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1.出会い




ーー頬に心地よい風が当たる


ーー水の流れる音


ーー鳥の鳴き声



すずが目を開けると緑色がゆらゆら鼻をくすぐった。

これは草だ。


自分はどうやら地面に倒れているらしい。


体を起こし周りを見渡してみると360度広がる大自然に口を大きく開けた。


「ここ、どこ」


思わず独り言をいってしまう。




【主人公は無視して説明しよう】

【ここはアーべラス王国】

【流行りの異世界ってやつ】




(私はさっきまで飛行機に乗っていたはず…)


すずは自分が横たわっていた地面を見つめながら、これまでの自分の行動を思い返す。



仕事終わりにそのまま空港へダッシュして、トイレで化粧を落として、寝る準備万端で飛行機に乗った。

だって予想以上に患者さんがきて1日バタバタしてて忙しくて超疲れていたからだ。

人生初のひとりで海外旅行デビュー。

目的地は韓国。


明日は朝から屋台トースト食べてお洒落なcafe巡り、推しアイドルの聖地へ行って、あと欲しかったコスメも買いに行く予定だ。


「あっ」


すずの呼吸が、一瞬止まる


ドッドッと脈打ち体が熱くなる


(思い出した…)


急に落下を始めた飛行機、人々の悲鳴……



自分は死んでしまったのだろうか。



すずは自分の体を見てみるが傷1つなく、服も綺麗なままだ。周りを見ても荷物や人すらいない。

絵に描いたような美しい大自然。


前にInstagramで目にとまったスイスの景色に似ていると思った。

目の前の湖に鏡のように映っている山脈。

山頂付近には雪が少し残っているのか白く輝いている。



呆然と立ち尽くしていると湖のほとりに黒っぽいものが動いているのがすずの視界に入った。

あれは人間だ。


かけ足で近寄ると黒髪の男性がうつ伏せで倒れていた。

「大丈夫ですか!!」


声をかけても返事はない。すずは急いで湖に浸かっている半身を引っ張り出す。

呼吸は荒いが息をしていた。


黒い厚手のスウェットは引き裂かれたかのように所々が破れ、肌が露出していて背中には大きな切り傷があるようで、出血しているのが見えた。


すずは自分が着ていたオーバーサイズのパーカーを脱ぎ、止血のため男性の胴体に巻きつけた。

薄い長袖1枚の姿になり少し肌寒さを感じたが人命には代えられない。


(誰か助けを呼ばないと...)


立ち上がり周りを見渡すが近くに人が住んでいそうな気配がない。


すずが慌てふためいていると、男性がゆっくりと体を起こし顔を上げ周りを見渡してこちらを見たが、すぐに目線を落とした。


「痛いですよね、背中から出血しているのであまり動かないほうがいいと思います」


心配そうにすずが声をかけるも頷くだけの男性。


(傷が痛くて声が出せないのかな)


下を向いたままの男性の顔色を確認しようと横顔を見ると、見覚えのある人だと気がついた。


(っヌエエエェーーーっ!!ジョンガン!?)



私がk-popへハマるきっかけとなった

元祖No.1推しのアイドルグループ[ELEVEN]の

メインボーカル ジョンガンだ。



世界中で人気を集めていて最近では日本でのコンサートも少なくなってしまった。なので私は現在別のアイドルを追いかけてはいるが、この人のことだけは特別だった。

ジョンガンの完璧なルックス、歌声、素晴らしい人格、彼の地道な努力を続ける姿勢。

私の人生に多大なる影響を与えている人物だ。



(まじ?まじか……まじで?

肌めっちゃ綺麗

本物カッコ良すぎる

顔ちっちゃいっっ

自分スッピンあーーーーーー恥ずかしいーーー)


表情には一切出さないが、心の中では大慌てのすず。



気持ち悪い自分がオープンになる前に

(冷静にっっ冷静にっっ落ち着け自分っ)


(嫌われたくないっ怖がられたくないっ)


呪文のように自分に言い聞かせた。


年齢は25歳で私よりも年下で、繊細な性格の人見知りだとファンの間では有名だったジョンガン。

ファンと名乗り出たら嫌がられ警戒されそうだ。

と即時に判断し、気持ちを切り替えたすずは「ファンです」とは絶対に言葉にしない意志を固めた。



「わたしは飛行機に乗ってたはずなんですが、気がついたらここにいて」


ハッと気がつく。

(日本語通じないよなそりゃ..)



