前略、傷だらけながら異世界にて
あー、なにがどうしてこうなったのか。
ついさっき、胡散臭い天使を名乗る者から説明を受け、いやいやながらこの世界にきたわけなんだけど……
どうしてあたしは今、全身にめぐる痛みと共に倒れているのだろう。
体中痛くて頭が回んないけど少しだけ、今見えるものだけでも描写してみよう
まずあたしが倒れてる地面、というか周り一帯。
色とりどりの花が咲き乱れてなかなかにキレイだ。少なくとも、本来は人が倒れるように造られたわけではないだろう。
少しだけ視線を上にやれば長い長い塔。終わりの見えない塔。覚えてる、あたしはこの塔から落ちて来たんだ。
……うん、頑張ってみたけどこれ以上目をそらすのは無理みたい。視線を戻せばそこに、一番の存在感がそこにある。否、居る。
あたしと同い年くらいの女の子がそこに。やっぱり異世界なんていっても人は人だよね、なんて考えながら自分と違うところを探してみる。
服。その女の子はメイド服だった。うん、よく似合ってる。
髪も瞳も服も、黒が多めのそのスタイルは、少し幼い顔立ちの彼女に怪しい魅力を宿らせている。
ただ少し惜しいな、その両腕を繋ぐ枷はいただけない。
鎖が長く、もしかしたら日常生活に不便はないのかもしれないけど、それでも縛られていると言うのは、気分のいいものじゃないなぁ。
それでも仮に、ここがあたしの世界のメイド喫茶なら足蹴く通うのも満更ではない。
鎖さえ除けば、その無愛想な表情も一部の人には受けるかもしれない。
しかし、ここはメイド喫茶ではないし、彼女が話のわかる従業員であるならば、あたしからの最初の注文は……
「できれば、その大きな剣をしまってほしいな」
実際に声に出してみたけど彼女は何も答えない。
ただなにかに苛立ったような、面倒事をみつけたような。そんな顔をしながら大剣を振り上げた。どうやら話し合う気はないらしい。
「本当になにがどうしてこうなったのか」
まだ死ぬには少しだけ時間がある、せめて少しでも自分の死に納得ができるように、あたしはこの世界にくるまでを思い出してみることにした。