第38部
ククール教の古い教会で辺りは薄暗くなってきた。
ますます雹の降る嵐は激しくなり、ゴウゴウと雹と風が音を立てている。時折雷も鳴る。
「この中に日頃の行いの悪いやつがいるわね」ととの子。チラと藤堂君を見るが藤堂君は無視している。
ククール教の教会の窓ガラスから外を見るが嵐は止む気配がない
のぶ美は礼拝堂の中を見てみた。中央にククール教の創造女神であるサテーラの木彫りの像が美しく彩色されて一番高いところに飾られている。この女神像がこのククール教の最高神さまだ。この教会のご神体さまのようだ。
いきなりドアが開き、2メートル越えの筋肉隆々の40歳ばかりの僧服を着た男性が現れた。顔はにこやかな笑顔で、優しそうな雰囲気の大男だ。
「おやおや、書庫の整理をしておりまして気づきませんでした」と流調な日本語で神父は話しかけてきた。
「私は以前、日本におりましたので」と神父
「日本からの観光客の方々ですね。この天気には難儀されておられますでしょう
この嵐はこの地域の、まあ名物でしてね。ここまで荒れたらきょうはもう、明け方まで静まることはないでしょう。 粗末な物しか御座いませんが、きょうはこの教会にお泊りになられたらよろしいでしょう」
と親切に行ってくれた。
藤堂ととの子も顔を見合わせて「そうですか、ご迷惑とは思いますが、よろしくおねがいします」と図々しいとの子
礼拝堂の横のドアを開けて絨毯の敷かれている信者の休憩室のような部屋に神父は通してくれた。
毛布を四人に一枚づつ貸してくれた。
「ここで今夜はお休みください」
「お腹空いたよー」とのぶ美が言った。
「では、なにもありませんが、夕食にしましょう。当宗派は自給自足が原則でございますので、質素な物しかありませんので、驚かれませんように」と神父は微笑んで釘をさした。
信者の休息室はかなり広くて粗末な大きな木のテーブルと木の椅子が6,7脚あった。そして広い部屋の中ほどに大きな古ぼけたレザーの長椅子が置かれていた、そして部屋の隅の方に大きな二段ベッドの様になった信者用の仮眠場所のような施設があった。
神父は茹で上がったアツアツのジャガイモを鉢に山盛りにして、フォークとを一人づつの前に置いた。
あと搾りたてのヤギの乳と、テーブルの真ん中に大きな黒パンが切り分けて置かれオレンジが何個かと籠に入れて置かれていた。
あまりの質素さに、との子は、青ざめたが、外で轟く大嵐の音を聞いて、ーー仕方がないわーーと諦めた。
……なにせ自分らは招かれざる客であり、これはすべてこの神父の好意なのだ……
のぶ美にとってはとても足りなかったが、ここでそんな我儘は言えそうにない。それくらいはのぶ美にでもわかる。
みんなが食事を済ませて、ジュノは笑顔で
「美味しかったです。温かい夕食を有難うございます神父さま」と礼を言った。
さすがに、との子も藤堂も、のぶ美も丁寧にお礼を言った。
ーーいつものとの子なら「こんなもん食べさせてどういうつもりなの?」と言いそうだがーー
のぶ美はお腹が空いてしょんぼりしていた。
我慢するつもりだが、どうしても顔に出てしまうのぶ美である。
藤堂君はのぶ美をヒョイ!と肩車した。
あまり突然だったので、みんなが驚いた。特にのぶ美は真っ赤になった。
藤堂君は元気づけるように笑顔でのぶ美に
「明日またホテルでお腹いっぱい食べればいいだろ」と子供をあやすように励ました。
のぶ美はコクンとうなずいた。
肩車から降ろす時、のぶ美のほっぺにchu!とキスしてくれた。
「おやすみ、のぶ美」
のぶ美はさらに真っ赤になりながら、これだけでも、ラプランド共和国へ来た価値がある、と思った。
食事が済むと、女の子ら3人は、そそくさと、部屋の隅にある仮眠場所へ行き、毛布にくるまった。
のぶ美はすぐに大きないびきをかいて眠ってしまった。
ベッドが変わるとなかなか寝付けないとの子も不思議と眠くなり、そのまますぐに眠ってしまった。
ジュノも眠ったようだ。
藤堂君は椅子に座っていた。部屋には蝋燭が一本だけ灯されていた。
藤堂君はうつらうつらと意識が飛んだ。




