16.お風呂上がりのイケメン
外は生温い風が吹いていた。
廃墟となった街に魔獣が住んでいたとなると、もう安心して眠ることはできなくなってしまった。
グレンの指示ですず達は眠ることを諦め隣町まで徒歩で夜道を移動することになった。
昼間は山道を歩きかなりの体力を消耗し、引き続いて予想外の夜間歩行。さすがのグレンも涼しい顔をしてはいるが白い肌にハッキリと青白いクマがあるのが見えた。
山道と違って平らな道を進むだけだったので、なんとかすずもジョンガンの助けを借りながら歩くことができた。
魔獣がいつ飛び出してきてもおかしくない道を警戒しながら進む。
一行が隣町についたのは空が薄明るくなる頃だった。
先程の街とは違って木造の家や畑がある集落だった。
洗濯物や農具が置いてあるのが目に入り、人が住んでいる気配を感じ少し安心した。
グレンが扉をノックした先は学校のような建物で、庭に子供が遊んでいたと思われる木のオモチャや小さな椅子と机が並んでいた。
扉を開けてくれたのは黒いカソックを着た神父さんのような男性でグレンと何か会話し、しばらくすると「どうぞ」と温かい笑顔で家の中へ入れてくれた。
家の中はとても広く、長机と沢山の椅子がある食堂や本が置いてある図書室のような部屋もあった。
「ここでは身寄りのない子供たちが独り立ちできるまで暮らすことができる場所です」
黒いカソックの神父さんは案内しながら色々な話をしてくれた。
グレンはどうやら聖女だという話はしていないようで
「旅の途中に魔獣に襲われるとは大変でしたね」と心配そうに声をかけられた。
このあたりの大きな街はほとんど魔獣に襲われ、たくさんの子供たちが家族を失いこの場所で暮らしているとの事だった。
神父さんが足を止め、礼拝堂のような部屋に飾ってある大きな1枚の絵を指差し説明してくれた。
「この絵に私達は毎日感謝の祈りを捧げています
この絵はこの国に初めて舞い降りた聖女様だと言い伝えられております」
絵はかなり古く色も褪せてしまっていたが、伝わってきたのは聖女様の美しさと母性溢れる笑顔、美しい長い髪。
(これが聖女様…
うん、私やっぱり聖女じゃないかも…
全然違うじゃん自信なくす…)
体力も気力も底をついたすずに優しく神父さんが話しかける。
「お疲れでしょうからお休みください
湯浴みもありますので体を清めてください」
案内された部屋は、布がひかれた簡易ベッドが床に6つ並んだ大部屋だった。
「湯浴み」というワードに、すずは眠気が吹っ飛び嬉しさ爆発で朝から1番のお風呂に入らせてもらうことになった。
小さな個室に大きな浴槽が1つあり、たっぷりとお湯が入った状態で湯気が見えた。
ザッバーンっと入りたいところだが、後の人の事も考えてすずは体を洗ってからそ~っとお湯がこぼれないように足から入った。
「気持ちいいー!!!」
お風呂は命の洗濯と誰かが言っていたが、本当にその通りですべての疲労が回復した気がする。
そしてだんだん睡魔が襲ってくる。
(お風呂で寝ちゃダメだ…)
ウトウトしていたすずの耳にガラガラッと扉を開ける音がしたのでビックリして扉を見ると、そこには小学1年生くらいの男の子が驚いた顔でこちらを見ていた。
お風呂に入るつもりだったのであろう、裸で立ち尽くしている。
すずは慌てて声をかけた。
「お風呂に入りたかった?
お先にごめんね…
良かったら一緒に入る?」
男の子は安心したように「うん!」とニパッと笑ってすずの湯船にボチャンと飛び込んできた。
「私はすずって名前だよ
あなたのお名前は?」
「ルカだよ!」
「ルカ君て呼んでもいい?」
「うん!」
(かわいい〜〜っっ!)
笑った顔がとても愛らしい、すずは癒やされていた。
ルカ君は昔はよくお母さんとお風呂に入っていたらしく、私が一瞬お母さんに見えたらしい。
(そうだよね…年齢的にも私が20代前半で1人産んでればこれくらいの子供がいてもおかしくない)
暮していた街が魔獣に襲われ逃げている時にお母さんは怪我をし亡くなったと話してくれた。
身寄りがいないルカ君はここで暮らすようになり、いつも1人で朝一番にお風呂に入っていたそうだ。
とても可愛いルカ君とたくさんお喋りして、どちらが長く潜れるか勝負したり遊んでからお風呂を一緒に出た。
大部屋に戻るときも一緒についてきたルカ君をジョンガン達に紹介しつつ、お風呂をどうぞっと次に入る予定のジョンガンに声をかけると、部屋を出ながらジョンガンがすずの耳元でヒソッと話しかけてきた。
「お風呂に一緒に入ったの?それ男だよ?」
すずはジョンガンの顔を見ながら首を傾げた。
「うん…?」
(こんな小さい子供に男も女もないと思うけど)
とすずは思った。
ジョンガンはこれ見よがしな大きなため息をついてお風呂へと向かい歩いていった。
ルカ君はこのあと祈りの時間だからということで「後でね〜」とお別れした。
お風呂から戻ってきたジョンガンは目線を落としたまま隅っこのベットに横たわり目をつぶった。
すずは先程から無言で壁にもたれ掛かっているグレンに声をかけてみた。
「お風呂空きましたからどうぞ」
「いや、私達は遠慮しておく」
(あんなに汗かいたのにお風呂に入らないのかな…)
チラッと黒装束の2人を見てみるが、2人とも扉に近いベットに入ってイビキをかいてすでに寝ている。
すずはもう一度グレンにお風呂を勧めてみることにした。
「でも入ると気持ちいですよ?
