伝説の忍者 ブラウン・菅(すが)
俺の名は、ブラウン・菅。
と言っても、本名じゃない。
裏の世界では、まあ、それなりに知られた存在のつもりではある。
ただ、俺の素顔も本名も、ごく一部の人間しか知らない。
破壊や暗殺を専門にしているからだ。
まさか、ハーフの忍者とは誰も思うまい。
ジャパニーズNINJAの熱狂的なファンになったダディーが、熱意に身を任せて日本に移住。
そして巡り合って結ばれたのが、現在でも裏の世界で活動を続けている忍者集団、《百舌鳥忍群》の頭領の娘だったのだ。
アメイジング!
熱い想いで求める者には、奇跡は起こるのだ。
こー見えても俺は、神を信じている。
今夜の依頼は、ある暴力団幹部の暗殺。
依頼には応えたが、完璧な仕事とは言えなかった。
組員の数名が銃器で応戦してきたのだ。
幹部も組員も全員をあの世に送ったが、近隣住民が銃声を聞いて通報したらしい。
さっきから、パトカーが何台も街を走っている。
もう、俺は一般市民の姿に変装しているが、緊張しないと言えば嘘になる。
早く、少しでも遠くに離れなければ。
「申し訳ありませーんっ」
できるだけ自然に歩いていたつもりだが、道で聞き込みをしているらしい警官に呼び止められた。
俺は少し驚いた表情を作った。
それぐらいの方が自然だ。
「あ……」
警官は俺の顔を見て戸惑った顔をした。
「大丈夫ですよ。
生まれも育ちも日本ですから」
俺が日本語で答えると、警官は「ああ、良かった」と呟いた。
「突然で申し訳ありませんが、怪しい男を見かけませんでしたか?」
「いえ、別に……」
俺はできるだけ短く答える。
「何かあったんですか?」
これぐらいは、質問した方が自然だ。
「ええ、この近くで事件がありまして」
答えた警官に俺は「まあッ!?」と返す。
詳しく訊かれるのは困るのだろう。
警官は「突然お呼び止めして申し訳ありませんでした」と、会話を終わらせにかかる。
「いえいえ、お仕事ご苦労さまです」会釈する俺に、警官は言った。
「女性の一人歩きは危険ですから、できるだけまっすぐお家にお帰りください」
俺は警官に背を向ける。
堪えようとしたが、口元がほころんだ。
俺の名は、ブラウン・菅。
まさか、ハーフの忍者とは誰も思うまい。
大丈夫。
わかってます、わかってますとも、“管”と“菅”が違うってことぐらい。
ワードとにらめっこして考えていたら、「“ブラウン管”をブラウン・菅というハーフキャラにしてやろうか?」と思いついて、ついでに“おねぇ”というワードが目に入って、「ハーフという自己紹介に実は2つの意味が……」というアイデアの作品。
しかし、まあ、ラジオドラマ向きじゃない作品ですね(笑)