前略、弟子と生徒と
「という訳で、カギを奪いにきました!」
踊りの授業に使う、広い場所であたしはラヴさんに叫ぶ。どうせなら派手にいこう!
「そう……迷いはもうない?」
「ないです、お陰様で」
ラヴさんは講師としての優しい表情で聞いてくれた。
そしてあたしの答えに対して、この街の住人としての表情で立ち塞がった。
「なら、わたしもお仕事しなくちゃね」
ゆっくりと木刀を取り出し、構える。
高く構えたその姿はこの舞台も相まって、まるで踊りのような優雅さを醸し出していた。
あたしもさっき舞台裏からくすねてきた木刀を構える。
相変わらず手に馴染まない武器。だけどその思い通りにならない感覚すらも、今はなんだか心地良い。
「よろしくお願いします!」
人生の先輩に、塾の講師に。今のあたしをぶつけるべく駆け出す。
「くっ……い……ったぁ!」
木刀が馴染まない、その事を除いてもラヴさんは強かった。あんなゴツい見た目をしてても女性なのに、この街ではありえない程に強かった。
それは、守りたいものがあるからだろう。
「まだまだいくわよぉー!」
ふり降ろされ続ける木刀に、あたしは防ぐことしかできない。せめて……
「せめて必殺技ができれば……」
ないものねだりをしても仕方がないけど。こんなときに、『セツナドライブ』を頼りたくなるのも事実だった。
「言ってても始まらないか!」
こちらからも打ち込む、多少のダメージは入ってるみたい。
落ち着いてる。完全に力負けはしてるけど、あたしの方が速く、そして自由に動ける!
「あらためて、ありがとうだよ。みんな」
『テンカ』にきてから無駄にし続けた技術が、あたしの背中を押す。十分に戦える。
打つ、躱す、躱す、受ける、打つ、打つ
戦いの中で気づく、ラヴさんは本気なんかじゃない。
講師としてあたしに何かを教えようとしている。
表情こそ真剣だけど、打ち合う木刀から、敵意は伝わってこない。
むしろあたしの何かを待っているかのような、だから簡単に倒されてくれない。
「わからないので普通に倒します!」
「あら?なんのことかしら!」
とぼけるラヴさん。それならそれで構わない。
「それにセツナちゃん、あなた……」
ゆっくりと構え直す、お話に気を取られないように。
「スピードだけなら勝ってると思ってるんじゃない?」
まずい……嫌な予感がする、こういう予感はよく当たる。
「て、はやぁーーい!!」
ラヴさんは強く踏み込み、次の瞬間には、あたしの目の前で木刀を振りかぶっていた。
「ぐぇっ!」
地面に叩きつけられながらも距離をとる、格好悪くても構わない!
「まさか……『セツナドライブ』!?」
いや、自分の目で見たことはないけど、圧倒的にな速さ、あたしの必殺技を思わせる。
「なぁに、そのダサい名前、ありえないわ〜」
ダサくないやい!
距離を取りながら、また逃げ回る。
なにか、なにか、ブーツがなくても速く動く方法が……
自分の中の記憶に問いかけると、すぐに答えは返ってきた。
「そうだ!走り方!」
最近は、そういう走り方をしてなかったから、すっかりと抜け落ちていた。
これじゃあ元の世界の仲間たちに笑われちゃうね。
イメージトレーニング。構える、手を地面について屈む。全速で走る!
地面を蹴って、弾くように!
「やはり最初が肝心」
思い出した、この地面を蹴る感覚、踏み込みの重要性。
「悪いけど、いまのじゃ何度繰り返しても無意味よ?」
わかってる、今のままならね!
初めての『セツナドライブ』の時も、おんなじようなことを考えた気がする。
あの時と違うのは道具の力に頼れない代わりに、みんなから教わったスキルがあること、本当の意味でなにも怖くないこと。
打ち合いながらチャンスを待つ、次にラヴさんが振り上げた瞬間。
すぐにチャンスは訪れた、さぁ行こう!
助走のルーティーンはいらない、振り上げに反応して踏み込む。
その踏み込みにみんなから教わったすべてを詰め込んだ。
この感覚……久しぶりだ、前に使ったのはアニキさんに失敗をみせたときだ。
時間は待っていてはくれないから、そろそろ追い越しに行こう。
「『セツナドライブ』!」
せめて名前だけでも似せたくて、いつもの必殺技を叫ぶ。それはいつもとは違う、たった1歩の刹那だったけど。
あたしの【山賊の目】に映った、ラヴさんの木刀の弱点を打ち、それをへし折っていた。
「わたしの弟子がそう簡単に負けるはずがないんです」
静かに見守ってくれていたリリアンの自慢げな表情は、新生主人公の最初の報酬として、これ以上ないくらいぴったりなものだった。




