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28.それぞれの想いと願い


それからすずとグレンは毎日のように地下室に入り浸っていた。


朝食や昼ご飯を食べる時間ももったいなく感じ、侍女さん達に頼んでサンドイッチを持たせてもらって地下室で本を読みながら片手で食べる日々を送っていた。


(こんな行儀の悪い姿、誰にも見せられない…)


禁書庫は王族の許可がないと立ち入れない場所なので、グレンと自分しかいないためすずは安心しきっていた。


しかし、なかなか目的の光の中へ消えた聖女の事が書いてある本は見つからない。

他にも元の世界へ戻った聖女はいないかも調べてはいるが、今のところ一人もいなかった。


この部屋の中に積まれている本も半分ほどまで到達したので、残りの半分の中には知りたい情報があるはずだ。

ジョンガンの事を考えると涙が出てきてしまうので、ガムシャラに頑張っていたすずはかなり疲れていた。


近頃、すずが部屋に戻って寝る前の時間をゆっくりとしているとき、これみよがしにヒソヒソと侍女さん達が話しだす。


「…1日中グレン様と2人きりで何してるのかしら…」


「まだ一度も王子が部屋に訪れないのよ…お可哀そうに」


「ふふっあの器量じゃあねぇ…」


「クスクス」


(…うるせー!!!!!!!わざと聞こえるように話しているのか?ケンカ売ってるのか?)


すずは口が悪くなってきていた。

そして噂好きの侍女さん達にうんざりしていた。



そんなストレスを感じる日々を過ごし数日が経っていた。


ついに明日はすずとライアン王子の結婚式だ。

簡単な打ち合わせや衣装合わせがあったものの、すずはクソどうでもいいと思っていたので用意されたドレスに心ときめくこともなく緊張することもなく、早く終わらせて禁書庫へ行きたいと思っていた。


なので結婚式前日と言っても、いつも通りグレンとすずは禁書庫で本を読み込んでいた。

2人は特に会話するわけでもなく、黙々と読み進める。

そしてその日ももう手掛かりが掴めずに終わると思われた夕方、グレンが急に声を出した。


「これだ!!」


すずは驚いてグレンの隣まで行きその本を一緒に覗き込んだ。

トトルル島のトール小国に現れた聖女23歳は突如として光の中へ消えた。

側近の魔術師が協力者でその時に使われたと思われる複雑な魔術の数式と魔法陣のような絵が隣に書かれていた。

グレンは瞬きもせずにその数式を見て考え込んでいる。

しばらくして口を開いた。

「なるほど…聖女の召喚魔法とは本当に真逆だ…しかし…」


口元に手を当てて考え込む姿にすずの頭に不安が過ぎる。


「グレンどうしたの?? 」


口元に手を当てたままグレンは呟く。


「1人ならこの方法で成功するかもしれない…2人同時は膨大な魔力が必要になるし前代未聞だ。」


「じゃあジョンガンだけでも先にお願い!!」

   

グレンの眉間にシワが寄る。


「…しかし…1人づつ時間をずらして発動すると時空にかなりのズレが生まれるかもしれない…そのズレは計り知れないぞ。1時間かもしれないし30年かもしれない。」


「…え??どういうこと?」


「元の世界へ到着する時間が違ってくるということだ。例えばジョンガンは召喚された時刻から1時間しか経っていない元の世界へ到着し、すずはそれから30年経った元の世界へ到着するかもしれないということだ。」


「っっ!?」

   

すずは目を見開いた。

元の世界へ戻れる喜びが一気に不安へと変わる。


そしてどの道、ジョンガンと共に生きていける未来はないのだと悟った。


それでも、もうすずに迷いはない。


「うん。それでも良いよ。ジョンガンを先に元の世界へ戻してあげてほしい。」


グレンの美しいグレーの瞳を見ながら言った。

グレンもその迷いのないすずの瞳を見て「分かった」と返事をする。










翌日、すずの結婚式が始まろうとしていた。

空は雲ひとつない晴天。

ライガル王国の錚々たる顔ぶれが来賓として呼ばれ、王宮は賑わっていた。


ライアン王子は白い礼装用の軍服を着ていてとても輝いて見えた。

すずはシルク素材のロングスリーブのドレスとドレスよりも長いベールを頭から被り、2人は腕を組んで歩みを進める。


城の長い廊下をゆっくりと歩いて進んでいる途中、いつもジョンガンが舞の練習をしていた庭園が見える窓を横切った。


(…ジョンガン…もう本当に会えないんだ…)


すずの瞳に涙が溜まる。その時、


「すず!!!」


自分の名前を呼ばれ、声がした方を振り返り見る。

呼んだのはジョンガンだった。


(ジョンガン!?)

すずの頬に涙が伝う。


後ろからグレンも一緒にこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

護衛のもの達が止めに入ろうとしたが、ライアン王子が手を上げ止めた。


すずはライアン王子の手を離し、ドレスの裾をもってジョンガンの元へと走った。

ジョンガンも走り出しすずを抱き締めた。


抱き合う2人の後ろで、グレンの髪が輝き出し発光したかと思うと、人間の姿から狼の姿へと変わった。

銀色に美しく輝く毛並みはまさに銀狼だった。


「!?グレン…??」


「2人を元の世界へ帰す。」


すずとジョンガンの足元に魔法陣が浮かび上がる。

護衛たちはオドオドとライアン王子の顔を見たが、ライアン王子は静かにその様子を眺めていた。



すずは大きな声で叫んだ。

「グレン…ありがとう!!」


大きな白い光に包まれ、2人の姿は消えた。




人間の姿に戻り仰向けに倒れているグレンの元へとライアン王子が含み笑いをしながら近づく。


「無茶をして…」


ライアン王子がグレンの上半身を優しく起こすと、グレンの瞳から一筋の涙が流れた。
















続きます。


ここまで読んでくれた皆さん本当にありがとうございますm(__)m

あと2話で完結します。

少しさみしいですが最後までよろしくおねがいします。

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