「僕も飛行機乗ってました」



目線を落としたままだが返事が返ってきた。


(会話しちゃったよぅーー!日本語も話せるんだ!!

さすがトップアイドル!)


心の中ですずは大きな拍手を送った。


しかしジョンガンはこちらを一度も見ることなく、会話が終了してしまった。

気まずい雰囲気を抜け出すために


「人がいないか周りを見てきますね」


と言い残し、すずは歩き始めた。



(しかしここはどこなんだろか)



韓国のどこか田舎に落ちてしまったのだろうか。


だか飛行機から2人だけ落ちて無事な例なんてあるのだろうか?



考え事をしながら歩いていると、湖の反対側に白い建物が見えた。


急いで元の場所へ戻り、ゆっくりと立ち上がろうとしていたジョンガンに声をかけ小屋へと歩き始めた。


傷が痛くて歩けないかもと思って

「肩を貸しましょうか!?」

と名乗り出たが断られてしまったため、穴があったら入りたい気持ちのすず。



白い小屋は近くで見ると白い木で作られた小さな平屋のような建物だった。


ドアをコンコンッと叩くが誰もいないようだ。


扉を開けると正面に祭壇のようなものが1つと、長椅子がいくつも置いてありまるで教会のような内装だ。

正面の壁の天井付近に大きなガラスの窓がついていて、祭壇を神秘的に照らしていた。



「ゔっ」


と痛みを我慢して漏れたと思われる声とともに、長椅子に倒れるように座りこんだジョンガン。


湖で濡れた服が冷えたのか、震えているのが見て分かった。


すずは祭壇に飾ってある白い清潔そうな大きな布をジョンガンに渡した。


「濡れた服は脱いだ方がいいと思います、私しばらく外にいるので」


相変わらずこちらを見ることなく頷くだけのジョンガンを残し、パタンと扉を閉めすずは外に出た。



建物があったということは人もいるはず。

建物の裏側へ行くと井戸があった。


(井戸の水ってたぶん飲めるよね?)


すずは水を汲みあげて一口飲んでみる。


(...美味しい。さすが大自然の天然水!!いやっ地下水?)


テンションも上がり、近くに並べてあった花瓶のような器を綺麗に洗い、水を汲み入れジョンガンの元へと向かった。

外は陽が暮れ始めていた。



部屋に入ると白い布を被ったジョンガンが私の目をしっかりと見ながら話しかけてきた。


「この服はあなたのですか?」


手には血に染まった私の服を持っている


「そうです、背中の血は止まりましたか?傷見てもいいですか?」


汲んできた水を長椅子に置き、背中を見ようと近付いて屈むと、私の目を覗き込むように見ながら被っていた白い布を差し出してきた。


「これ使ってください、女性なのにずっとごめんなさい」


上半身裸で鍛え上げられた筋肉美が丸見えになった。


(わっわっっジョンガンの腹筋っっ鎖骨ーーーっっ)


だが見過ぎたら引かれてしまう。


思わず目をそらしたすず。

顔が赤くなるのを感じ、「全然私は暑がりなんで大丈夫ですっっ!あっ井戸あったのでこの水飲んでください!背中見ますね!」


と早口に喋り、彼の視界から逃げるように後ろに周りこんで背中を見る。


「ん〜血は止まったみたいです、ただ病院で早く診てもらった方がいいですね、化膿とか怖いですから、とりあえずさっきの私の服を洗ってきます、それで他に血が付いてるところも綺麗に拭きましょう」


間をおかずに早口で喋り、ササッとその場を立ち去った。



(…危ない、推しの裸の破壊力ハンパない。私が男なら押し倒してたわ…)



