24.アイ・アム・セイジョ
王との謁見をなんとか無事に済ましホッと一息ついたのも束の間、すずとジョンガンはお付きの人に案内され城とは別棟の太い柱が並び建てられた建物へと連れて行かれた。
近くで見るとすべて白い石で作られている建物だということが分かった。小学校の体育館くらいの大きさだろうか、かなりの横広さを感じる。
建物の入口に佇んでいる腰の曲がった老人が話し始める。
「ここからは聖域のため、聖女様のみお入りください。」
予想外の指示にすずは質問をした。
「私一人でですか?ここは何ですか?」
「ここは歴代の聖女様に祈っていただいた神殿でございます。我々は入ることを許されません。この国のためこちらでお祈りください。」
振り返りグレンの顔を見るとコクンと頷いている。
ジョンガンと離れる寂しさと不安な気持ちが押し寄せ、心臓が急に早くなるのを感じた。
(自分が離れている間にジョンガンの身に何かあったら嫌だ。)
すずは念を押した。
「グレンの事信じてるからね。ジョンガンを絶対に守ってね。」
グレンは無言で頷いた。
ジョンガンが心配そうにすずの肩に手を置き話しかける。
「何かあったらすぐに呼んで。近くにいるようにするから。」
ジョンガンは真剣な眼差しだった。
「うん、ありがとう。行ってくるね!」
すずが1人で歩みを進め建物の中へ足を踏み入れると、外側から扉をパタンとしめられガチャッと鍵をかけられたらしい音がした。
(軟禁状態ですか…)
すずは深呼吸しながら奥へと進む。足音だけがコツコツと響く石の床を進むと、真ん中に円が描かれた床を見つけた。
天井を見上げると幾つか穴が開いていて、外の陽の光が円を照らすようになっていた。
(ここかなぁ…でも祈るってどうすればいいんだろう…)
すずの記憶の中で祈ったのは高校受験の時、お母さんと2人で神社でお賽銭を入れパンパンッと手を叩いたあれだけだ。
試しに円の真ん中に立って目を瞑ってパンパンッと手を叩いてみた。
…シーン
何も起らなかった。
(ここじゃないのかな。一応もう1回っ)
パンパンッと手を叩き合掌するすず。
…シーン
(…どうなったら成功なのかも分からない。祈り方が違うのかな?全然分からない…スマホで検索したい…どうしよう)
しばらく建物の中を歩き回ってみてみるが、他に部屋も何もない。
床に円が描かれている所を中心に空間が広がっているだけだった。
一人で考えても答えが見つからないので、入ってきた入口に戻り扉をコンコンっとノックをすると
「どうされましたか?」と、先程の腰が曲がった老人の声がした。
「あの…祈り方に決まりがあったら教えてほしいんですけど」
老人はしばらく考えていたのか無言が続いたあとに教えてくれた。
「両膝を床ついて胸の前で手を握る、これが一般的だと思われます。」
(一般的と言われても)
と思ったすずだが「ありがとうございます」とお礼を言い円へと素直に向かった。
教えてもらった通り床に両膝をつき胸の前で手を握り目を瞑ってみる。
硬い石の床に膝をつくのは痛かったが我慢した。
そしてしばらく様子をみたが、何も起こらなかった。
何時間経っただろうか。
すずは焦っていた。
一向に何も起こる気配がない。
1番想像したくはないが自分は聖女じゃない可能性だってある。
このままでは自分もジョンガンも命が危ない。
硬い床に膝をつき続け足の感覚がなくなってきている。目を瞑っているすずの顔に頭部から垂れてきた汗が伝う。
(どうしよう…どうしよう…)
気持ちばかりが焦りどんどん息苦しさを感じ体がフラつく。
その時、外から何かが聴こえてきた。
すずは呼吸を整えて外の音に集中して耳を傾ける。
ピアノの音だった。
(どこかで聴いたことのあるメロディ…あっ思い出した。)
髪の毛をオールバックにして色気がダダ漏れだったジョンガンが、すずに1番に聴いてほしいと言って演奏してくれた。ジョンガンが作った曲だ。
一度聴いただけで耳に残る切ないメロディ。
(ジョンガンのピアノの音だ)
すずは目を瞑てゆっくりと深呼吸をした。
こんなに私の心を奮い立たせてくれる存在はジョンガンしかいない。
すずは気持ちを落ち着け集中した。
(私は聖女じゃないかもしれない。けど誰よりも人の幸せを願っている。魔獣だって幸せに生きてほしい。ルカ君みたいな悲しい思いをする子供をこれ以上増やしてはいけない。皆が幸せを感じ生きていける世界になってほしい。お願いっお願いします。力を貸して。)
すずの握っていた手から光が漏れている。
驚いて自分の体に目をやると胸元が強く発光し全身が白く光っていた。
どんどんその光は強くなり、建物の中が真っ白になりすずは周りが何も見えなくなる。
外に待機していたお付きの者たちは、建物から漏れる強烈な光に驚きただ呆然と立ち尽くしていた。
光に気がついた城に使える者たちもたくさん集まってくる。
建物から漏れる光が段々と弱まり、しばらくすると扉を叩く音が聞こえ腰の曲がった老人が慌てて鍵を開けるとすずがこちらを伺うように立っていた。
すずは開かれた扉の前に集まる大勢の人を見てギョッとした。
そんなすずを見て腰の曲がった老人が涙を流しながらすずに跪き口を開いた。
「この国を救っていただきありがとうございます」
「うぉーーーー!!!!」
「聖女様ー!!!!」
拍手と感謝の叫び声が響いた。
抱き合って泣いている兵士もいた。
(これで成功したってことだよね…?よかった…)
安堵したすずは体から力が抜け、倒れないように壁へと体を預けもたれた。
遠くからジョンガン達が走ってくる姿が見える。
体がふわっと浮き上がり急に後ろから抱き上げられた事にすずは驚き、自分をお姫様抱っこした人物の顔を見た。
ライアン王子だった。
「ご苦労だった聖女すず。ゆるりと体を休めよ。私達の結婚式も日が近い。」
「…………へ?」
すずは眉間にシワを寄せライアン王子を見た。
ELEVENのサブボーカル、パク・テオン身長180cm
作詞作曲の才能があり数々のELEVENのヒット曲を生み出している。普段は物静かなクールイケメン。
甘いものが苦手でスイーツ店に入ったことがない男として有名である。




