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身分の差がありすぎて考えた事もないな

実は転生者はもう一人いる

 お嬢様が食べ終わったお皿とカップをワゴンで片付ける。


「セバス。片付けたら休憩しなさい。これは命令よ」

 普段あまり命令と言わないのにこういう時は命令というお嬢様に。


「理不尽な命令を降すのは権力を笠に掛けていると言いませんか」

「そうでもしないと休まないセバスが悪いのです~」

「語尾を伸ばさない」

 シャンと叱りつけるとあっ、しまったと手で口元を抑える。


「えっと……私の事はいいから休みなさい」

「では、そうさせていただきます」

 一礼して、その場から立ち去る。


「メアリにも休むように伝えて下さい」

 立ち去る後ろからお嬢様の声がしたので。


「了解しました」

 振り向いて返事をする。


 厨房までワゴンを運んでいると掃除が終わった矢先の数人のメイドに出会う。


「メアリを知りませんか?」

 箒を持っていたメイドたちは楽しげに話しをしていたのだがに声を掛けると話を止める。


「メアリなら、レオン様に呼ばれて図書室に居ますよ。セバスチャン様」

「様はいりませんよ先輩方」

 図書室にレオン様?

 その内容に少し思う事があったが言わないでおくのが花だ。

 彼女たちと俺では俺の方が上司で彼女たちは部下といえる。一応俺の方が上だが、勤務歴は彼女たちの方が長い。


 それに……。


「ですけど……」

「私はまだまだ若輩者なので」

 あなた方に助けてもらう事も多いので。

 そう告げると一礼して図書室に向かう。


 去っていく時に聞こえたのは。

「いつ見ても礼儀正しいわよね。セバスチャン君は」

「ほんとセバスチャンは礼儀正しいけど、メアリはね~」

「レオン様もなんであんな子がお気に入りなんでしょう」

「年が近いからでしょ~」

「それにしても、セバスチャン君はともかく、メアリなんて拾ってきて何考えているのかしら」

「しぃ。それは言わないの」

 と悪態をついているものだった。


 はぁ

 どうやら()()レオン様に厄介な事を押し付けられたな。


 あのメイドたちの態度を見ていると顔を合わすのもこれが最後の可能性が高いなと判断する。


(あのメイドたちは確か……ああ……なるほど)

 そんな事を思いつつ、図書室をノックする。


「どうぞ」

 少年の高い声。


「失礼します」

 そっと中に入ると幼い少年と無表情のメイドの格好をしている少女がいる。


 図書室に置かれている100年は超えているのではないかと思われる大木で作られた木の机に大量の書類を広げているのはルーズベルト侯爵の第二子であるレオンハルト様。

 そのレオンハルト様の後ろにいるのは。


「メアリ」

 妹のメアリである。


「なんでしょう?」

「シルビアお嬢様から伝言だ。ワッフルがあるから今から休憩して食べるといい。という事だ」

 レオン様がいるのに気にせずにそんな伝言をすると。


「あっ、そうなんだっ!! 僕の分もあるのかな?」

 ことん

 ()()()()()()()()()()首を傾げているが。


「気持ち悪いからその顔止めとけ」

 と鳥肌を立てて告げる。


「ひどいな~。メイドたちには好評なんだけど~」

「もうすぐ辞めさせるメイドたち。ですよね」

 言葉を切る。


「ふふっ」

 面白愉快だとばかりにレオン様は笑う。


()()()()におねだりして高価な買い物をしている困ったメイドでね。先日いろいろやらかしている証拠が見つかったから処分できることになったよ」

 やっと、片付いた~。

 肩の荷が落ちたよと告げる様は9歳の子供らしくない。


「それがその証拠ですか」

 机の上に置かれている書類に目を通す。そこにはこの屋敷の機密情報を外に漏らしていたという決定的な証拠があった。


「我が家で進めている農業技術を盗まれたら困るんだよね」

「仕方ないでしょう。ただでさえ、我が領土での農作物は他の領地に比べて豊かであるのにその技術が一歩も二歩も進んでいるのですから」

 にこやかに告げると呆れたように溜め息を吐く。


「近いうちに陛下に進言はするよ。でもさ」

 にこりっ


「手柄を横取りされたらムカつくじゃない」

「ですね」

 同意だ。


「お兄さまにも困ったものだよ。あっさり機密事項も漏らすから」

 まあ、尻尾を掴むのに利用させてもらっているけど。


「ポンプ式の井戸にスロープを使った移動。ミツバチを使っての受粉。水を使った切断。それらだけでも立派ですよ」

「僕の前世では理科の授業で使われたものだけどね」

 ちなみにワッフルの乗せるアイスの作り方も彼が厨房に伝えて再現したものだ。


「レオン様。お嬢様が」

 と先ほどの話の内容を伝える。


「ふ~ん。まさか、ラノベお約束の乙女ゲームの世界に転生パターンだったのか」

 しかも姉さんが悪役令嬢ね~。


「無理でしょ」

「無理ですね」

「以下同文」

 この場にいる三人の意見が一致する。


「姉さんはポンコツだけど、ワッフルとかバリアフリーとか車椅子とかさんざん言っていたから僕と同じ転生者だとは思ったけど」

 実際そうだったとはね。


「まあ、このパターンだと姉さんがぎゃふんされて、領地が奪われたりするから対策をしておくけど。セバスチャン」

「はい」

 返事をする。


「姉さんを当然守ってくれるよね」

「言われなくても」

 答える。

 分かっているだろう。

 そう目で告げると。


「うん。知っているよ」

 にこっ


「でも、姉さんにはセバスから聞いておいて。こういうのはお兄さまも攻略キャラのパターンもあるから」

 そうなったら面倒だし。


「………兄さん」

 ふと、思い出したようにメアリが口を開く。


「兄さんからしたらそのぎゃふんされた方がいいんじゃないの?」

 だって、兄さん。


「メアリ」

 呼び掛ける。

「俺にとってお嬢様は守るべき存在だ」

 だからこそ、そうなってもらっては困る。


「………お嬢様の事は」

「姉さんもそういう意味で好きじゃないの?」

 にこやかに聞いてくる主従に。


「身分の差がありすぎて考えた事もないな」

 と返答を濁らせた。




レオンハルト。

気ままな次男の顔を被った転生者。

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