赤くなった顔を冷ましつつ、部屋に戻り自分で拭けるところは本人に拭いてもらい、手の届かない背中はすずが担当した。


(めっちゃ緊張する...億の価値がある体を…)



それからはすずが周辺を歩き回ってみたりしたが人が住んでいそうな気配もなく、陽が落ち外が暗くなると美しい月と星たちが暗い小屋の中をかろうじて視界が保てるくらいの明るさをくれた。

しかし雲がでてきて星たちを隠してしまうと小屋の中は真っ暗になってしまった。



全然喋らないジョンガンとの沈黙に耐えられず、すずはひたすら話しかける。

「気流に流されて自分たちだけ中国とかどこか別の国にいるのではないですかねー?」

など憶測を立ててなんとか会話を引き出そうとする。が、話が続かない。



(ダメだ。心折れそう…しかも寒くなってきた)



陽が出ていたときは過ごしやすい気候だったが、夜になり段々と冷えてきたのだ。


すずは体を温めるために両腕を胸の前で組み、部屋の隅っこを行ったり来たり歩き始めた。



すると突然、ジョンガンが口を開いた。


「寒いので隣に来てください、一緒に布使いましょう」



その言葉にすずの胸がキュンっと鳴った。


今まで話しかけても塩対応で、気持ち悪い女だと思われていると思っていたので嬉しすぎて秒で返事した。


「はい」


大きい布で助かった。

ジョンガンの肩にギリギリ触れない程度の距離で、一緒に布を共有しながら椅子に座ることができた。


寒さのせいか緊張のせいか、体が震えるので膝を抱え顔を伏せたすずは、誤魔化すためユラユラ体を揺らしながら独り言を言った。


「ふー明日明るくなったら誰か来てくれるかなぁ」



ジョンガンに気を遣わせたくないからだ。

きっと知らない人と居ること自体苦痛なタイプの人であろう。

傷の痛みも辛いだろうし、自分のせいで薄着にさせてしまったって気にしてそうだから。


けどジョンガンはお礼を言うときはこちらをしっかりと見てくれていた。

会話こそ続かないけど噂通り本当に誠実な人なんだろうなとすずは確信した。



寒いのを忘れるために思考を巡らせていると、すずの耳元でジョンガンが話しかけてきた。


「名前教えてください」


嬉しびっくりで顔を上げたすずは返事をする。


「水谷すずです。あなたの名前は?」


あくまでもすずは、絶対にファンとバレないようにするつもりである。


「私はキム・ジョンガンです。韓国人です」


(はい、知ってます)

すずは心の中で返事をした。


「すずさん、助けてくれてありがとう。寒いので近くにいっていいですか?」



ジョンガンからの思わぬ提案に頭が真っ白になる



(今も近くにいますけど?これ以上近くとは肌が触れ合ってしまいますがいいんですか?他のファンから私、殺されそうなんですけども、あとパパラッチとか大丈夫ですか?彼女とか絶対にいるでしょ本当にいいんですか?)


と、心の中でひとり早口で話したすずだが、声を出すことができず、しばらく間をおいてから


こくんっと大きく頷いた。


それを確認したジョンガンは、すずの肩に腕をまわし胸の中に引き込む。

ジョンガンは上半身裸なので肌が直に触れ合っている。


自分の心臓が大きく早くなりジョンガンに音が聞こえてしまうのではないか心配になるすず。


(あたたかい…人肌ってなんて温かいんだろう)



ジョンガンの体温が高いのか、すごくポカポカしてきて急に眠気が襲ってくる。


(……ヤバい 眠ちゃいそう……)



大好きな推しに腕をまわされ、本来なら緊張して発狂してるところだが、さすがのすずも気を張っていたのだろう。一気に力が抜けてきた。



すずはジョンガンの胸に頭を預けそのまま眠りについた。






はじめましてm(_ _)m作者です。


大好きなアイドルとどうやったら付き合えるか毎晩、妄想してるのですがどうやっても付き合うのは難しそうなので

2人だけ異世界に飛ばすことにしました。笑


私の妄想を一緒に楽しんで読んでもらえたら幸せです。





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