22.ライガル王国
容赦なく照りつける太陽のせいで馬車の中はかなり暑かった。
整備されていない道はガタガタと揺れ何度か車輪が外れたり、泥にハマってしまったりトラブルを起こしながら進み3日が過ぎていた。
ライガル王国の王都へ近付くにつれて気温がどんどん上がり、途中で麻のような素材の服が用意されすずとジョンガンは袖を通した。
すずが渡されたのは亜麻色のノースリーブのワンピース。ジョンガンは亜麻色の半袖服と半ズボンだった。
(私の服ノースリーブなんですけど…確かに涼しそうだけど腕出すの抵抗あるな)
文句を言うわけにもいかず、素直に服を着たが二の腕を隠すように腕を組み両手で左右の腕を握った。
涼しい格好で少しは快適になるかと思いきや、それでも続くジメッとした暑さに2人ともかなりバテ気味だった。
3日前、子供達と長縄で遊んでいるときに迎えの馬車が到着し、グレンの指示ですぐ出発することになってしまった。
ルカ君にお別れを告げたときすごく寂しそうな顔をしていたのが忘れられないすずであった。
馬車での移動中に、魔獣に襲われ被害を受けた街を通り過ぎ、家を失い路頭をさまよう人々を見た。
ライガル王国の現実を目の当たりにして、すずとジョンガンは言葉数が少なくなっていった。
グレンが口を開く。
「見えてきた。あれが王都だ。」
すずとジョンガンが窓をのぞくと遠くに灰色の建物の密集地帯が見えた。
細長い棒のようなものが沢山そびえ立っているのが見え、近づくとそれがすべて煙突だということが分かった。
煙突からはそれぞれ群青色、萌葱色、薄紅色といった様々な色の煙が出ていた。
「魔法具を作るときに使う魔石や材料によって出る煙の色が変わる。ここは元々は職人が集まって栄えた街だそうだ。」
グレンの言葉通りここは大きな工場街だと感じた。
馬車を降り街へ入ると耳に入ってくるのは様々な機械の音、窓からは建物の中で火花が散っているのが見えた。
すれ違う人達の服は茶黒く汚れ年季が入っている作業服のように見えた。
しかしあまり愛想はなさそうで、歩くすずやジョンガン一行に気がづくと大袈裟に避け、足元から顔まで全身を探るような目線を送ってくる。
あまり良い気分がしないすずが目線を落とし歩きはじめると、ジョンガンがすずの腕を掴み引き寄せ小声で話した。
「僕の後ろを歩いて」
すずは言われるがままジョンガンの後ろ側へまわり歩く。
すずの姿を隠してくれる大きな背中を見つめながら、他の人の視線が気にならなくなった事にすずは安心して歩みを進める。
(いつも私が何も言わなくても察して助けてくれるんだよね…)
先頭を歩くグレンに続きすずたち一行は城へと入っていった。
そして何の準備も説明もなく一行が最初に連れて行かれたのは王の間だった。
王の間はとても静かで自分たちの足音だけが響く。
すずは心臓が早くなるのを感じた。
部屋の奥には王らしき人が大きな椅子に座り、横には立派な服装をした若い男性が立っていた。
グレンに言われるがまますずたち一行も膝をついて頭を下げ王が話し出すのを待つ。
そしてしばらくした後、王らしき人物が口を開いた。
「それが聖女か」
グレン「はい。」
「すぐに祈りを捧げるよう動くのだ」
グレン「はい。心得ております。」
「その男は?」
グレン「…アーべラス国で聖女と共に召喚されて現れた者です。私達の姿を見られたので連れてまいりました。」
王はしばらくの間黙っていたが静かに口を開く。
「邪魔だ。殺せ。」
王の間に低い声が響いた。
つづきます




