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聖女とオークの奇妙な物語

作者: デューク

懲りずにオークだよ!優しいオークだよ。



かの世界【アルニア】はとても奇妙な世界である。

魔法が存在し、人間、亜人、魔人、魔物が生きている。

さて、何故奇妙なのか。それは戦争が起こさせないのだ。


その昔、まだ力のない女神は勇者に加護を与えて邪神の使いである魔王を倒すことになる。そして、信仰心を得た女神は邪神を改心させ一緒に【アルニア】を見守ることになった。


これだけなら良い話で終わりなのだが、勿論さん筈はなく全ての種族が疲弊していた。そうなると奪い合いが始まり今度は勇者がそれを止める為に帆走することになる。

あまりの激務に最後には隠居宣言をして、一人でひっそりと暮らしたそうな。


さて、ここで女神達である。この二人の女神はもう余りに仲が良くて自分達の子が無駄に争い傷つけ合うのが心苦しく色々な制約を作ることにした。


徳の高い子を天使として迎える。そして、天使は国家間の争い事の見届け人となる。そこで条件を決めて争う。お互いの意見が合わなければ戦争不成立として和平が組まれる。


さて、何故戦争が起きなくなったか。それはあまりに公平であり条件を破れば即負けになる。そこに誤魔化しは一切通じない。


例え強力な武力があっても使わせてもらえなければ無駄になる。武力を持つことは侵略の面があるが一番は防衛である。そう、皆は生きたいのだ。死にたいわけでも殺したいわけでもない。ただ生きたい。それが人族の共通の願いであった。

ちなみに小賢しく穴を突こうにも天使の介入があるのでやはりこちらも無意味になったそうな。


さて、ここで話は変わるのだがこの【アルニア】には聖人がいる。この聖人というのは所謂、天使候補である。女神が教会の信者の徳を見て判断するもので中でも女性の聖人を聖女と呼ぶ。なお、聖人と呼ばれても徳が下がれば勿論資格は剥奪されるので悪い事は出来ないのである。





さて、ここで聖女の一人。彼女は箱入り娘でありそれは大層可愛がられたそうな。しかし、余りに世間知らず。そして、彼女が好きなお話は冒険譚。そう、こっそり(モロバレ)一人旅を決意した。ただ、彼女は知らない。聖女は女神が保証人でありかなり優しい旅をさせて貰えるのことを。

そして彼女は一つの大きな出会いを経験をする。



一つ伝え忘れたことがある。【アルニア】は大きく分けて三種類の分類がある。


先ずは人族。これは何も特徴のない人間、獣の特徴のある獣人、身体的特徴の多い亜人、魔力量が多い魔人、の総称。


そして、獣と魔物である。獣が魔力を沢山持つようになる。そこで獣人になるのだが、食べることより殺すことを望むと魔物となってしまう。または、魔が自我を持ち集まることでも魔物が生まれる。総じて魔物は獰猛であり見境なく攻撃する性質がある。




今彼女がいるのは森の中。ここは魔物が少なくかなり安全な森と評判である。その理由を調査する為に彼女はこの森にやってきた。ちなみに森に住むというエルフがここにはいない事は事前に知っている。


彼女は疲れと汚れを落とす為に泉にいる。金の長い御髪に慎ましやかな胸から細くしなやかな体は人族が見ればそれはまるで泉に降臨した女神かと思うことだろう。



さて、そんな素晴らしい光景はいつまでも見ていたいが沐浴が済むといつの間にか夜になっていた。彼女は焚き火をして夜を過ごすことにした。


さて、不意に夜に目が覚めてしまう。なんだか嫌な予感がしたので辺りを見渡すと赤い目がこちらを見つめていた。彼女はヒッと声を漏らす。それは魔物に良くある特徴であった。


彼女は知らなかった。悪意ある視線がこんなにも身が竦むものであると。

彼女は知らなかった。魔物は夜ほど活発に動くことを。

彼女は知らなかった。一人旅がどれほど過酷かを。

彼女は知らなかった。自分がいかに優しく強く守られていた事を。


彼女は自分が粗相した事すら気付かずに魔物を見つめる。魔物はまるでその無様さを面白がるかのように鳴き声をだす。その鳴き声を聞いた彼女は目を瞑り神に祈りつつ気を失うのであった。





