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前略、和解?と出発と

 はい、あたしは死にました。異世界転生してから10分……いや、5分くらいで。

 体感としては元の世界で消されてから、胡散臭い天使にツッコミを入れ、塔から落とされて拘束付きのメイドさんに殺される……

 なんともハートフルな展開だ。


「死んだけど……死んでない……」


 もちろん、うまく致命傷を避けたとか、スゴイチートが発動して無傷とか、そんなわけはない。


 ただ単に、天使からもらった大体なんでも叶う券が消費されたにすぎない。

 死にたくないと、諦めきれないと。


 死ななかった。その代わりにどうやらあたしは、ここまでにもらった特典のほとんどを失ったらしい。


 残ってるのは、あと1回大体なんでも叶う券と約束の荷物と……天使へのテレホンカード……うん、これはいらない。


 ついさっきまであった高揚感、身体の充実感、そういったものがなくなっていることを、ハッキリと理解できた。

 後ずさり、冷や汗を拭う。


「面倒ですね、転生者というのは」


 メイドさんが口をひらく、怖い……今頃になって死を、ハッキリと意識してしまった死に対して、恐怖する。

 そして人を殺しておいて「面倒」の1言で済ます彼女に対して、それでも震える身体を武者震いだと言い聞かす。


「でも、無限ということもないでしょう。とりあえず何回か殺しておきましょうか」


 本当に面倒事にうんざりしたようにため息を1つ。

 ハッキリと告げられる殺人予告。

 嫌だな……痛いのは……心が、感覚が、本能が、逃げ出そうと語りかける。逃げることには賛成だけどさ、でもさ


「ごめんね、約束しちゃったから、死ぬわけにはいかないんだよ」


 言ってしまった、もう戻れない。あたしは約束を破れない。


「あぁ、そういえばそうでしたね」


 少しだけ、メイドさんの表情が変わる。


「私はその荷物を受け取りにきたんでした」


 本当に、今思い出したかのように彼女は言う。


「一応、名乗りましょうか、私はリリアン。青の領地の領主、ルキナ・レッドソーン様のメイド兼剣です」


 お見知りおきを、優雅に頭を下げるその仕草に目を奪われる。

 キレイだなぁ、ついさっき殺されたことも忘れてしまいそ……いや忘れらんないね。一生。


「おそらく、あなたの持っている荷物にも、宛名があるはずです」


 猶予をくれたみたいだし、荷物を確認する、そういえばドタバタしててよく見てなかったけど、荷物っていうか……封筒?中に何か入ってる。

 宛名は……『親愛なるるルキちゃんへ♡』と書かれている。


「どうですか?」


「うん、親愛なるルキちゃんへ♡って書いてある」


「そうですか」


 興味なさそう、ちゃらんぽらん女神め、会ったことないけどさ。


「それでは渡して下さい、殺してでも奪いますけど」


 さぁ、メイドさんは手を伸ばす、あたしに向けて。

 ……多分、悪い子じゃないんだろうな。きっと本当にそのルキナさんの関係者なんだろう。敵意は感じるけど悪意は感じない……みたいな?

 

 でもね


「きっとこれは、あたしがやんなきゃいけないことなんだと思う。お使いのお使いみたいなものなんだけどさ」


 我ながら面倒くさい性分だ。仕方がない、それがあたしだ、時浦刹那だ。

 

「それに、ちゃんと届けないと元の世界に帰れないっぽいし」


 それになにより、途中で投げ出したり諦めたりは、あたしらしくない。

 あたしは出来るならそんな生き方がしたい、そんな憧れを追っていたい。


「……怖くないんですか?」


「怖いよ、足だって震えてる。それでも、あたしがあたしじゃなくなるほうが、きっと何倍も怖いよ」


 うん、心からそう思う。選択に後悔はない。


「その信念で死ぬことになっても?」


「死ぬことなっても!」


 メイドさんはあたしを見据える。それはまるであたしの心を見ているような、その本質を見通すような綺麗で鋭い目で。


 足を叩いて震えを消す、消えてくれない。なら仕方がない、せめて前を向こう。

 さぁ、戦おう、抗おう。それで死んでも、最後まであたしであろう。


「そうですか、わかりました。では行きましょう」


 深呼吸して目を閉じる、休憩は終わりみたいだね。


 覚悟をきめて目を開くと彼女は……


「なにをしてるんですか、行きますよ」


 あたしに背を向けて歩きだそうとしていた。


 え、なんで?


「えっと……殺さないの?」


「もしかして殺して欲しいんですか?」


「滅相もないです!」


 やろうと思えば瞬殺だからね。冗談でも言ってはいけない。


「ただ、殺す理由が少なくなっただけです。領地はそこそこに遠いので、荷物持ちにでも使ってあげます。頑張って私の機嫌を取ってください」


「機嫌ねぇ……」


 きっと機嫌をとるにも理不尽な事が……口には出せないけど。


「ちなみにただ単純にあなたが気に入らないで、100殺すくらいです」


「理不尽だ!」


 思わず口にだしてしまった。


「元の世界に帰りたがっているなら……まぁ、良しとしましょう。ちなみに自分から荷物を持ちにくる人は嫌いじゃないです」


「持たせて下さい!荷物!」 


 滑り込んで手を差し出す。

 どうやら持たない選択肢はなさそう。命があるなら安いものだよ、うん。


「あと……」


「あと?」


 考え込むように口に手を当てるリリアン、まだなにかあるのかな?


「自分を曲げなかったところは嫌いじゃないです」


 うん、やっぱりいい子っぽいね。殺されたけど。


「ありがとう、それじゃあ行こうか。弱っちくて迷惑かけちゃうけどよろしくね」


 守ってもらうんだ、荷物くらい甘んじて持とう。

 リリアンの後ろについていく。


「あぁ、それでしたら問題ないです」


 リリアンはこれまでとはうってかわって、とてもいい笑顔で。


「これからは、みっちりと鍛えてあげますから」


 デスヨネー、ありがたい申し出を受け止めつつ、あたしはリリアンを追いかける。


 あたしの物語がようやく始まる。そんな気がした。 

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