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第十二話 暗黒の儀式

 一瞬の暗闇。視界が真っ暗になる、体に重さを感じる。ゆっくりと目を開けた。

 石の天井が目に入った。ハルトは石の台の上に寝転がっていた。


 見渡せば広い石室で、辺り一面が死体だらけだった。死体の数は二百を超える。

 二百人は武装していた。死体は腐乱していない。


 血の匂いがするのでいましがた激しい合戦があったのだろう。

 傷ついたオウラが姿を見せた。オウラに治癒魔法を掛ける。


 オウラは息も切れ切れに詫びた。

「申し訳ありません。ハルト様。一年で呼び覚ますところが、十六年も掛かってしまいました」


 十六年か。体感時間にして二時間程度。僕は運命神に、時が停まった空間に閉じ込められていたのか。


「オウラらしくない失敗だな。どうかしたのか?」

「予期せぬ妨害に遭いました。世を照らす者たちを旗頭にする、光の教団です」


 オウラの傷が癒えると、二人の男が入ってくる。

 一人は年配の忍者の男。こっちは面影があるのでわかった。霜村だった。


 もう一人は、血にまみれた三十代の武士。茶の小袖を着て、袴を穿いている。髪は本多髷で、髭は綺麗に剃られており、腰には刀を差している。


 霜村がオウラに険しい顔で声を懸ける。

「爺さん。敵はあらかた片付いた。だが、こっちは、山城と加賀が討たれた」


 武士が厳しい顔で告げる。

(それがし)の手勢は六名。転移門を確保しています。敵の新手がやって来る前に、お逃げください」


 オウラが武士に命令する。

「頼むぞ、島津。殿しんがりは任せた」


 島津が知らない内に仲間になったか。経緯が気なるとこだ。だが、今は逃げたほうがよさそうだった。体がまだ本調子かどうか不明だ。


 ハルトは手短に頼む。

「わかった。後は頼みます」


 オウラと一緒に部屋を出た。通路にも死体が転がっていた。

「結構派手な戦いだな。寺院は大儲けだろう」


 オウラは澄ました顔で告げる

「後始末はダンジョンがしてくれます。ハルト様が気になさらなくても大丈夫です」


 僕の蘇生を行なった場所はダンジョンの中だったか。ダンジョンの力を使って蘇生しても具合の一つも悪くならない。理由はダンジョンもまた呪われた王冠の力の産物だからだな。


