前略、声と共闘と
あたしがネオスティアに来てから見たもの。
村、街、遺跡。いろんなものがある世界だ。
だけどあたしがネオスティアを語るとして、1番大事で、素晴らしくて、誇らしいもの。それはやはり人だと思う。
温かい。この不思議で、あたしの世界と似ていて、やっぱり似てなくて、なんだが継ぎ接ぎだらけに見える異世界で。
他人に優しく、あたしもそうあろうと心から思える、そんな世界だ。
あたしはきっと、ネオスティアが好きだ。
だからこんな理不尽な事が起きていいはずがない。
空から落ちてきた炎は、あたしの視界を全て焼き尽くした。
今も炎は燃え盛り、そこに生命の入り込む余地はない。
「セツナさん……」
あぁ、呼ばれてしまった、これでそっくりさんの可能性は消えてしまった。
ドラゴンの背に乗る青い髪の男。
彼は間違いなく、あたしの友達であるラルム君だった。
「とりあえずここまで降りてきなよ、ぶん殴る」
自分のものとは思えないほど、冷たく、低い声だった。
大丈夫、大丈夫。あたしはこんな事ぐらいで友達をやめない、ぶん殴って正気に戻そう。
…………いや待て、こんな事ぐらいって、何言ってんだあたしは。
こんな事くらいですませていいわけない、記憶が薄れてるとか、抜け落ちてるとか以前の問題だ。少し落ち着け。
「殴られる理由はないと思うんですけど」
言いながら軽く杖を振る。ドラゴンは消え、ラルム君はゆっくりと降りてくる。
まだ届かない、もう少し近づいたらあたしの距離だ。
「どうですかセツナさん、夢を叶えました。僕はあなたのような主人公になりました」
降りてきたラルム君は、手を大きく広げて言う。
あなたのおかげです。
ラルム君は本当に、心からそう思っているように頭を下げた。
その声、言葉、仕草、全てに腹が立つ。
「そうだ!今から一緒に旅をしましょう!一緒にドラゴンの背に乗って……」
あたしが次の言葉を発する前に、ラルム君はそんな事を言い出した。
まるで本当にいい提案を閃いたような、晴れ晴れとした表情で。
あぁ、そうか、君は……お前はあたしの友達なんかじゃない、お前は敵だ、この温かな世界の害だ。
こんな状況で、怒りよりも苛立ちを強く感じる。
嫌だ嫌だ、こんな考えは。黒くて暗くて寂しい感情だ。
でも仕方ない、コイツは敵だ、紛れもない事実だ。
「だ「黙りなさい」
黙れ。昔のように強い言葉を発そうとした時、声が聞こえた。
その声はいつもは静かで冷たくて、淡々としていて、あまり感情を感じさせないが。
その声は、本当は優しくて、ネオスティアの例に漏れず温かな、そんな持ち主から。
その声は、確かな怒りを感じさせた。
「リリアンさん、あなたには話してませんよ」
話の腰を折られ、苛立ったようなラルム君はリリアンに厳しい目を向ける。
「私もあなたとなんて話したくありません。ただ、あまりに聞くに耐えないものなので」
リリアンもその目を睨み返す、その瞳には怒り以外の感情も感じさせる。
「同じような主人公、バカな事を言わないで下さい」
リリアンは1度あたしを見て、もう1度ラルム君の方を見る。
そしてまた何か言いかけたけど、すぐに別の音の言葉を発した。
「……この人は誰かの為に本気になれる人です。間違っても自分の夢の為に誰かを傷つけない」
あなたと同じなんかじゃない。と続けるその言葉にあたしは冷静になれた。そして嬉しい、嬉しいんだ。
「ありがとうリリアン、あたしの為に。そういえばさっき止めてくれた事もお礼を言ってなかったね、ありがとう」
おかげで死なずにすんだよ、伝えて笑いかける。
そして、黙れ、なんて強い言葉を本気で言わずにすんだ。もう一人じゃなかった。
「好き勝手いいますね、ですが僕だって主人公だ」
ラルム君は苛立ちを隠さずに杖を振るう、あたしたちの周囲に無数の魔法陣が現れる。
すぐにその魔法陣からは翼のないドラゴン……いや、凶暴なトカゲのような魔物が姿を表した。
彼がこんな事をしたのはあたしのせいなのか?
あたしの選択は間違っていたのか?
