25.怒りから悲しみへ
すずは珍しく怒っていた。
今まであまり人に怒りを感じた事はなく、争うこともなく平和に29年間生きてきた。
だがあまりに身勝手な事がすずの知らないところで進められ決められていた。
部屋の中に立つグレンとライアン王子を睨みつけ無愛想な態度をとるすず。
先程すずは1人でライアン王子とグレンが待機する別室へとくるように指示され案内された。
そこで説明されたのはライアン王子とすずの結婚の話。
突拍子もない話に「意味が分かりません。」と怒りを隠せずにすずが話す。
ライアン王子もすずの反応に戸惑っている様子でグレンに質問した。
「グレンは説明してなかったのか?王から命令が出てすぐに通達したから了承済みだと思っていたのだが…」
グレンも珍しく目が泳いでいて落ち着かない様子で話す。
「…申し訳ございません。その…心が通じ合っているようだったので言えませんでした。」
すず「心が通じ合ってるって何が?」
「ジョンガンとお前だ」
(はああ?っへえぇぇ??)
すずは口をパクパクさせ動揺した。
そんなすずを見てライアン王子は王子らしからぬ申し訳無さそうな表情で話しだす。
「そうだったのか…それはこちらとしても心苦しいがこの結婚は譲ることはできない。王の命令は絶対だ。それに戦争を防ぐため仕方がないのだ。」
王子の人柄の良さを感じさせる言い方だった。
ライアン王子の説明によると、聖女がこの国に現れ浄化してくれたと分かれば、国中の民たちが聖女様の顔を一目見て祈りを捧げたいと集まる。すずの顔が国民に晒されれば証拠となりアーべラス王国は攻撃を仕掛けてくる。
しかし王子と結婚すればこの国の通例で結婚した女性は公の場に顔を出せない事になっているので、他国にもバレる事もなく国民も納得し平和的解決になるとの事だった。
(いくら国のためと言っても、ライアン王子は何とも思っていない私と結婚なんて本当に良いのか?)
すずはそんな人信じられないっと疑いをもった顔でライアン王子に目線を向けると、すずを労るようにライアン王子は優しく話しだす。
「安心してくれ形だけの結婚だ。そなたが望まないかぎり部屋へ通うことはしないし、私には他に愛する妻が2人いるから跡継ぎ心配もいらぬ。」
その言葉に少し複雑な気持ちになるすず。
(一夫多妻制かよっ!…なんかフラれた気分になるのはなぜだろうか…いやっ別にいいんだけどさ)
王子の話を聞きながらすずは頭にジョンガンの顔が浮かんだ。
ライアン王子にお姫様抱っこされたすずを見て、怒りの形相をしてこちらへ向かってきた時の顔を。
そしてまさか無駄にこじらせアラサー女子をやってきた自分が愛の無い結婚をすることになるとは思いもよらない。
もう一度ライアン王子とグレンの表情を見るが、この結婚が覆されることはなさそうだと分かった。
怒りが悲しい気持ちに変わり、自分の足元に目線を落とす。
ライアン王子はそっとすずの肩に手を置き話しかけた。
「私は子供の頃グレンと共に乳母に育てられた。年上のグレンは魔力の才能豊かで父から溺愛され期待されていた。私はそんなグレンが疎ましく許せない存在であった。しかし共に長年過ごしていく中でお互いを尊重しあい話し合っていくことで、今では誰よりも信頼の置ける強いパートナーとなった。そなたともそんな風に歩んでいきたいと思っている。」
(まだ若いのにあの王様の子供とは思えないほどまともで誠実だ)
すずはライアン王子の方が王に相応しい人物だと思った。
そして深呼吸をして自分の本当の気持ちを仕舞いこんだ。
(本当はずっと前から気がついていて、でも自分でも認めるのが怖くて誰にも言ってないこの気持ち。今ならまだ間に合う。
静かに仕舞える。
そう、私の第一優先はジョンガンを元の世界へ帰すこと。)
すずは前を向き直しライアン王子へ話しかける。
「結婚の事は分かりました。1つお願いがあります。私に禁書庫へ入る許可をください。彼を…私のせいで巻き込んでしまった彼を元の世界へ戻してあげたいんです。」
ライアン王子は少し目を見開いていたが、しばらく考えてから口を開く。
「分かった許可しよう。グレンを共に連れて行くといい。あそこは莫大な量の本が保管してあるから危険な場所だ。」
その言葉にすずはホッとし、ライアン王子へお礼を伝えた。
そしてすずはグレンに気になることを聞いてみた。
「この結婚のこと…ジョンガンはまだ知らないよね?」
グレンはコクンっと頷いた。
「私から話したいから、言わないでいてね。」
グレンはまたコクンっと頷いた。
次回予告
ジョンガンが暴走モード突入!?