 死体があまりにも多いので気になった。敵なら気にしないが、ハルトのために死んでくれた人間なら、感謝の一つもしたいところだった。


「倒れているのは味方が多いのか、それとも敵が多いのか、どっちだ?」


「敵が多いです。敵もこの一戦に全力を注いでいました。ですが、島津殿を筆頭とする幹部の働きが見事でした。後でよいので、お褒めの言葉を懸けてやってください」


 褒めるだけならタダだからな。

 石の通路を右側に進む。右側の通路には死体が転がっていなかった。


「綺麗な通路だな。戦闘がなかったようだ」

「仲間の魔術師が幻術で通路を隠しておりました」


「魔術師にもお褒めの言葉が必要かな」

「蘇生できればの話ですが、難しいと思われます」


 隠し扉を抜ける。六名の鎧武者が守る転移門があった。

 オウラが素っ気なく鎧武者たちに告げる。


「もう少しの辛抱だ。霜村と島津が来たら合流して帰還せよ」

「承知しました」と鎧武者のリーダーが威勢よく答える。


 転移門を潜った。

 薄暗い小部屋に出た。


「ここは、どこだ。迷宮都市の入口ではないが」

「アジトとして買い取った建物の一つです。アジトは複数ありますが、ここが一番大きいです」


 小部屋を抜けて、通路を進み、階段を上がる。

 隠し扉を抜けると、三十畳の座敷になっていた。


 オウラがほっとした顔で告げる。

「ここまで来れば一安心。まずは生還おめでとうございます」


「詳しい状況がわからない。簡単に説明してくれ」

 オウラは穏やかな顔付きになり説明した。


「島津との戦いの後ですが、ハルト様は死にました。そのあと、島津も同じように死にました。ですが、島津は蘇生に成功して、今ではハルト様を主君として仕えています」


 興味があったので尋ねる。

「どうして、そうなった? 仕えた経緯が気になる」


「島津は刀を返す条件で、ハルト様に忠誠を誓いました」

 島津が年を取っていない理由に説明が付いた。闘神無双には命を吸い取る効果がある。


 闘神無双の所有者は刀から命を渡され年を取らない。

 ハルトは驚いた。苦労が無駄になった気がした。


「では、金貨百万枚は手に入らなかったのか?」

 オウラは澄ました顔で告げる。


「闘神無双は金貨百万枚でベルコニアに売りました。ですが、後から買い戻したのです」

 話がおかしい。そんな金があったら、闘神無双など奪いにいかなかった。


「どこにそんな金があったんだ」

 オウラは当然の指摘をする。


「ベルコニアは約束していたでしょう。刀を持ってくる仕事をこなしたら、もっと金を回しても良い、と」


 言ってはいた。だが、タダで金をくれる悪魔は不気味でもある。

「ベルコニアは、どうしている?」


「今はハルト様を総帥とする千年財団の会計担当です。優秀な人材なので、ベルコニアが仲間になってからは、資金繰りで一度も困った過去がありません」


 ベルコニアなら会計に明るそうだ。だが、いくらで雇ったのかが気になる。

「相手はあのベルコニアだぞ。タダで仲間に、なるわけがない。報酬に何を約束した」


「裏では何を考えているかわかりませんが、表向きは無償協力です」


 怪しい話だと思った。ベルコニアはベルコニア自身の目的を達成するために手を貸している。断じて、ハルトの理想に共鳴した仲間になったわけではない。


 利用できるのなら、利用したほうがいいか。世の中は利用し、利用され、回っていくもの。

「いいだろう。他には増えた仲間は、いるのか」


「昨日まで幹部は私を含め十三名いました」

 幹部が十三人とはかなり大きな団体だな。オウラなら切り盛りできるだろうが、ちょっと大き過ぎやしないか。


 オウラが無念さを滲ませて語る。


「ですが、ハルト様蘇生のおり、世を照らす者との戦いにより、九名が命を落としました。九名は蘇生を試みますが、全員の復帰は無理でしょうな」


 敵が黙って蘇生を許してくれるとは思えない。蘇生できないように対策を講じるはず。

 失われた九人は戻ってこないと思った。


「十三人中の九人が殉職か。けっこう手痛いダメージを受けたな」


「いいえ、ダメージは少ないです。ハルト様の蘇生が失敗すれば財団は求心力を失い、瓦解(がかい)しました」


 希望を失えば人は力を失くす。ハルトがオウラたちの希望だった。だが、当のハルトはそれほど事態を重く考えていない。ハルトは元から一人で、また一人に戻っただけのことだった。


 ハルトは次に気になる情報を尋ねる。


「あと、ここは、どこだ。迷宮都市にあっては珍しい建築様式だな。まるで、千葉の道場だな。近くなのか?」


「ここは千葉の元道場です。千葉は島津と立ち合い、死にました。千葉の亡きあと、道場が格安で売りに出たので、買いました。今の道場主は島津です」


 時間の流れを感じた。だが、他人の上に流れた時間など、どうでもよかった。

「呪われた王冠については、わかったか」


 大事な点だった。十六年もあれば進展があって当然との思いがあった。

 ハルトは期待していた。だが、オウラの言葉は違った。


 オウラは沈んだ顔で詫びる。


「面目ありません。世を照らす者に始終、足を引っ張られ続けられました。ハルト様を蘇生させるだけで手一杯でした。調査のほとんどは進んでいません」


「それは、残念だ」

 心からの言葉だった。


 オウラはハルトを励ます。


「ですが、我らには今、千年財団があります。この度の戦いで多くの部下を失いました。ですが、千年財団には忍者だけでもまだ百名が在籍しております。資金も潤沢です」


 刀一本から始まった投資だった。十六年が経過したと思ったら、大きな利子が付いていた。

「忍者だけでも百名か。心強いな」


 オウラは明るい顔で言葉を続ける。


「ハルト様の復活が叶いました。これからは、千年財団は総力を挙げて、呪われた王冠を探せます。必ずや近いうちに吉報が齎されるでしょう」


 ハルトの復活から数日、世を照らす者たちからの攻勢もなく、平穏な日々が過ぎる。

 オウラがハルトの下にやって来る。


「ハルト様。混沌王から、千年財団の総帥宛てに、晩餐会の招待状が届いております」

 混沌王とは会っておきたかった。混沌王が現在の呪われた王冠の所有者なら、いずれ敵対する。


 敵を知るには敵と会うのが手っ取り早い。

「迷宮都市の主である混沌王が僕の復活を知っているのか? 情報が早いな」


 オウラは澄ました顔で告げる。

「派手に戦いましたからな。知っていても不思議ではありません」


 敵地に飛び込む判断は危険でもある。


 だが、現状では千年財団を手に入れたハルトよりも、混沌王が圧倒的に優位。本当にハルトを潰したければ、もっと直接的に動けばいい。


「よし、いいだろう。招いてくれるのなら行こう」

 オウラは頭を下げて頼んだ。


「でしたら、シャーロッテをお連れください。我が教団の幹部であり、昨日、蘇生に成功しました」

 初めて会う幹部だな。オウラが見込んだ人材なら、優秀なんだろう。


「入れ」とオウラが命じる。

 襖が開いて一人の女性が入ってきた。女性は年齢二十くらい。


 身長は百五十㎝とやや小柄。金色の髪を肩まで伸ばしていた。目は切れ長の金色で唇には薄い紅を引いていた。


 女性がハルトの前に座り、挨拶をする。


「ハルト様。お初にお目に掛かります、シャーロッテです。職業は賢者です。以後よろしくお願いします」


 ハルトは、気になったので確認する。

「シャーロッテたち幹部は僕の目的を知っているんだろうな?」


 オウラが畏まって告げる。


「知っております。幹部十三名はハルト様の目的を知って協力を約束しています。たとえ、その結果、世界が壊れようと構わないと考える者たちです」


 世界が壊れても協力する。口では何とでも言える。本心では違うのかもしれない。本当の目的は、呪われた王冠の新たな所有者になることかもしれない。


 呪われた王冠は人を欺いて手に入れるだけの価値がある宝。最後にはオウラを除く幹部連中と戦わなければいけないかもしれない。


 ハルトは漠然と危険性を考えていた。

 だが、失敗も裏切りも露見しないうち、新たな幹部を排除する気はなかった。


 呪われた王冠については情報がない。ならば、最後は争う事態になっても発見時までは協力したほうがいい。


「オウラの言葉を聞いて安心した。シャーロッテよ。これからも、財団と僕を支えてくれ」

 シャーロッテが優しい微笑みを湛えて答える。


「はい、全てはハルト様のために」

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