よく眠れて安眠もできますよ」
その言葉を聞いてグレンは部屋をでて行ってしまった。
(お風呂に行ったのかな…?
私がうるさかったかな…?)
すずもベットに入り眠る体勢をとるが、グレンの事が気になりしばらくゴロゴロと布団の中で考え事をしていると、グレンが部屋に戻ってきた。
美しい銀色の髪が濡れて水が滴っている。グレンは前髪をかきあげながらすずの方を見た。
すずは寝転がりながら口を大きく開けた。
今まで灰色のローブを深く被っていたり、胸まである長髪で顔が隠れていてじっくりと見たことはなかったが、とても美しい顔をしていた。
真っ白い肌にグレーの瞳、鼻はスッと高くまるで絵本のエルフのような美しさだった。
背も高くて体もモデルのように細かった。
(こんな顔してたんだっっ衝撃)
なんだかんだ言いながらも素直にお風呂に入ったり、モフモフ魔獣も殺さずにすませてくれた。そんな極悪な人にも見えない。
顔に感情が出ないのでこちらも心情を読みにくいが、話せば分かってくれるかもしれない。
(そいえばジョンガンも最初は心開いてくれなかったな…
今じゃ全部が顔に出てるけど)
すずは思わず、フフっと思い出し笑いをしてしまう。
そんなすずにグレンが話しかけた。
「何を笑っている?」
すずは慌ててベットから体を起こし答えた。
「いえ…
そういえば谷で空飛ぶ魔獣から私を守ってくれたのはグレンさんですよね?
助けてくれてありがとうございました」
グレンはまた不思議そうな顔でこちらを見た。
(この顔でよく私を見るけど…
私何か変なこと言ってるのかな?)
返事をしないグレンへ質問をしてみた。
「私達はどこに向かっているんですか?」
「王宮へ向かう
すぐに聖女として祈りを捧げてもらう」
「祈り…?」
(祈りって高校の合格祈願くらいしかしたことないな…
日本にはあまり馴染みがない文化だ)
「祈るとどうなるんですか?」
「魔獣の凶暴化が止まり、人間を襲わなくなると言えばいいのか…
まあ魔獣の住処に入ったり、こちらから攻撃すれば反撃をしてくるだろうがむやみに人へ攻撃することはなくなる
もうこの国には時間がない」
「…時間がない?」
「国の繁栄のため国王がドラゴン狩りを命令された、お陰で国の経済は安定したが、凶暴になった魔獣によって国の半分の民の命が犠牲となってしまった。
魔獣に王都が襲われるのも時間の問題だ。
一刻も早く聖女の力が必要だ。」
(ドラゴン狩り…そんな事が)
すずは驚いた。国民がそんなに命を落としているなんて。
だから隣の国の聖女を連れてくるほど切羽詰まっている状態なのだと分かった。
自分にそんな力が発揮できるが自信はないが、なんとかしてあげたい気持ちが湧いてきた。
ルカ君みたいな子供をこれ以上増やしてはいけない。
「分かりました
私に出来ることならできる限り協力します
だけど1つお願いがあります」
グレンは耳を傾けた。
「私達は元の世界へ戻りたいと思っています
何か情報があれば教えて欲しいし協力をお願いしたいです
そして、何があってもジョンガンの命は守ると約束してほしいです。」
グレンは眉をひそめた。
「あの男は他人ではないのか?なぜそこまで守る必要がある?」
「…私の大切な人です
私のいた世界でも大勢が必要としている人物です」
グレンはまた不思議そうな顔ですずを見ていたが
「分かった、協力しよう」
と承諾しくれた。
その言葉を聞いてすずは胸を撫で下ろした。
2人の会話を目を瞑りながらジョンガンは最後まで耳を傾けていた。
ブックマークが4件に減っていました!!減ることもあるんですね。笑
今回は更新も遅くなりお待たせしました。
かなり考えるのに苦労した話でした。
最後まで頑張るのでよろしくおねがいします!m(__)m