2-31 日常。執事のお仕事 -洞窟 深部の門番 ケートス-
投稿は明後日の17:00の投稿予定です。
それでは、本日もどうぞごゆっくりご覧下さい。
「ああ、此処みたいだな。神に挑むも破れ、闇落ちした蜘蛛の化身。『アラクネ』の巣だ」
洞窟に入った俺達は、先ず壁面に目が行った。
と言うのも、洞窟に入っているのに適度な明るさが保たれていたからだ。
「なんでこんなに明るいんだ?」
俺は呟くように疑問を口に出す。
「それは、壁面に光る苔があるからですよ。文献によると、数百年の昔に進んだ文明があったらしいんです。なんでもその時の遺産だとか」
「あ、それ私も聞いた事がある!」
「有名な話しですね。僕も学術院で習いました」
この世界では、結構有名な話しの様だ。
そんな話をしながら俺達は下る道を奥へと進む。
アラクネの巣と言えども元は洞窟。
奥へ奥へと道は伸びている。どうやらかなりの広さがあるみたいだ。
「うわぁ~~!」
「綺麗ですね」
進む道の途中で急に空間が広がる。
そこには何万年もの歳月をかけて作られた、鍾乳石群が神秘的な景色を作りだしていた。
鍾乳石は半透明で壁の光に垂らしだされ、クリスタルの後ろから光を当てたような淡い光を放ち。
鍾乳石群と鍾乳石群の間には水のような液体が流れ、その川が道の下を通るように流れ。
その川は少し先に進んだ湖へと流れ込んでいた。
ウチの女性陣はその光景に目を奪われ、目をキラキラさせながら眺めている。
「こんな神秘的な所があるんですね」
こういう感性はシンの方が断然あるのだろう。
シンも同じように感動で辺りを見回している。
俺は、綺麗とは思うのだが。
そこまで止まりで、どちらかと言うとここに生息している魔物に意識を集中していた。
洞窟に入る前から、何かあった時の為に眼鏡をかけオートマップ機能で辺りの警戒をしていた。
すると、皆が感激している中オートマップのセンサーに敵影を発見した!
場所は・・・湖の中?!
しかも、移動して川上の方へ移動したり湖に戻ったりもしている。
「皆!敵を発見した!」
「「「え?!」」」
「大きさは分からないが、かなりの速さで川上と湖を往復している」
「どうする?交戦するかい?」
新しい未知の敵の出現に、シンは苦笑いで俺の考えを聞いてくる。
「いや。出来れば今は体力も温存したいから交戦は避けたい所だな。問題はこの橋の部分を通る時と、湖の近くを通る時だ。魔物に察知されずに行ければ良いんだけど。多分、この道が一本しか通ってない所を見ると、門番なんだと思う。交戦は避けられなさそうだから。いつでも交戦出来るように武器を出した状態で進もう」
「「「了解!」」」
敵さんも、もう気づいているとは思うが。
もしかしたら、もあると期待しつつ出来るだけ音を立てないように進んでいく。
「マサト。これはもしかしたら、ケートスと言う古の魔物でしょう。そんなに強い魔物でもありませんが、油断は出来ません!もし戦う事になるなら一気に叩き潰してしまいなさい」
上空を飛んでいた先生が、俺の肩に戻って来ると。
耳打ちしてくれる。
橋の上を差し掛かった所で緊張感が高まる!
・・・襲って来る気配はない。
もしかしたら、いけるかもと思った瞬間。
川の下を魚影が通る・・・でかい!!
アレは体長10mはあろう大型の魔物だ!
魚影を見た余りの驚きに、全員が音を立てそうになるが。
そこはなんとか耐えて歩みを進める。
湖の横の道に入る時だった。
ガンッ!
全員が音が鳴った場所を確認する!
近くの石に足が引っ掛かっている・・・
ザパーン!!
音の主はそう!まぎれもない俺だ!!
「えへ♪」
「「「えへ♪じゃない!」」」
全員が突っ込みを入れて来る。
その後ろの湖から大きな波が立ち昇り、中から10mを超える巨体が飛び上る!
