第42部
チャリティ文化祭より1日前の事、欧井戸との子の家で事件があった
欧井戸邸は総檜造りの和風の豪邸である。
庭は京都の寺院と見まごうくらいの立派な日本庭園である。
そこの池に12匹の錦鯉が飼われているが、どれも品評会で100万円越えの血統の錦鯉である。
3か月に1時間だけ、セキュリティ機能のメンテナンスが行われててセキュリティが切られている時間帯がある。その時間を狙い、庭に侵入して、錦鯉を大きな魚網で捕えている人影があった。
それは午後4時頃であった
廊下で庭を見て涼んでいた欧井戸縫子が気づいた。
「ちょっと、だれなの? うちの可愛い鯉に何をしてるの?」
縫子はとっさに自分の携帯電話で犯人の写真を撮った。
犯人は鯉を1匹捕らえて、漁網に入れ塀を飛び越え、そのまま逃走した。
縫子は写真を見たが……それはどう見ても、甥の藤堂自然であった。
「なんで、あの子がこんなことを?」
早速、妹の藤堂裁子に携帯電話をした。
「あら、姉さん、何か用?」
「あなたの息子が、うちの錦鯉を池で捕獲して逃げたんだけど、どういうつもりかしら?」
「ええ?! まさか?! あの子だという証拠は?」
縫子は妹にメールで写真を送った。
「どう?」
「……これは確かに、しーくんだわ。いったい、あの学校はうちの子に何を教えてるのかしら!!」
縫子の妹への嫌味が始まった。
「だいたい、聖乙女学園小学校でも、女の子へのスカートめくりをする悪ガキということで、すごい悪評でしたしね。そもそも1年生の入学式の時、修道院長さまが演壇でスピーチをしてらっしゃるときに演壇に上がって、こともあろうに修道院長様の僧衣のスカートをがばっと渾身の力でめくり、あの方が白のロングパンツを愛用してらっしゃることをみなさんに知らしめた悪ガキですものねえ」
裁子は姉の嫌味に言葉を返した。
「でも、それでもあの子の見かけが『ミケランジェロの天使像のように愛らしいわ』と修道院長さまはじめシスターのみなさんが見かけと行動のギャップに萌えてしまわれて、逆に、可愛がっていただける結果になったわ」
「それが母親の言う台詞だっていうの! まったくあなたは、脳ミソお花畑ね」
縫子は続けた「うちの池の鯉はみんな主人が可愛がって餌をやってるのよ。しーくんを捕まえたら、土下座させて代わりの鯉を弁償して頂戴!」
「……あの子にはきっと何か事情があるのよ。ごめんなさい、ほんとうに……」
古い木造家屋の一軒家で、ゴミ屋敷になりかけている家があった。
その家に藤堂自然が大きなショッピングバックを抱えて入って行った。
その家には、40代の男が一人住んでいた。
その部屋には先に藤堂のルームメイトの村上悟が来ていた。
その男の部屋で、藤堂自然は、言った
「お前が欲しがってた料理を用意したぜ。だから、あれを返せよ」
藤堂は、大きなショッピングバッグから、ラップを被せたアルミの大皿を出した。それには立派な鯉が唐揚げにされて盛られていた。
「うん、たしかに欧井戸家の池の錦鯉に間違いないなあ。一度、100万円超える鯉のから揚げの中華甘酢あんかけ食ってみたかったんだ」と男は、割りばしを割り、すごい勢いで鯉のから揚げにむしゃぶりついた。
あっという間に、平らげた。
「いやあ、旨かった」
「こっちは約束を果たしたんだ。早く、お前が公衆トイレにしかけた隠しカメラで撮った妹の隠し撮り写真のデータを返せよ」と村上が言った。
男「約束? なんだそりゃ?」
村上「おい、欧井戸家の池の錦鯉を1匹、から揚げにして持ってくれば、妹の隠し撮り写真を返す、と約束したじゃないか!」
男「うん? そんな約束したっけ?」
藤堂「盗人猛々しいやつだな。俺は約束を果たしたんだから、村上の妹の隠し取り写真のネガを返せよ」
男「藤堂自然、おまえのねーちゃん、巨乳で美人だなあ。おまえのねーちゃんのヌードの生写真もってくれば村上早苗の隠し撮り写真のデータ返すの考えてやるよ」
藤堂「アホか! ねーちゃんに殺されるわ!」
男に何を言っても、男は「藤堂自然、おまえのねーちゃんのヌード生写真としか交換しねえ」と言った。
仕方ないので、藤堂と村上は、すごすごとその日はフォローレンス学院の学生寮に帰った。




