19.母の面影
グレンは人間ではなく半獣だった。
すずもジョンガンも聞き慣れない言葉に首を傾げていると、その様子を見て呆れたように頬に古傷のある黒装束がライガル王国の国章を見せながら説明してくれた。
狼のような動物が描かれた国章だった。
大昔、ライガル王国に存在したという銀狼は人の病や傷を癒やす魔術を使い、人々から神の使いとされ崇められていた。信仰が強かった者たちによってこの国章が作られたそうだ。しかしその魔力の強さに恐れを抱く者達もいた。そして人知れず銀狼は姿を消した。銀狼の魔力を恐れたものによって処分されたのか、今となっては分からない。
そして時が経ち、誰もが銀狼は伝説だと思っていた頃、ライガル王国の田舎で子供だったグレンが発見され王宮に迎え入れられたとのこと。
「本当ならこのように一緒に食事を共にさせて頂くのも恐れ多いのだ。言葉に気をつけるように。」
と釘をさされた。
それでも2人にはあまりにファンタジーな話しすぎて理解できなかった。
目の前にいるグレンは人間離れしたモデルのような細い体型に美形な顔の銀髪だが、どこからどう見ても人間にしかみえない。
グレンの顔を観察するように見ているとグレンが口を開いた。
「私がその伝説の銀狼かどうかは分からない…幼い頃に家族が死んで自分も死にかけていた時に王に手を差し伸べられた…その時に自分が獣の姿になっていた事を知ったくらいだ。銀狼については私は何も聞かされていない…」
「間違いなくあなたは銀狼ですよ!その魔術に私は何度も命を救われました!」
頬に古傷のある黒装束が嬉しそうに声をかけるが、グレンの表情はどこか寂しげだった。
食事も終わり、各々が部屋を出ていった。外は暗く先程まで賑やかだった隣の部屋もいつの間にか静かになっていた。きっと子供たちは眠りに入ったのであろう。
すずは部屋で休むことにした。
グレンの手配で明日には迎えの馬車が到着する予定で、その馬車で王都へと向かうそうだ。
すずは先程の銀狼の話や戦争の話し、頭が追いつかずボーっとベットに座っていた。
明るさが取り柄のすずもなんだか頭の中がグチャグチャで、自分はどうしたいのかどうすればいいのか分からなくなっていた。
そんなすずの目の前にいつの間にか部屋の中にいたグレンが向かい合って座ってきた。
何事かと思ってグレンの顔を見ると口を開いた。
「王の命令で他国の歴代の聖女について情報を集め本を読んだ中に、1人だけ消息不明の者がいたことを思い出した。南の方の島国に現れた聖女で役目を終えてしばらくして光の中へ消えたと。」
すずは「…光の中へ消えた?」と聞き返した。
「そうだ…それが元の世界へ戻ったのか、どうなったのかわからないが、とにかくこの世界からは消えたということだ。」
すずはしばらく黙り込み、「その本を私も読みたいです」と口にした。
グレンは少し難しい顔をした。
「ライガル王国の禁書庫にその本が保管されているはずだが…王族の許可がないと入れない場所だ」
すず「じゃあ私が直接頼んでみます。教えてくれてありがとう」
すずがお礼を言い微笑むと、グレンがまた不思議そうな顔をした。
何度もこの顔をするのでついに気になって聞いてみた。
「私って変なこと言ってますかね?」
グレンはしばらく黙ってから口を開いた。
「…思い出した。似ているんだ…遠い記憶の中の母に。明るく誰にでも手を差し伸べるような優しい人だった。」
(それで不思議そうな表情をしてたのか!)
そしてその言葉にすずは目を細めて頭を抱えた。
(この前もお母さんに似ているってルカ君に言われたけど…私って一体何歳に見えているんだろうか。)
少しズレているすずは、そんなことを思っていたのであった。
かなり暑い日が続いてますね。
みなさんも熱中症など気をつけてください。