死んでしまったのだろうと彼女は意識が覚めて行き目を開ける。はて?ここはどこだろう。確かに泉の側で寝ていたはずが何故か薄暗い洞穴の中であった。


油断していた彼女だが足音が聞こえてしまった。昨日の魔物のせいですっかり臆病になってしまったようだ。


「おう、起きたか」


野太い声が聞こえた。彼女はそれが恐らく自分を保護してくれた人族に違いないと思い声のした方へと顔を向けて固まってしまった。


亜人、オーク。まるで熊の様な体格で特徴的な豚顔。顔で性格は分からないと言っていたがここまで違うと少し……いや、本当のことを言うとかなり目を逸らしたい。


しかし、恐らく命の恩人である彼にもう一度目を向けて後悔した。その……男性器が見えてしまったのである。それは昔お父様と入った沐浴の時より遥かにグロテスクな物だったのだ。


彼女の視線を追った彼は自分の姿を見て、あっやっちまったな、と反省した。そして、ちゃんと隠れる様に皮の外套を腰に巻いた。


一応、彼のために言っておくが見せ付けるつもりはなく普段から人など来ないので服からはみ出していたことに気付かなかっただけなのだ。



「あー、その、なんだ。すまん、人に会うのは慣れてなくてな」


出来るだけ優しく声をかけたつもりだったが彼女は震えて少し距離を取られた。……少し……本当に少しだけ心に傷がついた彼は続ける。……悲しい。


「えー、お嬢さん?あんな所で野宿は流石にどうかと。なんで一人旅してるの?」


うむ、なんとも犯罪的な光景だか女神は咎めてないので紛うごとなく合法である。彼女が涙目であるが。


「その……森の調査をしてまして……」


そうか細い声で呟く。ここが腹穴でなければ聞き逃すほどの小さな声であった。


「へー、こんな何もないとこで?なんかあったっけ?」


彼は首を傾げる。実は彼も一人旅をしていてほんの数月前にここを寝床として使い過ごしていた。その頃からあまり変化した記憶がなく不思議に思っていた。


「いえ、なんでもタイラントグリズリー全く会わなくなったから気になると近くの村で聞きまして、しかも魔物も減ってると」


「おぉーアイツか、アイツは結構強かったなー。オレが倒したよ、他のも多分そうかな?」


実はここを寝床していた本当の主がその熊であった。


「へぇ?!……あの、すいませんでした!」


それは見事な土下座であった。彼女は勿論そんな謝罪方法を知っていたわけではないがあまりに自分の態度の悪さや言動からの罪悪感からそんな事をしていた。


「いやいやいや!急にどしたの?」


「いえ、助けて頂いただけでなく立派な事をされてた方に失礼だと」


「あー、別に気にしてないよ?盗賊追っ払って走って逃げられるなんてしょっちゅうだったし?」


「なんて……貴方はお辛くないのですか?」


「仕方ないんじゃないかな?あまり他種族に好かれないのは知ってたし」


「では何故、お助けになるのですか?」


「あぁー、うん、少し長くなるよ?」


彼女はいつの間にか真剣に尋ねていた。自分は聖職者として育てられてきたから当たり前のように助けて当たり前のように感謝されていた。しかし、彼のように助けたのに酷い返しされて同じように助けていけるか分からなかったから。





彼は元々旅のオーク息子だったそうで。なんでもかなりの狩りの名手であったが依頼で死んだらしい。冒険者を雇い調査してもらって判明したのがドラゴンの存在。その後国がドラゴンを討伐したそうな。


勿論、小さい頃は知らなかった。成人して大人になった日に聞かされた。そこで彼は親の見ていた世界を知りたいと旅に出ることにした。


しかし、彼はオークがどのように思われているか知らなかった。


最初は冒険者ギルドだ。登録した後、パーティに誘われた。ゴブリン討伐であった。良くある初心者の依頼。そして、これも良くあるイレギュラー。ゴブリンリーダー、初心者ではまず勝てないと言われている。仲間は彼を囮にして逃げたのだ。幸い彼は初心者にしては強かったため何と生きて帰れた。いや、これは不幸の始まりであった。


何とか帰ったギルドで報告するとまるで化け物を見るかの様な視線。そして、またパーティに誘われたのだ。そこは評判が良いとこでタンクとして戦うことになる。


辛い戦いの日々。そこで癒しは当然女である。獣人の恋人ができた彼は更に頭角を表す。しかし、これを快く思わなかった当時は筆頭冒険者のリーダーだ。


恋人の様子がおかしくなり行方不明になった。彼女の日記にはこうあった。「オマエノコイビトヲコロス。オマエガイケニエトシテオレタチニシタガウナラコロサナイ」その後は聞くも悍しい行為の数々。