あたしは、彼の夢を否定するべきだったのだろうか……
後ろ向きな考えばかりが頭をよぎる。
「気にする事はありません」
リリアンはあたしの隣で言う。
「あなたの選択は間違っていません」
リリアンはあたしが間違ってないと言う、その真っすぐな視線はとても優しげで。
あたしに前を、明日に向かせてくれた。
「うん……ありがとう」
「今回は私も戦いましょう」
それなりの時間を過ごしたけど、一緒に戦うのは初めてだ。
「うん!初めての共闘だし、ド派手にいこう!」
片手剣をくるくる、放り投げて、キャッチ。
こんな時だから、少しでも明るくいきたくて。
「そんじゃあいっちょいきますかー!」
いつもの掛け声、たまになにか返してくれる人がいるけど。
何も答えなくて構わない、隣にいてくれるなら。
「そうですね、少し派手にいきましょう」
返ってくるとは思わなかった返事に、思わずリリアンを見る。
その横顔は少し楽しげで、愛用の黒い大剣を、あたしよりも優雅に回して。
「それでは1つ、参りましょう」
リリアン風にアレンジされた、お決まりの掛け声が、耳に心地よく響く。
あたしを見つめ返すその黒い瞳は、こんな状況でも相変わらずに美しい。
その高揚感のままに、あたしたちはトカゲのような魔物に立ち向かった。
「よしっ!」
斬る。いや斬れないけど、そんな心持ちでトカゲに剣を振るう。
「まだまだっ!」
だけど斬れなくてよかった、このトカゲの身体はすごく固い。下手な刃物では成果がでなかっただろう。
「どんどんいこう!」
実際は同じ武器を使い続けるとすぐにダメになるので、装備変更をかかさない。
一匹づつ丁寧に倒していく、効率は悪くともあたしにできる精一杯だ。
さて……リリアンの方は……
「相変わらず、頼もしいね」
一騎当千。とでも言えばいいのか、とにかく強すぎる。
殺された事はあっても、戦ってる所を見たことがない。
本人も枷と鎖のせいで、今出せる力は2割ほどだと言っていた。
正直こういった場面で戦えるのか、不安も持っていた、だけど。
「まさに格が違う」
リリアンはその黒い大剣を完全に使いこなし、戦っていた。
あたしのようにこの世界のルールで得たスキルだけで戦うのではなく、本当の意味で。
力まかせに叩きつけるだけでなく、しっかりと。
大きくとも剣。鮮やかに振るい、トカゲを両断していく。
その大剣の一振りで一匹のトカゲは飛び散った。
その次の一振りで2匹目のトカゲは消え去った。
思わず見とれる。普段の姿とは違う、戦いの中にいるリリアンに。
そして、その背後に影が見えた時……
「『セツナドライブ』!」
トカゲに向き合うリリアン、その背後の魔法陣から別のトカゲが。
余計なお世話かもしれない、それでも。
もしもの事が怖くてあたしは飛ぶ、その背に飛びかかるトカゲを切り伏せる。
「…………」
リリアンは驚いたような、それでも少し嬉しそうな顔でこちらを見た。
いや、嬉しそうは勘違いか?
「ごめん、余計なお世話だったかな?」
少しとぼけた感じに聞いてみる。ここで厳しい言葉が帰ってきても構わない、お互い無事なら。
「いえ……」
ここ最近言い淀むことの多くなったリリアン、今回は次の言葉が紡がれるのが早かった。
「いい援護です、この調子でいきましょう」
「りょーかい!まかせて!」
嬉しいな、この状況で背中を預けてもらえるのは!ならば期待に答えよう!
「いつまでもそんなとこにいないでさ!こっちまで来なよ!」
トカゲを倒しながら、あたしはラルム君に叫ぶ。トカゲを呼び出した後、彼はまた空を浮かんでいる。
ドラゴンはいない、今のうちにぶん殴る。
「お断りします、殴られにいく趣味はないので」
杖を振るう、現れる幾何学的な魔法陣。
そして現れるトカゲ、トカゲ、トカゲ。
「やっかいだなぁ!」
こんなに便利なものなのか『召喚術』というのは!さっきから一向にトカゲが減らない!
1度引き、リリアンと合流。背中を合わせて作戦会議。
「いい提案があります」
「さすが、頼りにしてたよ」
頼もしすぎる。確かにこんなに強かったら、今までの冒険はリリアン1人で済んでしまう。
これまでついてこなかったのはあたしの成長のためだろうか、そんな事を考えた。
「私があの男を撃ち落としましょう、そして届かせなさい、セツナ、ドライブを」
「オッケー!任せて!」
頼りにされてる、じゃあ頑張ろうか!
……そういえば、そんなにセツナの部分に力を入れないでほしい、なんだか別々の言葉みたいだ。
『セツナドライブ』流れるように言ってほしい。
「そんじゃあいっちょいきますかー!」
あたしは走る、トカゲを飛び越え、必殺技の射程まで。
リリアンの大剣が唸る。風を切り、その斬撃を空に轟かす。
「ぐっ……うっ!」
その風圧にラルム君は落下する、そしてあたしの準備もできている。
「『セツナドライブ・改』!!!」
駆ける、踏み込む、飛ぶ。
反応すら許さない刹那の斬撃は……
「んん?」
ラルム君に届く前に、何かに防がれた。
黒く、禍々しい何かに。