着地した魔物は体高5m。体長10mの蛇の体に腕だけが生え、全身を魚類の大きな鱗で覆われ。
体長の半分位の所を視点にそり上がり立った状態を維持している。
頭、腕、背中に大きな、先の尖った薄い膜のような鰭を持った。
海蛇の進化した形状を連想させる大型の魔物がこちらを威嚇している。
俺達は行く手を阻まれ、先へ進むなら倒さないと通れない。
「これは・・・やるしかなさそうだ・・・」
「そ・・そうだよね~。でも、私こんなに大きな魔物と戦うの初めてだよ・・」
「僕もそうですよ・・・」
「マサト君!やりましょう!」
ディアさんは今回の修行で、元来持っていた戦闘狂をかなり抑え込めるように訓練出来ていたのだが。
流石にこれは抑えが漏れ出ている感じがする。
「じゃあ、編成だけど。今回は俺が前衛で盾をやるんで、シンとマリナさんは中衛を、ディアさんは後衛で援護。俺の号令で散開してください」
今回の修行でかなりレベルが上がっていた俺は、身体能力がグループで群を抜いて高くなっていた。
それ故の盾役だった。
「了解!」
「おっけ!」
「分かりました!」
「行きますよ!1.2.3.散開!」
「「「「ブースト!!」」」」
全員が俺の号令と共に所定の位置に着く。
その勢いで、俺は小手調べに奇襲を仕掛ける!
狙うは魔物を通り過ぎ様に身体の視点となっている腹の部分。
相手は流石と言うべきか、今までの魔物とは違いじっと俺の行動を見ている。
俺が抑え気味に近づいて切りかかる。
相手はスッと腹の部分をくねらせ避けようとするが、掠る程度の傷がつく。
そのままもう一太刀入れようと切りかかるが、そこは簡単にはいかず尻尾の反撃を受ける。
俺は奇襲での成果は上がったので、これ以上の追撃はせず一旦元の位置に戻る。
「皆!気負わなくても、案外攻撃は通るし動きも早いけど避けれない事は無い。でも、気は抜けないからお願い!」
俺は言い終わると共に今度は真正面から切りかかる。
それをケートスは片手を使って掌で受け止めようとする。
しかし、俺は捕まれる瞬間に刃を下に滑らせ、掴まれるどころか掌を切りつける。
ギャアァァァ!
相手にとっては良そうもしていなかった行動だったのだろう。
鱗に覆われた掌は、通常なら受け止める事も出来ていただろうが、今は掌から血が噴き出している。
それを見たケートスは逆上して、反対の手で俺の首を掴みに来るが。
難なく躱してもう一太刀浴びせようと切りかかるが今度は鋭く長い爪を上手に動かして防ぐ。
そこからは、攻防戦だ。
攻撃しては防御。
防御しては反撃の繰り返し。
その攻防が何回か繰り返された時・・・
グギャアァァァ~!
視線が俺に釘付けになっている隙を見計らって、シンとマリナが後ろに回り込み。
背中と尻尾に切りかかった!
ギャアァァァァァァ!!
ケートスの絶叫が続けざまに洞窟に響き渡る。
見ると、ケートスの目には矢が突き刺さっている!
この機を逃すまいと、渾身の力を込めて大上段から剣を振り下ろす!
グシャァッ!!!
片目を潰されたケートスは、断末魔の悲鳴を上げる事も無く。
真っ二つに割られた体は、動く事もなく左右に倒れた。
「案外なんとかなったな!」
「ああ・・・」
ケートスが動かない事を確認した。
俺達は緊張の糸が解け、互いに顔を見合わせる。
「やっぱり、強くなってたんだね!」
マリナは目を少し潤ませている・・・それもその筈だ。
今回のデスマーチは、常に自分より強い相手との戦闘を強いられてきたせいで、思うように自分達の実力等知る由もないままこの対戦になった。
全員が自分の手や身体を確認しながら感慨にふけっている。
今回の戦闘で分かったが、これならアラクネも何とかなるかもしれない・・・
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