第4部 挿絵あり
挿絵はのぶ美、ジュノ、との子
その夜、大山のぶ美の携帯電話がなった。
二段ベッドの上の段のジュノを起こさない様に気を付けながら、大山のぶ美が出ると、なんと母親からだった。
「ああ、のぶ美? お父さんが盲腸炎になっちゃって、たいしたことないんだけど、明日、手術なんだわ。けど、私がつきそいで病室に一晩泊まらないといけないんで、妹たちの世話をしに一晩だけ帰ってきてやってくれないかな? 明日とあさっては代休とあなたの学校の創立記念日で2連休でしょ?」
「ああ、いいよ」(ちぇっ、パパったら)
(ジュノのAI幻覚ステージをお願いして、二日間、パーフェクトPOPZの貸し切りステージーを堪能しようと思ってたのに。パパめ。まあ仕方がない…大丈夫かな?パパは)
電話が終わると、二段ベッドの上の段のジュノは起きていた。
「ごめんね、聞こえちゃったけど、私も一緒に行ってもいいかな?」
「わぁ、助かるわ。ありがとう」
次の日、朝早く、学食が始まる6時半めざして、大山のぶ美はめずらしく休みの日に早起きした。
ジュノはのぶ美が起きだすと、すでに身支度を終えて部屋の窓から外を手持ちぶさたげに眺めていた。のぶ美は顔を洗って歯を磨くと、二人はすぐに女子寮から続く渡り廊下から、地下へ降りて、学生食堂へ入った。すでに朝早くからクラブ活動をする運動クラブの生徒たちがジャージを着て一団となってテキパキと定食をかきこんでいた。
調理場には二人のおばちゃんがいて、一人は向こう側の男子部の学生食堂の給仕をしていた。
こっちの女子側のおばちゃんは気の良いほうのおばちゃんで、いつもみんなに、おねだりすればおまけしてくれる。
今朝の定食は、レタスサラダにリンゴと、食パン、チーズと牛乳だった。
のぶ美はおねだりしてリンゴを一切れ多くもらった。「おはよ。たくさん食べてしっかりがんばりや!」
おばちゃんはニコニコしながら、ジュノにもリンゴを1切れおまけしてくれた。
「ありがとうございます」ジュノもにっこり笑顔で返した。
二人は食事を終えると、上の事務所にいる寮監の「阿弥陀婆」こと舟木おばさんに声をかけ、外出許可をもらった。すでに大山のぶ美の母親から電話があって事情は母親が説明済みのようだ。
舟木おばさんは、悪気なくのぶ美にむかって「あんたまた痩せたんじゃない?そばかす増えて顔色悪いね。とっとと気を付けて行っといで」と返事をした。
大山のぶ美は苦虫をかみつぶしたような顔をした。しかし黙って「はい、行ってきます」とだけ返した。
ジュノはおかしくて、ついくすくす笑ってしまった。
二人はカバンに軽く着替えを入れて、学生寮の正面玄関から門のすぐ外にあるバスの停留所へ急いだ。
バスがすぐ来て、二人はそれに乗り込み、駅へ。駅前から電車を乗り継いで、やがて、大山のぶ美の家に到着した。
家の前に、小柄な30代後半の女性が小学生の女の子3人をつれてそわそわして待っていた。
「あ、おかえり、のぶ美、じゃあママ行ってくるから、この子たちのことお願いね。なんかあればまたメール入れるわ」「はい、ママ。あ、この人は同じ女子寮のルームメイトでジュノっていうの。今日、暇だそうなの」
「で、留守番を付き合ってくれるっていうので来てもらったの」
ジュノは笑顔で「こんにちはジュノです」
「あら、それはそれは、ごめんなさいね。ちょっと主人が盲腸炎でドタバタしてておかまいできませんけど、よろしくね」
「また、日を改めてゆっくり遊びに着て頂戴ね。そのときはお得意のお料理大サービスするからね」
ママはジュノに笑顔でそういうと、ママの「自家用車」のバイクで走り去った。
3人の小学生の妹たちは、それぞれ思い思いの方を向き仏頂面をしている。
「これはうちの3つ子の妹なのよ。小学2年生よ。てごわいんだわ。まあ、無理しないでいいからね。小悪魔なんで」
二人が家に入ると、3人の妹もおとなしく家に入ってきた。
でも、ひとりが「あたしプリン食べたい」「あたしも」「あたしはオレンジジュースがいい」と言い出した。
冷蔵庫をのぶ美が開けて見ると、コーヒーゼリーが6個セットのお徳用が入っていた。
のぶ美は大声で、「コーヒーゼリーしかないから、これ食べないならおやつ無っ!」
「いらない」「わたしもいらない」「いらない」
あれまあ……
横を見ると、なんとジュノがすでにコーヒーゼリーを食べている。「わぁ、お・い・し・い!」
しかもすごくおいしそうに。
3つ子は生つばを飲み込むと、「やっぱりいる!」と一斉に答えて、椅子に座り「スプーンとってよ、お姉ちゃん」手元を見ると、すでに小さなスプーンが3人の前に1こづつ置かれていた。
「いただきまーす」3人はてんでに食べている。「おあがりなさい」ジュノが笑顔で答えた。
(ジュノちゃん、たいしたもんだな)
フォローレンス中学へ入学する前、この3人に毎日振り回されていたのぶ美は、ジュノに一目置いた。