らなくても……)
昨日一緒に過ごして距離が縮まったと思ったのに、この突き放されたような気持ち。
ガクッと首を落としたすず。
ザッザッザッ
外から一定のリズムの音が聞こえて近づいてくる。
思わず遠くに座るジョンガンと目が合う。
これは人間の足音だ。
すずが急いで扉を開けると、外国人の男の子が果物の入ったカゴを持ちながら驚いた表情をしてこちらを見ていた。
髪はミルクティーベージュ色でくるくるしている。
瞳は深緑で年齢は高校生くらいのさわやかなイケメンだ。
ただ服装がモコモコした毛皮のようなワンピースを着ていた。
すずが言葉が通じるか不安に思いつつ近づこうとすると、男の子が口を開いた。
「 聖女様だ 」
すずは聞いたことのない単語に思わずリピートアフターミーした。
「……セイジョサマダ?」
●すずのお仕事●
すずはクリニックで事務をしています。
愛嬌もあり、不特定多数のおじいちゃんズからお菓子の差し入れをもらうほどの人気。
同僚の男の子からもアプローチを受けたこともあるが、持ち前のスルースキルの高さでお付き合いには発展しない。そんなアラサーである。