第8部
運動能力測定会まで2週間あった。
まだ12歳の中一の欧井戸との子は、抜群のネゴシエイト能力を持ち、交渉術の能力を持っている。
彼女は人心を操るのが得意で自分の能力を悪用する天才だった。
欧井戸との子はフォローレンス学院中学部女子部1年2組に初登校して3日目に、全クラスを掌握し支配してしまった。
恐怖と威圧で支配した。みんな欧井戸との子の不機嫌な顔にびくびくおどおどしている。
彼女は、誰をディスったり、威圧したら最も効率よくその場を支配できるかを見極め、選んだ3人ほどを取り巻きの女の子達と徹底的にディスりまくったのだった。効果はてきめんだった。
教室の空気は凍り付いた。そして完全に彼女を生徒たちは恐怖して教室は支配された。
欧井戸との子は満足げにほほ笑んでいる。
休み時間には、欧井戸との子の高笑いが聞こえる。
あとを追うように取り巻きたちの卑屈なお追従の笑い声が聞こえる。
正確にはジュノと大山のぶ美以外の生徒が、彼女の不機嫌を異様に気にして、びくびくしているのだ。
昼休みには、我が世の春とばかり、欧井戸との子は高笑いをしっぱなしであった。
「オ~ホホホホホホホ!」(中学1年でこの笑い方は趣味が悪いが本人は気づくこともない)
ジュノは視野にも入れず、完全に無視していた。大山のぶ美は天然でぜんぜん空気読めないタチなので、クラスの雰囲気が変わったことに全く気付いていない。
重苦しい陰鬱な空気が教室に垂れこめていた。
……こりゃ、だめだっ……ジュノはつぶやいた
次の日
朝の1時限はホームルームだった。
いつもなら議題なんて無いので1時限はまるまる雑談で終わるのだが
始まるなり、いきなりジュノが議題を出した。ジュノがこんなに積極的に出るのは初めてであった。
ジュノは昨日、起きた出来事、欧井戸との子とその仲良し2人がクラスの他の女子3人に行ったことをすべてその場で説明した。(ほぼクラス全員36人が揃っていたので全員知ってるのだが)
そして、初めて怒りの表情を出して、三人を論理的に攻めた。
まさか自分がクラス全員の前でやった「いじめ」をまともに正攻法で来られるとは思わなかった欧井戸との子であるが動じず、持ち前の高い知能で、自己弁護して、大演説をして、その中で話をそらしてうまく話題をすり替えようとした。ジュノはそんなこと許さなかった。
結局、ジュノの厳しい論陣で、欧井戸との子とその仲良し女子2人は「反省」をみんなの前でさせられて、ディスったクラスの女子3人に謝罪させられた。
ジュノの強さと明るさと親切さが欧井戸との子のディスりで凍り付いた教室の空気を一瞬で解凍した。
ジュノがクラスを支配していた。正確には、クラスの雰囲気をジュノが支配していた。
欧井戸との子はクラスのだれの視野にも入っていなかった。
彼女が不機嫌であろうと誰も気にしなくなっていた。
ジュノの明るさと誰にでも親切にしてくれそうな楽し気な雰囲気がクラスの中を支配していた。
そして次の日
今度は大山のぶ美のぜんぜん気を使わず誰もが自由にのんびりできる……元のこの教室の雰囲気に戻っていた。もともと、大山のぶ美がこのクラスのムードメーカだったのである。
なぜか……ジュノの来る前から。