勿論、問題になり筆頭冒険者はみな死刑になった。それは他に同じ事が起きていたからだったらしい。これ以降はかなり規制が厳しくなったそうだ。


しかし、こんな噂が流れてしまった。彼に関わると不幸が起きると。


恋人を守れず相談もしてくれなかった事がショックであり、いずれは自分のパーティもそうなるのかと怖くなり気付いたらパーティを抜けると。ギルドに暗い視線。街では悪意のある噂話が飛び交う。気付いたら街を出ていた。


それからはがむしゃらに魔物と戦う日々。死に場所を求めて彷徨う毎日。強い魔物の話を聞くと狩りに出かける。


そんなある日。彼は一人の人に出会う。彼は魔人であった。不幸族。黒い髪に黒の瞳、黒のオーラ。彼等に関わると不幸になると言われていた。しかし、彼は異様であった。率先して人助けをする。しかも、嫌われてることをしりつつである。俺は内心馬鹿にしていた。


ある日、俺は大怪我をした。お前なんかに助けてもらわなくていいと。しかし彼は治療をしてくれた。俺は思わず尋ねた。何故人助けなんてするのかと。すると彼はこう答えた。


「不幸族はね、自分だけが不幸だと思い続けた者の末路さ。その淀んだ目。それは絶望の目、君も不幸族だよ。僕はね、聖職者に憧れてたんだ。でもなれなかった。それで不幸族になり女神に聞いた。僕も聖職者になれますか、って。『聖職者に種族や身分は関係ない。行いによって決まるのです。貴方が聖職者として在るならば貴方は聖職者です』ってさ。そこから人助けをした。ある日、女神に告げられたんだ。『私は貴方を聖職者として認めます』ってね。君もいつかそうやって認められると思うよ」








「まぁ、それから自分に出来そうなら人助けをしてるのさ」


彼は少し自嘲気味に笑う。私はいつしか泣いていた。自分の未熟さを、弱さ、そして本物の聖職者と言う在り方を知って。


「貴方は……貴方様は私よりもよっぽど聖職者ですよ」


そう漏らしていた。すると彼は目を見開き少し照れた様に目を逸らして、


「そうか……ありがとうな。俺も君に言われて心が軽くなったよ。君を立派な聖職者だよ」


涙は枯れたと思ったのに。また、涙が出てきたのだ。気付いたら彼に抱きついていてくずくずと彼の体に顔を埋めていた。今日、本当の聖職者の在り方を知った。












「さて、貴方様はいつ私と結婚してくれるのですか?」


私は彼と一緒に旅をしている。いつしか憧れは恋慕になり最近では良くこんな話をする。


「いや、待て。まだ諦めてないのか?断ったよな?」


「ええ、断られました。しかし、貴方様以外に好みの殿方に会えないのです。だから結婚してください」


彼の顔が愛しい。彼の体が逞しい。彼の香りが芳しい。


「いや、だけどな……」


「まぁ!私の初めてを捧げたのにまだ認めてくださらないの?」


そう私はもう彼に初めてを捧げたのだ。……私が襲ってしまったんですけどね!だって、一切手を出してくださないのですよ!余りにも紳士、聖職者!


「でもオークと人間が結婚なんて聞いた事ないぞ?これからめちゃくちゃ大変だぞ?」


「えぇ、そうですね。でも……貴方様はきっと私を助けて一緒に歩いてくれるでしょう」



そう、これは私と彼の、聖女とオークの恋と冒険の旅の始まりのお話。












続くかは未定。


相変わらずのオーク物。シリアスな部分はもっと酷い予定でした。完全にNTRされてからボコボコにされパーティからも追放の予定が「あっ、これ、立ち直れねぇよな」になり少しマイルドになりました。


ちなみにこの世界では抜けたパーティは彼の事を気に入っていてタンクとしてボロ雑巾にしたかったわけでなく彼がどうしても前に出てしまいがちなのでヤキモキしながら戦ってました。彼は自分が役に立ってる気がしない=パーティとして必要がないと、思ってます。


追放世界線はモチ使い潰す前提で潰れないから腹が立ち筆頭冒険者と協力して彼を貶める話。こっちではこのパーティーも粛清されてます。


異種族婚は寛大でだがオークと結婚したい人があまりに少ない為、また、トラブルの種になりそうなのであまり広まっていない。

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