23.プロアイドル
「!?」
その言葉にすずは顔を上げた。
王の後ろ両サイドから黒いフードで顔を隠した2人が音もなく現れジョンガンへ近づいてくる。
すずは立ち上がりジョンガンの前に立った。そのすずの前にはグレンが手を広げ立ちはだかり話し始めた。
「この者の命を保証することで聖女はこの国に協力すると約束しました。お考え直しください。」
王はその深く刻まれたシワと顎にたっぷりと生えた白い髭を触りながら口を開いた。
王「ほお…そなたが口答えするのは初めてだな。犬のように忠実だと思っていたのだが。」
王は話しながら右腕を伸ばしジョンガンを指さした。
王「だが、私にとって利用価値のない者は邪魔なだけだ。やれ。」
黒いフードの2人が手を伸ばし呪文のような言葉を喋ると魔法陣が空中に浮かび上がり赤い炎が上がった。
ジョンガンは身構えすずを庇う。
するとグレンが小さい声で呪文を唱えたその瞬間、黒いフードの2人は膝から崩れ落ちるように床に倒れ魔法陣が消えた。そのままの体勢で動けない様子で下を向いたまま手が震えているのが見えた。
王は「早いな、流石は銀狼だ。」
すずは何もできない緊迫した状況に額から汗が流れ、ただ自分を支えてくれているジョンガンの手を強く握り返すだけだった。
王はまた髭を触る仕草を見せた後、横を見た。
王「ライアンお前が殺すのだ。」
王の隣で無表情で立っていた立派な服装の男性がビクッと顔を歪ませた。
よく見るとまだ若そうな青年で腰の剣を握ってはいるが動こうとしなかった。
王「ライアン!これは命令だ!」
ライアンの喉仏がゴクリと動くのが見え、ゆっくりとこちらへ歩み始めた。
すずがグレンの方を見ると、いつも涼しい顔しかしないグレンが苦い顔をし「ライアン王子…」と呟いた。明らかに動揺しているように見える。
すずが焦り逃げる体制をとるとジョンガンが口を開いた。
「音楽をくれませんか?価値があれば殺されずに済むなら見てから決めてください。」
予想外の言葉にすずはキョトンとジョンガンを見つめた。
みんなの視線がジョンガンへと集まる。
王「…音楽?男のお前が舞でもみせてくれるのか?余は美しい姫の舞しか認めぬぞ。」
王が嘲笑いをした。
ジョンガン「では音楽をお願いします。そちらの剣と白い布を貸して欲しいです。」
ジョンガンはライアン王子の身に付けていた剣と飾り布を指さした。
王がパンッパンっと手を叩くと、隣の部屋からハーブのような楽器、弦のついた楽器、鈴のような楽器が準備された。
王「では見せてもらおうか」
ジョンガンはすずから手を離し王の前に出た。白い布を頭から全身被り剣を床に置き座った。
鈴の音と共に演奏が始まる。
すずは鳥肌が立った。
白い布を巧みに操り音楽に合わせ妖艶に踊るジョンガンの姿。
布を被ることによって女性が舞っているようにも見えるし、かと思えば剣を巧みに操り男性らしい力強い動きを魅せる。
(天女だ。いや、ジョンガンは天才だ。即興でなぜ踊れる。意味がわからない。)
すずは開いた口が塞がらない。
他の人達も同じようで、先程まで床に倒れ込んでいた黒いフードの2人も口を開けて呆然と魅入っている。
グレンやライアン王子も同じ様子で驚いた表情をしている。
ただ王の表情だけ読み取れなかった。
白い髭を触りながらジョンガンから目を離すことはないが何か考えているようだった。
油断できない状況にすずは神経を研ぎ澄ます。
すると突然、王が席を立った。
「もう良い…ライアンの結婚式の良い余興になりそうだ。」
それだけ言い残し、王の間をあとにして足早に出ていった。
王が部屋から出ていくのを目で確認し、すずはジョンガンへかけ寄る。ジョンガンは肩で息をし近くで見ると尋常じゃない汗をかいているのが分かった。かなり緊張していたのだろう。
グレンはライアン王子へかけ寄り心配そうに肩に手を添えて何かを話している。その姿を見てかなり親密そうな関係だとすずは感じた。
ジョンガンが「ふー」っと大きく息を吐き床に座り込んだのを見てすずは声をかける。
「大丈夫??よく即興で踊れたね!すごく綺麗で驚いたよ。」
「…練習してたから…今度、史劇に出演する予定で…」
(まじか。ついに念願の俳優デビュー!?それ、絶対に見たいやつだ。)
すずはやはりジョンガンと共に絶対に元の世界へ戻ろうと再度心に誓った。
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