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いい加減馬車に乗ってください

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 あの。

「私乙女ゲームの悪役令嬢なのよっ!!」

 発言から三年たった。


「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。こ、これは掌に人という字を三回書いて……って、この場合はこの国の言葉で書けばいいのかしら!? それとも日本語っ!!」

 ぶつぶつぶつ


「お嬢様」

「とっ、とうとう始まってしまうわ。あれから何度も婚約解消できないか動いていたけど、うまくいかなかったし……」

 蒼褪めた顔でずっとぶつぶつとしゃべり続けているお嬢様には俺の声が届いていないようだ。


「お嬢様」

「これが、いわゆる強制力というやつなのかしら。一体どうすれば!!」

「お嬢様」

「どうすればいいの。このまま悪役令嬢まっしぐら」

「お嬢様!!」

 強めに声を掛ける。


「あっ」

 ようやく俺がずっと傍にいたのに気付いたのかまったく。


「強制力というのがよくわかりませんが……婚約解消は勢力図的に難しいと思いますけど」

 というかその乙女ゲーム(?)とやらは政治的なものを無視して処刑とかよく出来たなほんと。


「そうだったわね!!」

「という事ですから」

 にっこり


「いい加減馬車に乗ってください」

 入学式なのに行きたくないと駄々こねて屋敷から出ようとしない――それでもきちんと学園の制服を着ているのは立派だが――お嬢様に声を掛ける。


「い~や~」

 言ったら乙女ゲームが始まってしまうのよ~。行きたくな~い。

 いやいやいやと首を振り続けるお嬢様を見ているとこれが本当に社交界で有名なんだろうかと疑問を抱いてしまうが、実際そうであるので仕方ない。


 お嬢様の外面に気付かないとはどんな節穴だろうかと言ってはいけない。


「何やってるの?」

 そんな駄々こねているお嬢様に気づいたレオンハルトさまがやってくる。その後ろにはメアリが当然のようにくっついている。


「姉さん。早くいかないと」

「だって、だってぇぇぇぇぇ!!」 

 レオン様に窘められるが涙目になって首を横に振っている。


「そっかぁ。姉さんが入学式から帰ってきたらたこ焼きを作ろうと思っていたのに」

 ぴくっ

 お嬢様が反応する。


「た……たこ焼き……」

 窺うようにレオン様を見るお嬢様にレオン様があくどい笑み――知らない人は全く気づかないが――を浮かべたまま。


「そう。食べたがっていたよね」

 たこ焼き器を無事に作ってもらえたからさっそく作ろうと思ったんだけどな~。

 レオン様の視線が少しずれる。


 今こそチャンスだと告げるように。


「お嬢様」

「わ、分かったわよ。頑張るから!!」

 涙目のままダッシュで馬車に乗り込む。


 すぐに同じように乗り込んで馬車の扉を閉めて、

「出してください」

 と従者に命令する。


 馬車の座席では乗り込んだのはいいが怯えたように蒼褪めているお嬢様の姿。


「……………」

 その様があまりにも不安げで慰めてあげたいと思わされるものだったので。


 ぽんっ

「よく頑張りましたね」

 そっと頭を撫でる。


「……………」

 ぷるぷるぷる

 なんか妙に震えているな。子供扱いされたようで気分が悪かっただろうか。


「ありがとう……セバス」

 ふにゃっ

 可愛らしく微笑むので。


「………どういたしまして」

 平常心の仮面をかぶり、何でもないと執事の顔で答える。


 そう、自分は執事だ。

 それ以外になれない。


 頭を撫でた後はなぜか上機嫌になったお嬢様を見つめつつ。

(それにしても……)

 お嬢様が急に言い出したたこ焼きに反応してたこ焼き機を作るとレオン様がおっしゃっていたが。たこ焼きというものはお嬢様が言わなかったら生まれる事のなかった品なのにそれに気付いていないで、レオン様が当然のように作ると言い出したことに違和感を感じないお嬢様は……。


「やっぱり、ポンコツ」

 ぼそっ


 どうして、レオン様も前世の記憶がある事に気付かないのだろうか。たこ焼きを食べたいと言いだした時に侍女も料理長も困惑していたのを目の当たりにしていたはずなのにな。


(まあ、気付かないのなら気付かない方がいいか)

 その方が面白いだろうし。


 それに――。


 お嬢様の学園生活の方が重要だしな。

(そのヒロインとやらを調べないとな)

 お嬢様を守るためにも情報は必要だからな。





ただし食べ物で懐柔された。

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